第二十七話 ハワイ攻撃
ハワイ王国に対する奇襲は完全に成功していた。
当初アメリカはハワイ王国に対する宣戦布告を日本やドイツ相手とは違いやや遅らせていた。
アメリカの対ハワイ戦略は宣戦布告と同時に攻撃を行い電撃的にハワイを攻略、占領し速やかに前線基地として整えるというものだった。事実宣戦布告は空母の攻撃隊が発艦し攻撃開始の30分前に行われた。
ハワイはイギリス、日本を含んだ連合国側にも永世中立国際として認められていた。しかしアメリカは本来ならこのハワイ王国自体に否定的だった。
本来であればハワイはアメリカの州の一つとなる予定であった。それが破綻したのは結局のところハワイと日本の謀略あってこそだった。
そんなハワイは永世中立国と言えどその防備はそこまで優れているわけではなかった。軍港はホノルルに規模の小さいものが一つあるだけで基本的にハワイ諸島の多くの島々は民間の造船所や小さな港があるくらいで基地機能としては殆ど貧弱なものだった。
保有戦力も駆逐艦が三隻と軽巡洋艦が一隻程度であり陸上兵力に至っては王室の近衛兵を合わせても一個旅団に届くかどうかだった。
そんなわけでアメリカもハワイ占領はほとんど気にしてすらいなかった。
それでも大艦隊を連れていたのはその後ろに控える日本に対する警戒心からだった。だが、予想はアメリカがしていたものよりも悪い方向に進んでいた。
当初航空隊はハワイ諸島の飛行場を爆撃する任務を与えられていた。ホノルル港へは軍艦と海兵隊二個師団を持ってホノルル港と王室を抑える予定であった。
その任務自体は達成し、開戦通告から10時間後にはホノルル港、王室の制圧は完了していた。
戦闘自体も王室直属の近衛兵との戦闘があった程度で損害もアメリカが許容しうる範囲であった。
だがホノルル港は違った。
たった二つしかない大型のドッグは占領されるのを拒んだ海軍によって入渠していた駆逐艦と軽巡洋艦を巻き込んで破壊工作がされていたしクレーンや倉庫、コンクリート製の岸壁や桟橋と言った構造物は徹底的に破壊されていた。重油タンクと言った燃料タンク系も破壊されているのだからその徹底ぶりはキンメル大将も唸ったほどだ。
キンメルにはハワイ軍がそれら一連の行動を宣戦布告同時の攻撃の最中に準備して実行できたのかが疑問だった。
報告を確認しながらキンメルは戦艦サウスダコタの艦橋からいまだ煙の燻るホノルル港を見た。
「本当にハワイ軍がやったとは思えないほどの手際だな」
ハワイ軍がいくら優秀だとしても一個旅団程度の兵力がハワイ諸島に広く分散しているのだからいくら練度があったとしても難しいのではないか。キンメルはそう考えていた。
「詳細は不明ですが手口からして特殊部隊がいたと考えられます」
報告をあげた参謀は直接物を見たわけではないが、それでも先遣で向かった海兵隊の工作隊の曹長は早期修復は不可能だと報告していた。
「日本軍の可能性が高いと言うわけか」
少なくとも駆逐艦と軽巡洋艦は手際の良い破壊工作で完全にドッグを潰していた。
元々入渠していた二隻は船を乗せておく台を破壊され、側面に穴を開けられて完全に転覆していた。その上ドッグの水門も破壊され流入した海水で船は奥に押し付けられドッグ外壁を破壊していた。
「可能性の一つですがここまで手際がいいとそれなりの練度を持つ特殊工作部隊と見て問題はないでしょう」
「しかしハワイがここまで使い物にならないとはな、当分の合間は浮ドッグが頼りとなるか」
その浮ドッグも連れてきたのは戦艦一隻分でしかない。巡洋艦程度であればやりくりすれば二隻同時に整備が可能だが太平洋艦隊の規模から言えば能力不足であった。
しかし西海岸からの増援が来るのはもう少し待つ必要があった。
気分を切り替えようとキンメルは話題を変えた。
「日本軍の動きはどうなっている?」
「艦隊は既に出撃した模様です。ウラガ水道とブンゴ水道から艦隊が通過中と報告がありましたがそれ以降通信は途絶えています」
「流石に本土に近すぎたか。それ以降の動きは掴めないのだな」
「潜水艦の偵察には引っかかっていないようです」
動きが読めないな。台湾救援と言うわけではないだろうから必ずハワイに来るはずだがどこからくるかだ。読み間違えると後手になって我々が不利になりかねない。
まっすぐ太平洋を突っ切るのが良いかもしれないがそれではミッドウェーの哨戒基地の捜索に引っかかる。流石に敵もそれはわかっているはずだ。南はオーストラリアがある。ならば北太平洋側か?ダッチハーバーがあるが北は天候が悪くなりやすい。そこを突かれると厄介だな。
「艦隊を二手に分ける。空母による哨戒を厳にしつつ敵艦隊発見後は速やかにもう一方の部隊と合流させ日本艦隊に挑む」
兵力分散となってしまうがハワイ周辺海域なら片方が攻撃を受けても二時間で救援に迎えるはずだ。
九七式艦攻は空母艦載機の中では最も航続距離が長かった。
雷装や爆装を搭載せずに胴体下に大型増槽を取り付けると航続半径は八割増しになるほどだった。
その能力を発揮させるため、そして米艦隊の所在をいち早く掴むために連合艦隊司令長官の山本五十六大将は保有する九七式艦攻を二十四機、各艦艇搭載の水偵を三十機近く使い索敵を行った。加えて空母赤城の攻撃隊をもってミッドウェーの航空基地を攻撃させていた。
ミッドウェー基地はイースタン島とサンド島の二つの小さな島に別れているがこのうち滑走路があるのはサンド島だけでイースタン島は水上機の基地だった。
それでも配備戦力はF4F艦上戦闘機が八機とカタリナ飛行艇四機、SDBドーントレスが四機飲みと僅かな兵力しかなかった。
そこに赤城航空隊の攻撃隊が夜明けとともに殺到した。黎明のまだ薄暗い時間帯に空母を飛び立った攻撃隊だった。
夜が明けてすぐに偵察を行おうとしていたカタリナが真っ先に零戦の銃撃で穴だらけになった。
滑走路から緊急離陸しようとしたF4Fにも容赦ない攻撃と爆撃が行われ、三十分も保たずにミッドウェー基地は守備隊僅か400名を残して壊滅した。
ミッドウェー空襲される。その報告がキンメルの下に届いた時には、すでにキンメルの下から離れた別働の艦隊の上空に航空機が迫っていた。
空母加賀飛行隊艦攻隊第二小隊所属の九七式艦攻はその日定められた偵察エリアの中程を飛んでいた。
雲量は少なく晴れた空は遠くまでよく見渡せた。さらに上がり始めたばかりの太陽を背にして接近したため米海軍側は目視による発見が遅れてしまった。
見つかったのは戦艦インディアナ、巡洋戦艦サラトガ、航空母艦ウェストバージニア、エンタープライズを中心とした艦隊だった。
米海軍は先手を打たれた。
そもそも日本海軍を本来最初に発見するはずだった潜水艦は報告を行う前に対潜哨戒網に引っかかり尽くが沈められていた。米軍はこの時点で潜水艦三隻を失っていたのだ。
日本の空母から攻撃隊が発艦したのはその30分後だった。
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