第6話 継承祠

 指導騎士討伐後。

 しばらくその場で待っていると、突如としてシステム音が鳴り響いた。



『本ダンジョンを単独ソロで攻略したことを確認しました』

『ボスとの戦闘時、挑戦者のレベルが10未満であったことを確認しました』

『ボスとの戦闘において、HPが一切減少しなかったことを確認しました』


『全ての条件が達成されました』

『扉が生成されます。キーワードを使用し中に入場してください』



 システム音の後、ボス部屋の奥の壁に一つの扉が現れる。

 それを見た俺は小さく笑った。


「よかった。継承祠グラント・ポイントのシステムはちゃんと生きていたみたいだな」


 もし扉が現れなかったり、条件が変更されていたりしたら、さっそく方針を変える羽目になっていた。

 だが、どうやらその心配は必要なかったようだ。


 俺は扉の前まで移動すると、「ごほん」と一つ咳払いする。

 そして扉に手を当てながら、指示通り【剣の紋章】用のキーワードを告げた。


「“鋭き刃よ、我が手に宿れ。ここに真の剣士への道が開かれん”」


 その直後だった。



『キーワードを確認しました』

『扉が解放されます』



 システム音が鳴り響き、扉がゆっくりと開いていく。


「……いくか」


 中に足を踏み入れると、そこには神聖な雰囲気を纏う祠が存在していた。

 これこそ、クレオンにおける最重要システム――継承祠グラント・ポイントだ。


 俺は左手の甲に刻まれた紋章を祠に見せる。


「それじゃ、頼む」



『紋章を確認中です』

『紋章名:【無の紋章】を確認しました』

『条件を満たしています。これよりスキルが継承されます』



 その時、継承祠から淡い純白の光が放たれたかと思うと、そのまま俺の紋章に吸い込まれていく。

 数秒ほどそれが続いた後、光は全て俺に左手に吸い込まれた。


 直後、俺の目の前に複数のメッセージウィンドウが現れる。



『継承を完了しました』

『スキル【パリィ】を獲得しました』



――――――――――――――――――――


【パリィ】Lv.1

 ・剣のスキル

 ・タイミングよく斬撃を当てることで、敵の攻撃を弾くことができる。


――――――――――――――――――――



 その表示を見た俺は、力強くガッツポーズする。


「よし、成功だ!」


 狙い通り、【新兵の鍛錬所】における継承スキル【パリィ】を獲得することができた。


 【パリィ】の効果はいたってシンプル。

 他の一般的なゲームと同様、敵の攻撃を弾くことが可能だ。

 威力差がある場合は発動できなかったりもするのだが、それはさておくとして。


 俺が最初に【パリィ】を入手したかった大きな理由がある。

 説明を見れば分かるかもしれないが、このスキルの発動条件はプレイヤーの技量に委ねられており、MPを消費する必要がないのだ。

 MP管理に苦戦する序盤において、これ以上なく活躍してくれるスキルでもある。


 よりイメージしやすくするなら、先ほどの指導騎士戦。

 俺がパリィを有していれば、わざわざ回避に徹することなく、真正面から敵の攻撃を弾いて一方的にダメージを与えることができた。

 それほどまでに万能なスキルなのだ。


「なにはともあれ、【無の紋章】でもちゃんと継承スキルが獲得できることが分かって一安心だな。この調子であらゆる紋章のスキルを使えるようになれば、最強にたどり着くのもそう遠くないはずだ」


 体中にやる気が灯る。

 俺は明日からもどんどんスキルを獲得していくんだという気合を入れた後、【新兵の鍛錬所】を後にするのだった。



 ◇◆◇



 翌日。

 俺はさっそく次のFランクダンジョン【棘針きよくしん巣窟そうくつ】(攻略推奨レベル:18)にやってきていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る