第3話 【新兵の鍛錬所】

 翌日。

 俺はさっそくシルフィード領近くにあるFランクダンジョン【新兵しんぺい鍛錬所たんれんじょ】にやってきていた。

 武器は家から持ち出したショートソードだ。


――――――――――――――――――――


【ショートソード】

 ・いたってシンプルな剣。

 ・装備推奨レベル:1

 ・攻撃力+3


――――――――――――――――――――


 クレオンの攻撃力は複雑な計算式によって求まるのだが、前衛職の場合は基本的に筋力とイコールだと考えていい。

 攻撃力+3は剣としてかなり抑えめではあるものの、序盤においては決して侮れない数値だった。


「あとは道中の魔物を倒して幾つかレベルアップすれば、ボスにも挑戦できるくらいにはなるはずだ」


 決意を固めた俺は、とうとう【新兵の鍛錬所】の中に入るのだった。




 ダンジョンの中は、暗い遺跡型の迷路となっていた。

 辺りを見渡した俺は、懐かしさを感じて頬を緩ませる。


「そういや、新兵の鍛錬所に来るのなんていつぶりだ? ここで獲得できる継承スキルは【剣の紋章】用だから、メインキャラで攻略しに来た以来じゃないか?」


 さらに驚いたのが、ダンジョン内のマップがゲーム内とほとんど同じであるということ。

 最後に攻略したのがかなり前とはいえ、低ランクダンジョンのマップはシンプルなものが多い。記憶に間違いはないはずだ。


「ギャッ!」


「――おっと」


 などと考えていると、さっそく初めての魔物と遭遇する。

 棍棒を手に持つ、緑色の小鬼――RPGの定番敵であるゴブリンだ。


「ステータス」


 そう唱えると、目の前にメッセージウィンドウが出現する。


――――――――――――――――――――


【ゴブリン】

 ・討伐推奨レベル:5


――――――――――――――――――――


 表示されたのは名前と討伐推奨レベルだけだった。

 クレオンと同様、かなり簡易的なステータスだ。

 これがダンジョンボスやネームドモンスターになると、詳細な情報が書かれたりもするんだが……


「それはさておき、討伐推奨レベルが5か」


 現在、俺のレベルは1。

 少し差は開いているが……


「うん、問題ないな」


 俺は迷うことなくそう頷いた。


 というのもだ。『クレスト・オンライン』の戦闘システムにおいて、勝敗を決める重大な要素が三つ存在する。

 一つはレベル。これはRPGである以上、当然と言えるだろう。

 もう一つはスキル。MPを消費して様々な技を発動してくれるスキルは、ありとあらゆる場面で活用することができた。


 そして、最後の一つがプレイヤースキル。

 クレオンでは前者の二つに並ぶか、それ以上にこちらが重要だった。

 プレイ時間や課金額が全てではなく、本人の技量や立ち回り次第では格上相手にも勝利を収めることができる。

 だからこそクレオンは幅広いプレイヤーに人気を博していたのだ。


 そしてそんな中で、俺は世界ランク1位にまで辿り着いた存在。

 プレイヤースキルについては語るまでもなく、最高峰の実力を有している。

 

 つまり――


「お前程度、相手にはならないってわけだ」


「ッ、ガァッ!」


 襲い掛かってくるゴブリン。

 棍棒を高く振りかぶるも、非常に緩慢な動きだった。


「よっと」


「――――ッ!?」


「はあっ!」


 軽い身のこなしで敵の後方に回り込んだ俺は、そのまま隙だらけの首筋に剣を振り下ろす。

 弱点に命中したことでクリティカルヒットが発生したのか、たった一振りでゴブリンの首が宙を舞った。


「うん、予想通り、クレオンでの経験はこの世界でも活かせるみたいだな」


 達成感とともにそう呟いた直後、システム音が鳴り響く。



『経験値獲得 レベルが1アップしました』

『ステータスポイントを2獲得しました』



「よし、幸先がいいぞ」


 それを確認した俺は、にっと笑みを浮かべた。

 このペースなら、順調にレベルを上げていけそうだ。


 そんな風に考える俺の前で、ゴブリンの死体がシューッと蒸気となって消滅していく。あとには小さな魔石だけが残されていた。


「っと、魔石の回収も忘れずにしなくちゃな」


 魔石は売却すると、それなりのお金になる。

 俺は道具袋の中に魔石を入れると、そのまま自分のステータスを確認した。



――――――――――――――――――――


 ゼロス・シルフィード

 性別:男性

 年齢:15歳

 紋章:【無の紋章】


 レベル:2

 HP:20/20 MP:10/10

 筋 力:2

 持久力:2

 速 度:2

 知 力:2

 幸 運:2

 ステータスポイント:2


 スキル:なし


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