第2話 1000年後の世界

 【紋章天授ゴッデス・ブレス】を終えた、その日の夜。

 俺はシルフィード家の屋敷にて、改めて情報を整理していた。


「とりあえず、ここが『クレスト・オンライン』で俺たちがプレイしていた時代から1000年後の世界なのは間違いなさそうだ。そんでもって俺は、シルフィード領を治める侯爵家の次男ってわけか」


 ゲームでシルフィードという家名は聞いたことがない。

 まあ、1000年も経っているんだ。情勢が変化するのも当たり前。

 その観点で考えると、家名どころか国すら変わっていても不思議ではないが――


「アレクシア王国……どうやら、国自体はそのままみたいだな」


 驚くのはそれだけでない。

 ゼロスの記憶と様々な資料を照らし合わせて調べたところ、どうやら大雑把な地図やダンジョンについても大きな変化はないのだ。

 俺がゲームで得た知識が、そのまま活かせそうな状況だった。

 1000年以上の時を生きる種族が当たり前に存在する異世界ゲーム世界だからこそ、起こりうる状況といったところだろうか。


「よし、だいたいの事情は把握できた。次はどうして、この世界で【無の紋章】が無能扱いされているかについてだな」


 その理由もすぐに分かった。

 継承祠グラント・ポイントの巡回――つまり継承スキルの獲得は、クレオンにおいてプレイヤーしか使っていなかったシステムである。

 時にはNPCを連れて行くこともあったが、それは例外中の例外。

 プレイヤーがいなくなったこの世界では、そのシステムを誰も知らないのだろう。


 だからこそ紋章の価値は、継承スキルを除いて判断されるようになった。

 継承スキルしか獲得できない【無の紋章】が無能扱いされ、代わりに【全の紋章】がもてはやされるのも当然の話だ。


「その証拠に、父上も俺の紋章を見るや否や、すぐに教会から帰ったしな……」


 ――デューク・シルフィード。

 シルフィード侯爵家の当主であり、【魔導の紋章】を持つ俺の父親だ。

 彼は俺の紋章を見た後、無表情のまま『お前に告げることは何もない』と言い残し教会を後にした。


 デュークは良くも悪くも実力至上主義の人物。恐らく俺が優秀(と言われている)紋章に選ばれなかったのを見て失望したのだろう。


「まあ、Web小説みたいに即追放とならなかっただけ大分マシかもな……」


 今のところ、屋敷から出ていけなどの命令は下されていない。

 もしかしたら、後になって言ってくるかもしれないが……自分ではどうしようもないことを考えても仕方ない。

 それよりも今は、今後の計画を立てるべきだ。


 先ほども言った通り、どうやらこの世界では継承祠グラント・ポイントの存在が知れ渡っていない。

 それは逆に言うと、この世界でそのシステムを活用できるのは俺だけということ。


「この状況を活かさない手はない。そのためには……」


 そう呟いた後、俺は心の中で小さく【ステータス】と唱える。

 その直後、目の前にはゲームで見慣れたウィンドウが浮かび上がった。



――――――――――――――――――――


 ゼロス・シルフィード

 性別:男性

 年齢:15歳

 紋章:【無の紋章】


 レベル:1

 HP:10/10 MP:5/5

 筋 力:1

 持久力:1

 速 度:1

 知 力:1

 幸 運:1

 ステータスポイント:0


 スキル:なし


――――――――――――――――――――



「うん、やっぱりこっちでもステータスは見れるみたいだな。紋章欄にも、確かに【無の紋章】と記されている」


 改めて、今の自分に与えられたありがたい境遇を実感する。

 俺が世界ランキング1位を取ったキャラの紋章は【剣の紋章】だったが、その他のサブアカウントでは【魔導の紋章】、【弓の紋章】、【治癒の紋章】など、多種多様のプレイングを楽しんでいた。 


 【無の紋章】なら、その全ての経験を活かすことができるはずだ。

 まるで誰かが用意してくれたかのように整った状況。


 ……いや、それこそ本当に、俺へメッセージを送ってきた運営が関わっているのかもしれない。


 何はともあれ、だ。

 今の俺には【無の紋章】に加え、一万時間を超えるプレイで得た技術と原作知識がある。

 ここが1000年後の世界であろうと、活かせる場所は無限に存在するはずだ。



「決まりだな。こんな状況、ゲーマーとしてワクワクせずにはいられない……俺はこの世界でもう一度、最強になってやる!」



 こうして俺は、この世界で最強を目指すことを決意するのだった。



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