第2話 鍛冶屋街
ゴルドホークは鉱山で発達した町だけあって鍛冶屋が多い。鍛冶屋だけでなく武器屋と防具屋も揃っている。その中で、シュエンがよく通っていた鍛冶屋に入った。
「お邪魔します。ダンさん、お久しぶりです。ユーゴです」
「おぉ、久しぶりだね。シュエンは元気かい?」
「父さんは旅に出ました。ここには寄ってないんですね」
トーマスとエミリーが驚いた表情でユーゴを見る。
「えっ、シュエンさん旅に出たんだ」
「あぁ、ご丁寧に置き手紙を添えてね」
「そうか、ユーゴ君も独り立ちか。で、挨拶しに来た訳じゃないだろう?」
「はい、武具の整備をお願いしに来ました」
そう言って、革製の鎧、
「ほぉ、これは見事な刀だね。二級品でも上位ってとこか」
「二級品!?」
ダンの言葉に、エミリーが目に止まらぬ速さで振り向きヨダレを垂らす。
「おい、売らねーぞ! 父さんから譲ってもらったもんだからな!」
「チッ、分かってるよ……」
金が絡んだエミリーは油断ならない。今後気をつけようとユーゴは心に誓った。
「そうそう、気になってたんだよ。シュエンさんの刀だったのか。二級品とはすごいな」
「あぁ、若い頃に使っていた刀らしい。ダンさん、一級品ってやっぱり高いんですか」
「あぁ、こんな田舎では扱えないよ。王都ですら滅多にお目にかかれない。それを超える『特級品』もあるよ。見たことも無いけどね」
「僕の剣と盾は三級品の下位だもんな……憧れるね」
ダンの店には修理を頼みに来たが、武具も扱っている。
片手剣、双剣、両手剣、両手大剣が所狭しと並んでいる。
片手剣は主に盾を装備し盾役に。
双剣はスピードタイプ。
両手剣はバランスタイプ。
両手大剣はパワータイプだ。
槍や弓、他にも特殊な武器が存在する。
ユーゴが持つ刀もその一つ、バランスタイプで特に斬ることに特化した武器だ。
「刀は大陸の東にあるリーベン島の特産品だね。シュエンはそこの出身だと聞いたことがあるよ」
「へぇ、そうなんですね。聞いたこと無かったな」
――リーベン島、置き手紙に書いてあった島の名だ。
ユーゴは髪が黒い。父であるシュエンもそうだ。シュエン以外に、黒髪の人族に出会ったことがない。相当珍しい髪色なのは間違いなかった。
そのリーベン島に行けば、自分のルーツを知ることができるかもしれない。
「トーマス、エミリー。オレ、リーベン島に行ってみたいんだ」
「僕はもちろんついて行くよ。世界を見て回りたい」
「私も行くよ! 世界中のギャンブルが待ってるからね!」
無一文のエミリーは、にこやかにそう言い放った。二人は何も言わない。言っても無駄な事を知っているからだ。
「ありがとう。まずはAランクにならないとな!」
「ほぉ、Aランクに挑戦するのかい? じゃ、気合い入れて整備しないとね。明日の朝には仕上げとくよ」
「はい、よろしくお願いします!」
そう言って三人は店を後にした。
カイトシールドの枠に、クロスした剣と牙を剥いた獅子のシンボルマーク。その下の両開きのドアを開けると、武具を身に纏った男女で賑わっている。
ゴルドホークのギルドにはSランク冒険者はいない。Aランクもほぼいない。理由は、さらに大きな町へ流れていくからだ。
冒険者ギルドの依頼は、人々の暮らしの範囲内でしかない。遠く北に広がる山のとんでもないランクの魔物達は、彼らの生活に支障をきたさない限りは依頼には上がらない。依頼のランクや数の違いから、都会の方が報酬が良いのだろうと推測できる。
入口に入ると、正面にある受付カウンター。ここで依頼の受注と達成報告をする。
代わり映えしないいつもの髭面に声を掛ける。
「おう、三人で来るたぁ久しぶりだな。何の用だ?」
「Aランクの試験を受けたくてね」
「へぇ、もうAランクを受けるのか。お前らがCランクのガキの頃から見てるもんな」
「いいのある?」
「Aランクは……この三枚だな」
三つとも強力な魔物の討伐依頼だ。
護衛や採集依頼などはない。
「依頼の選定が難しいね」
「混ぜてテーブルの上に伏せてよ。私が引くからさ」
「お前はこんな時まで博打かよ!」
エミリーの提案にユーゴが声を荒らげる。
が、そう言って直ぐに考えを改めた。
「いや……決められないんじゃそれもありかもな。よし、それで行こう」
三枚の依頼書を混ぜて、テーブルに並べる。
裏返った依頼書を真剣に吟味するエミリーが、ようやく一枚に手を伸ばした。
「これだー!」
表を向いた依頼書を三人が覗き込む。
ロックリザード。
ランクアップ試験の相手は決まった。
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