第二十八話 ハワイ沖海戦 1

潜水艦などの情報から予測される米艦隊よりも規模が小さい。別働隊がいると見て間違いないとお偉方は言っていたが、それでもまずは目の前の敵を倒す事に全力を尽くす。

 茂庭智蔵大尉と吉田拓哉中尉のペアは新たに受領した機体を駆り米海軍上空に向かった。

九九艦爆二四型、二二型の防弾能力強化と発動期に水メタノール噴射装置を搭載し瞬間出力と防御力向上を図った機体だ。

その分発動機の寿命は縮むが彼らにとっては長く使うことより一瞬の生死に直結する能力の方が重要だった。

茂庭大尉の率いる蒼龍爆撃隊は今の所脱落者を出さずに米艦隊に迫っていた。

「もう間も無く見えてくるはずだ。敵も空母が居るはずだから敵機に注意しろ」


「右翼の零戦隊が動きます!」

吉田中尉が叫ぶのと、茂庭大尉が機体を横にそらすのは同時だった。


さっきまでの進路で飛んでい他場合の未来位置に弾丸のシャワーが浴びせられた。同時に九九艦爆のすぐ側を青色の樽みたいな戦闘機が通過して行った。

「九九艦爆二機落ちます!」

後ろを見張っていた吉田の視界の端に黒い筋が二つ生まれていた。

「誰の機体だ!」


「第三小隊二番機!もう一機は赤城飛行隊と思われます!」

だが護衛の零戦が動いたことで迎撃に上がったF4Fは拘束されてしまいそれ以上爆撃隊に被害が出ることはなかった。

雷撃隊との同時侵攻で数が多かった事が幸いしたのだろうが攻撃隊の試練はこれからだった。


艦隊が雲の隙間から見えた。

デカいのが三つとその周りに小さいのがいくつも…報告にあった艦隊だ!

「蒼龍爆撃隊、命令通りに行くぞ!」


無線に叫びながら彼は操縦桿を引き機体の高度をあげ始めた。その爆撃隊の進路を阻もうとするかのように空が一面黒くなった。かとお思えばプロペラが黒い霧を突き破って空の青さを取り戻そうとする。

機体が左右に揺さぶられ始める。

イギリスよりも比較にならねえくらいの弾幕だ!

空が真っ黒だ!今までとは次元が違う。




空母蒼龍の航空参謀は出撃前に茂庭らに米艦隊への攻撃の仕方を支持していた。

イギリス海軍より比較にならない対空能力を持っていると軍令部は開発されている兵器から逆算し想定していた。

強力な防空火器を相手に今までの戦法が通じなくなるのはイギリス海軍との戦いで少しづつ実感していた事もあり早急に対策が立てられた。

そのうちの一つが急降下爆撃で輪形陣外縁の艦を攻撃し防衛網に穴を開けると言うものだった。

茂庭も部下の命を救うためになるのならと大物食いではなく外縁の駆逐艦などを狙うことに同意したが、それが果たして意味のあるものだったのか今になって疑問に感じていた。

 外縁の駆逐艦をやれって言ってたがこれじゃあいくら命があってもたりん!

高角砲の炸裂に混ざって曳光弾が機体のいろいろなところを通過していく。あれが一発撃たれるごとに弾丸が五つくらいは空に上がっている。いつ機体に穴が開くか気が気ではなかった。いくら防御を強化しようとこの瞬間だけは安心できるものでは無い。


……それでも駆逐艦なら中央の空母とかよりも他の艦から援護を受けづらいはずだ。


そう言い聞かせて目標とした駆逐艦を捉えた。他にもう一小隊がその駆逐艦に狙いを定めたのだろう。六機が同時に機体を翻し降下に移った。


アメリカの駆逐艦は全艦が主砲が高角砲だってのは本当だな!

だが降下は狙えないだろう!


