第5話 初めてのボス戦

「ァァァアアアアア!」


 軽鎧の指導騎士が野太い雄叫びを上げながら斬りかかってくる。

 指導騎士の最大の武器は、その身軽な体から放たれる高速の剣撃。

 その剣筋は鋭く、レベル一桁の冒険者ならまず躱せない速度だ。


 だが――


「遅いな」


 俺は冷静さを崩すことなく、簡単なステップでその全てを回避した。


「――ッッッ!?」


 驚きの声を漏らす指導騎士。

 なぜ自分の攻撃がこんなに簡単に躱されるのか、理解できていないのだろう。


「――ッ、ガァァァ!」


 その後も指導騎士は、諦めることなく攻撃を仕掛けてくる。

 俺はひとまず回避に徹し、敵のフラストレーションを溜めることに集中していた。


 五回ほどそんな攻防を繰り返していると、ふと指導騎士の動きがピタリと止まる。

 かと思えば、長剣を上段に高く構えなおした。


(――――来る)


 俺が気を引き締めた直後、指導騎士の体と長剣が青白い光に包まれる。


 あの光はスキルを発動する前兆だ。

 そして、指導騎士が有しているスキルは【ソード・ブースト】だけ。

 MPを消費することで、数秒だけ剣速を上昇させる技だ。


「ガァァァアアアアア!」


 指導騎士は雄叫びを上げながら、力強い踏み込みで俺に迫ってくる。

 それを見て、俺はにやりと笑みを浮かべた。


「それを使うのを待っていた!」


 ここまでは想定通り。

 【ソード・ブースト】は発動を終えると、わずかに硬直時間が生まれるという欠点がある。

 俺は初めからその隙をつき、ダメージを与える算段だったのだ。


(とはいえ、その前にまずこの攻撃自体をなんとか凌がなくちゃな)


 速度も威力も、先ほどまでとは比べ物にならないほどの勢いだ。

 躱すのはもちろん、ステータス差がある現状では受けきることもできないだろう。


「なら――」


 俺は剣をかざし、指導騎士の長剣を受け止める――かのような動きを見せた直後、巧みな力加減で敵の刃をするりと受け流した。


「ッ!? ァァァア!」


 指導騎士は驚愕の声を漏らしながら、二振り、三振りと攻撃を仕掛けてくる。

 しかし、


「何度やろうと同じだ」


 その全てを、俺はこの身に掠れさせることなく凌ぎきる。

 そして四振り目が終わった瞬間、とうとう青白い光は霧散し、指導騎士の動きがピタリと止まった。


「ここだ!」


 鎧の隙間を狙って放たれた俺の一振りが、見事に指導騎士に命中する。


「ァァァアアアアア!」


 絶叫が、ボス部屋いっぱいに響き渡った。

 指導騎士は硬直が解けた瞬間に振り返ると、怒りを晴らすように反撃を試みる。


 ――だが、遅い。

 ヤツが振り返った時には既に、俺は続く二振り目を放っていた。

 俺の刃は指導騎士の右肘に直撃。そのまま肘から先を切り飛ばした。


「ッッッ!?」


 片腕になった指導騎士が、怒りの籠った目で俺を睨む。

 それを俺は、軽い笑みで受け流した。


「スキルを使ったのは間違いだったな。もともとのステータス差がある以上、ただ速度で押し切られる方がよっぽど厄介だった」


 まあ、それが通用しなかったからスキルを使ったんだろうが――

 どちらにせよ、初めからコイツに勝ちの目など存在しなかった。


「いくらお前が速くても、腕一本でどうにかできると思うなよ」


「ッッッ!?」


 慌てて左手一本で直剣を振るう指導騎士。

 だが、パワーもスピードも先ほどまでとは比較にならないほど劣っていた。

 俺は真正面から敵の攻撃を弾き、ショートソードを強く握りしめる。


「これで終わりだ!」


 渾身の一振りが指導騎士に命中し、その胴体を真っ二つに両断する。

 指導騎士は断末魔の声だけを残し、ゆっくりとその場に崩れていった。


 こうして見事、俺は初めてのボス戦に無傷で勝利するのだった。



『経験値獲得 レベルが3アップしました』

『ステータスポイントを6獲得しました』



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 ゼロス・シルフィード

 性別:男性

 年齢:15歳

 紋章:【無の紋章】


 レベル:12

 HP:120/120 MP:60/60

 筋 力:20

 持久力:12

 速 度:20

 知 力:12

 幸 運:12

 ステータスポイント:6


 スキル:なし


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