第3話 Aランク冒険者への道


「ほぉ、ロックリザードか。こいつの体皮は防具にいいぞ」

「じゃ、倒したら防具が新しくなるね!」


 Aランク冒険者にランクアップするついでに、防具も強力になる。三人にやる気が漲る。


「ランクアップ試験の条件は要らないか?」

「いや、聞いとくよ」


 三人以下のパーティであること。

 全員がBランク以下であること。

 試験の達成は、勿論ロックリザードの討伐だ。


「Bランクの試験の時も疑問だったんですが、高ランク冒険者に手伝ってもらったり、四人以上で倒したり、体皮を買ったりしても分からないんじゃないですか?」


 トーマスが、髭面に前々からの疑問を投げかけた。

 

「いいや、不正は出来ないようになっている。冒険者カードには各個人の魔力が登録されているからな。今から受付でお前らのカードを同期するんだが、お前ら以外の魔力の干渉があれば分かるようになっている。だから三人で依頼をこなす他にないな。まぁ、他にも細かい条件はあるが、三人で行くなら関係ない話だよ」


 他にもどんな魔物と交戦したかなど、魔力の干渉をカードが記録する仕組みになっている為、不正を働く事が出来ない様だ。

 

 不正で高ランクを取得したような者がパーティにいれば確実に壊滅する。上手く出来ているものだと三人は関心し、納得した。


「ただ、Aランク以上の依頼品はかなり高額なんだが、商人なんかが高ランクの依頼品を金で買うことはあるな。商人が依頼を受けるようなことは無い、死にたくは無いからな。城郭都市に入る際に関所に並ぶのを避けるためだ、それは黙認しているのが現状だな」


 冒険者カードは身分証明になる。中でもAランク以上のカードは身分証明の最たるもので、関所での検問を免除される他、様々な恩恵を受けられるようだ。

 魔力は一人として同じものはない。指名手配でもされようものなら、登録された魔力を元に追われ、逃げ果せる事はない。

 

「そういうこともあるのか……じゃあ、この内容でランクアップ試験の受付頼むよ」

「あぁ、分かった。冒険者カードを預かる」


 剣士

 ユーゴ・グランディール

 

 盾士

 トーマス・アンダーソン

 

 回復術師

 エミリー・スペンサー


 

「受け付けたよ。頑張ってこい」

 

 相手は決まった。

 あとは倒すだけだ。



 ◇◇◇



 次の日の朝。

 ユーゴの家は町外れだ。余裕を持って準備を終え、冒険者ギルドへ歩を進める。

 ユーゴが入口付近のテーブルに着いてすぐ、二人も到着した。トーマスはもちろん、エミリーも普段は真面目な冒険者だ。時間にルーズなどという事はない。主要レースには早朝から並ぶほど朝には強い。

 三人揃って鍛冶屋街へ。

 

「ダンさん、おはようございます」

「おはよう、待ってたよ」

 

 綺麗に整備された防具は、既にカウンターに並べて準備されていた。とはいえ数年身に付けている防具だ、傷や破れは隠せない。

 鞘から抜いた刀は、見違える程に美しく輝いている。


「では行ってきます」

「あぁ、気をつけてね」


 お代を支払って店を後にした。

 エミリーは無一文だ。杖の整備は必要ないが、革防具の代金は立て替えた。

 報酬から差し引けば問題ない。

 

 依頼のロックリザードは、採掘中の坑道に住み着いたらしい。

 ロックリザードはAランクの魔物だ。魔物のランクは、同ランクの攻撃役アタッカー盾役タンク回復役ヒーラーの基本の三人パーティーで一体倒せる事を想定して付けられる。Aランクの魔物が複数体いる場合は、Sランクの依頼になる。

 Sランクを超える冒険者は、Aランクの魔物を一人で瞬殺するほどの猛者だ。シュエンはそのランクにいる。


 リザードの名から四足歩行のトカゲを想像するが、実際は二足歩行の小さいドラゴンのような風貌だ。しかも、体皮が岩のような鱗に覆われて相当硬いらしい。


「一回見かけたやつだよね」

「あぁ、あの時は必死に逃げたな」

「どれくらいの大きさだった? 遠かったからそんなに大きくは見えなかったけど、所詮はトカゲでしょ?」


 分からない事を議論するほど愚かな事はない。ひたすらに徒歩で岩山を上り、依頼場所の坑道を目指す。


「ここだな、流石に灯りは着いてないか」

「暗かったらマジックトーチ着けるよ」


 マジックトーチは魔力で点火する松明だ。

 小型で軽量なうえに、少ない魔力で明るく照らせる魔法具だ。


「よし、準備はいいかい? 入るよ」


 そう言ってトーマスは左手に盾を構えた。後ろに二人が続いて、坑道の中に向けて歩みを進める。

 十数歩入っただろうか。光が全く入らない坑道内は、右も左も分からない闇の中だった。


「やっぱり暗いな」


 トーチに点火する。

 と、数歩先にいきなりドラゴンが現れた。


「「「ギィャァァァ――!!」」」


 突然の遭遇に、三人は坑道から一目散に逃げ出た。


「おい! 何だよ今の!」

「あぁビックリした……心臓止まるかと思った……」


 まだドキドキしている。息を整えていると、坑道からゆっくりと何かが出てきた。

 ロックリザードだ。


「そ……外におびき出す事には成功したな……」

「たまたまだけどね……」

「思った以上に大っきいんだね……」


 小さなドラゴンとはよく言ったもので、二足歩行の大トカゲが、岩のような鱗を全身に纏い三人を睨みつけている。


「Aランクの魔物だ! 気を抜いたら死ぬぞ!」

「守りは任せてくれ!」


 こいつを倒せばAランク冒険者だ。

 三人の顔が引き締まった。

 

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