機銃も必死になって撃ち上げてくるが、急降下中の相手を照準して攻撃するのは至難の技だ。

当たらない弾などこけおどしに過ぎない。


機体を弾丸が掠ったのか機体が暴れる。それを押さえつけて六機が同時に250kg爆弾を切り離した。



切り離された爆弾は駆逐艦の魚雷発射管を直撃した。

装填された状態になっていた魚雷がまとめて誘爆し、駆逐艦の上部が吹き飛んだ。


運の悪い駆逐艦だと思いながらも、彼はそれ以上振り返ることなく生き延びるための飛行を続けていた。


蒼龍爆撃隊は艦隊右側の駆逐艦三隻を撃破し軽巡洋艦一隻の艦橋を破壊していた。

洋上で煙をあげて停止する駆逐艦を交わすように九七艦攻が艦隊中央部に飛び込んだ。


プロペラが海面を叩くスレスレの低空飛行で目標の戦艦と空母に飛び込んでいく。

食い止めようと戦艦と空母から対空砲火が指向され、九七艦攻の周囲に水柱が上がり始める。


同時に高度5000mから翔鶴と瑞鶴の艦爆隊が飛び込んだ。

鮮やかな雷爆同時攻撃だった。



インディアナが、エンタープライズが、それぞれ個別に回避行動をとる。しかしウェストヴァージニアは動きが遅れる。


元が戦艦である上に最高速度は遅く幅広の船体は激しく動き回ることに不向きだった。

ウェストヴァージニアの動きに合わせて九七艦攻が雷撃位置を調整していく。

流石に近寄れば対空砲火も熾烈を極めていく。

 ウェストバージニアを狙っていた九七艦攻が何機か火を吹いて海面に突っ込んでいく。それでも残りは臆する事なく魚雷を切り離した。


 機体が軽くなり浮かび上がるのを押さえつけつつ九七艦攻は離脱を図る。逃がさないと言わんばかりに対空砲火が、機銃が九七艦攻を狙うが回避行動中の艦の影響で多元に当たらない。

それでも一機の九七艦攻は機銃弾の直撃で翼から火を吹く。

その九七艦攻は逃げられないと悟ったのか最も近い位置にいた艦、巡洋戦艦サラトガに飛び込んだ。

左舷側に突入寸前に機体は空中分解したが、胴体部分は最後の飛行を続けてサラトガの木製の甲板に突き刺さり下部の鉄板にエンジンをめり込ませながら火のついたガソリンを左舷甲板にぶちまけ金属の破片を周囲に飛び散らさせた。

k装甲に包まれた場所や破片防護程度ではあるが防楯などがある高角砲は無事であったが露天した状態の機銃などは操作する兵士が剥き出してあり、瞬く間に火の海の地獄に取り残された。


破片で体を引き裂かれたもの、燃えるガソリンを浴びて火だるまになるもの、ついには機銃の弾が熱で誘爆し周囲に被害を与えていく。対空戦闘が出来る状態ではなかった。


しかしウェストバージニアを襲った惨状はこれ以上だった。


左舷側から六本の魚雷に狙われたウェストバージニアは回避行動虚しくそのうちの五本を短時間で被雷することになった。

20秒の合間にウェストヴァージニアの幅広な船体左舷に水柱が立て続けに上がり、空母として建造されるにあたり大幅に薄なった装甲を押しつぶし、破口を喫水線下に作り出した。

たちまち隔壁が破られ、左舷側の二つの機関室と機械室が浸水し、船体は大傾斜を起こした。そこに九九艦爆が250kg爆弾を叩き込んだ。

二発が命中し飛行甲板を破壊しギャラリーデッキを貫通して格納庫で炸裂、傾斜に加え格納庫で火災を発生させた。


行き足が鈍り黒煙をあげて復旧不能なほど傾斜したウェストバージニアは、元々防空戦闘機しか積んでいないために魚雷や爆弾といったものの誘爆こそなかった。

しかし誰の目にもウェストバージニアは救えそうになかった。


同時にエンタープライズもまた雷撃を受けていた。こちらは投下された四発の魚雷のうち二発を被雷したが、当たりどころが最悪であった。

一発が船尾に命中し左舷側の推進軸を破壊、舵も破壊されて操舵室と艦尾に大進水を発生させていた。

そこに九九艦爆の爆撃が行われ、飛行甲板に一発被弾、信管の不調で過早爆発をお越し飛行甲板を破壊するだけに留まったが、舵が破壊されたエンタープライズは艦尾側を少し沈めながらその場で縁を描くように動くことしかできなくなった。



攻撃隊が引き上げた時点での被害は空母ウェストバージニア、エンタープライズが大破。戦艦インディアナが爆弾一発を三番主砲上部に被弾したものの損害は軽微。巡洋戦艦サラトガは航空機の自爆を受けて対空機銃に若干の損害が出るも戦闘に支障無し。

そのほかに駆逐艦一隻が沈没と二隻が中破、軽巡洋艦ブルックリンが艦橋に250kg爆弾を被弾し艦長以下水雷戦隊司令部要員が壊滅していた。


それでも空襲直後に無事だった重巡洋艦から偵察機が上がり引き上げる飛行隊を追尾していた。

アメリカの反撃はすぐさま行われようとしていた。

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