第8話 VS針蜥蜴

 力強く踏み込み、俺が針蜥蜴ニードルリザードに接近しようとした直後だった。


「シーッ!」


「――――!」


 針蜥蜴はその場でぐるりと回転させ、その勢いを利用し針を放ってくる。

 その数は五本。一本一本が大きく、確かな殺傷力を秘めていた。


(これで先端には毒が塗られてあるんだから、厄介この上ないな)


 とはいえ、ただやられてやるほど俺は甘くない。


「パリィ」


 三本は身のこなしで回避し、残る二本は【パリィ】で左右に弾き飛ばす。

 五本の針は俺に触れることすらできず、次々と壁や地面に突き刺さっていった。


 これで針蜥蜴の尻尾から針がなくなり、こちらが攻撃するチャンスが回ってくる。

 仮に俺が初見なら、間違いなくそう確信していただろう。


 しかし次の瞬間、尻尾からは新たに何本もの針が生えてきた。

 それを見た俺は小さく笑みを零す。


「……まっ、そりゃそうなるよな」 


 そう。実は針蜥蜴の針は、奴が内部で魔力を変換して生み出しているのだ。

 そのため、敵のMPが尽きるまで【ニードルショット】が止むことはない。


 もっとも、それくらいは初めから想定通り。

 俺は針が生えそろったのを見ると、再び接近を試みる。

 すると、


「シュー!」


 敵を一定の距離以上は近付けないという本能に従い、針蜥蜴が【ニードルショット】を放ってくる。

 それを俺はもう一度、回避と【パリィ】で全て防ぎきった。


 手応えを感じ、俺はこくりと一つ頷く。


「うん、この様子なら問題ないな」


 【棘針の巣窟】の継承祠グラント・ポイントの出現条件の一つが、針蜥蜴のMPを0の状態で討伐すること。

 つまり、敵の【ニードルショット】を全て凌ぎきる必要があるのだ。

 そのため、俺は敵に隙が生まれても、まだトドメを与えるつもりはなかった。


「よーし、この調子でどんどんいこう!」


 気合を入れ直し、俺は敵の攻撃を凌ぎ続けるのだった。



 その後も【ニードルショット】を放ってくる針蜥蜴。

 変化が訪れたのは、放たれた本数が100を超えたあたりだった。


「――シーッ!?」


 これまで通り体を回転させた針蜥蜴だったが、【ニードルショット】が発動することがなかった。

 尻尾に針がない――つまり、魔力切れになったからだ。


「ようやくか」


 全ての準備が整ったことを確認した俺は、ショートソードを強く握りしめ接近を試みる。

 今度は演技ではない。ヤツが混乱しているうちに倒し切るつもりだ。

 針蜥蜴もただでやられてやるつもりはないのか、【ニードルショット】を諦め生身のまま応戦してくる。


 しかし――


「シャー!」


「パリィ」


「ッッッ!?!?!?」


 針攻撃を失った針蜥蜴の動きは遅く、それこそ昨日倒した指導騎士にも劣る。


 俺はパリィで敵の尻尾攻撃を弾くと、そのまま力強く剣を振り下ろした。

 白銀の刃が、針蜥蜴の硬い鱗ごと切り裂く。


「シャーッ!?」


「まだだ」


 痛みに悶える針蜥蜴に対し、続けて何度も攻撃を浴びせていく。

 やがて幾つもの剣跡がその身に刻まれ、針蜥蜴は身動き一つとれなくなった。

 俺は最後に、頭上高くからショートソードの切っ先を振り下ろし、針蜥蜴の頭部を貫いた。


『経験値獲得 レベルが2アップしました』

『ステータスポイントを4獲得しました』


 鳴り響くシステム音。

 無事に討伐が完了したみたいだ。


 そして、さらに――



『本ダンジョンを単独ソロで攻略したことを確認しました』

『ボスとの戦闘において、HPが一切減少していなかったことを確認しました』

『討伐時、ボスのMPが0になっていたことを確認しました』


『全ての条件が達成されました』

『扉が生成されます。キーワードを使用し中に入場してください』



 次々とシステム音が鳴り響き、【新兵の鍛錬所】と同じように扉が現れる。

 それを見た俺はにっと笑みを浮かべた。



「さあ、二つ目の継承スキルを獲得しに行くとするか」


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