第二章 リーベン島編

第11話 リーベン島上陸


 ゴルドホークを出て一ヶ月弱。色々あったが遂に到着した。


 リーベン島、フドウの里。


 どこの町とも違う雰囲気がある。

 木材を使った建物が多く、屋根には四角く型取った石版が鱗の様に並べられている。他の町のような高い建造物が無い。

 ユーゴにとって、すごく落ち着く街並みに感じた。


「そういえば、ゴルドホークを出てから一度も武具のメンテナンスをしてないな。まずは鍛冶屋に行くか?」

「そうだね、預けてからホテル探そうか」


 地図も無い為、地理が分からない。

 船着場にいる人に声を掛けた。


「ここから鍛冶屋街のある中心街は結構遠いから、馬で移動したほうがいいよ。向こうの馬屋に返してくれたらいいから」

 

 この町は、里長さとおさと呼ばれる人の屋敷を中心に、東西二つの区に別れているらしい。


 東は診療所や薬屋、服屋を中心とした『メイリン区』

 西は鍛冶屋街や食料品売場を中心とした『リンドウ区』


 里長の屋敷と、二つの区が合わさった辺りが、この里の中心地として賑わっているようだ。


 建物もそうだが、衣服も独特だ。

 一枚布を加工した服を羽織り、腰あたりで結んでいる人が多く見られる。大陸のシャツとパンツを着ている人もいるが。


「へぇ、あの服可愛いなぁ」

「確かに、柄がいっぱいあっておまけに涼しそうだ」


 馬は勝手に目的地まで駆け抜けてくれた。そう調教されているらしい。


 目的の鍛冶屋街に着いた。

 そこら中から金属を叩く音が聞こえてくる。適当な店に入って声を掛けた。


「すみません、武具の整備をお願いしたいのですが」


 皆の武具を渡すと、一度三人を睨みつける様に見回した後、無言でチェックし始めた。


 ――愛想悪いな……職人気質ってやつか。

 

 ユーゴの刀を見て動きが止まった。

 そして上目で三人に問いかけた。


「おい、この刀どこで手に入れた」

「え? あぁ、父から譲り受けました」


 ユーゴの目を、上目のまま真っ直ぐに見つめている。鍛冶屋の男は暫しの沈黙の後、スッと立ち上がり歩き始めた。


「ついて来い」


 言われるがまま後に続き、鍛冶屋街の一番大きな屋敷に連れてこられた。

 何か気に障っただろうか、船の操縦士ですらとんでもない戦士だ。三人に緊張が走る。


 更に大きな鍛冶場の主人の前に通された。30歳前後だろうか、かなり厳つい風貌だ。先程の無愛想が、更に無愛想な主人に耳打ちする。


 主人は腕組みしたまま、真っ直ぐにユーゴを見て問いかけた。


「おい、この刀ぁ父親から譲り受けたんだって?」

「はい」

「父親の名前は」

「シュエン・グランディールです」


 主人の片眉がピクッと動いた。


「グランディール……?」

「はい、グランディールは母方の性だと聞いています」


「……ちょっと待て、母親は人族か?」

「はい、もう亡くなりましたが」


 厳つい主人は、ユーゴをじっと睨んだまま考え込んでいる様子だった。


「おぇだけついて来い……連れは、そうだな。お前ぇら! 後ろの二人を観光にでもお連れしろ!」

「へいっ!」


 トーマスとエミリーは、厳つい男達と観光と言う名の市中引き回しに出かけた。


 ユーゴはたらい回しだ。

 次はどこに連れて行かれるんだろうと不安が増す。抵抗したら潰される、それだけは分かる。


 

 二人が心配だがどうしようもない。

 ユーゴは里の中でも一際大きい屋敷の門前にいる。厳つい主人が門番と話をしている。

 

 話が通ったようだ。


「ついて来い」


 たらい回しに継ぐたらい回し。


 ――どうなるんだろうオレ……。


 木造の門をくぐり、一直線に伸びる石畳を歩く。小上がりになった入口で靴を脱ぐように促され、板敷の通路を進み、最奥の部屋に案内された。

 乾いた植物を、隙間なく綺麗に編み込んだ様な敷物が敷き詰められた部屋だ。嗅いだ事のない良い匂いがする。


 一段高くなった場所に老人が座っている。

 60歳前後だろうか。しかし黒々とした艶のある髪を後ろに束ね、黒い髭を蓄えた凛とした老人だ。その両脇には30代半ばくらいの男が二人侍っている。

 三人とも只者ではない。それだけは痛いほど伝わる。


「なるほど、面影はあるな」


 ――え……? なにが?


 静かに喋り始めた老人は、そのまま話を進めた。


「先ずはわしから名乗ろう。クリカラ・フェイロックだ」


 ――クリカラ……どこかで……聞いたことが……。


「クリカラ……龍王……!? 龍王クリカラ! ……様ですか!?」

「そう呼ばれた時期もあったな」


『始祖四王』龍王クリカラ。

 目の前の老人がそう名乗った。

 雷に打たれた様な衝撃に、開いたままの口を塞ぐことが出来なかった。

 目の前の三人の視線で我に返り、ユーゴはようやく喋り始めた。


「ユーゴ・グランディールです」

「グランディール……か。母が人族なのは間違いないのだな? 髪が黒くは無かったか?」

「はい。髪は栗色に近かったと記憶しています」

「左様か……おぬしの父、シュエン・フェイロックは儂の息子だ」


 ――何て言った……? フェイロック?


「お主は儂の孫ということだ」


 ――ちょっと待て……クリカラは龍王だ。父さんは龍族って事か?


 自分が始祖四種族の血を引いていると、少しは事前に聞いていたとはいえ、その衝撃はかなりの物だった。


 ――オレは龍族と人族のミックス・ブラッドって事か……。


「混乱しておるか? 無理もない。順を追って話そう。昔シュエンにもこんな時があったな」


 目の前の伝説の人物が話し始める。

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