#002 ある球体

ある王国の話である。



散歩中に見つけた、道端に転がっていたとある球体に王様がひどく心を打たれたそうだ。

肌触りはすべすべしており、石ではないのは誰が見てもわかるだろう。凹凸がなく奇麗な白色をした球体。完全な丸をした球体ではないところも、また美しい。

思わぬ産物だ、そう言い1人で喜んだ。

王様はそれを高級な絹の風呂敷に包み、自分の部屋に飾った。木の棚の最上段、1番よく見えるところに飾ってある8カラットのダイヤモンドよりも美しいとは言わないが、とにかく王様は白い球体をとても気に入ったのだ。



「王様! S鉱山で、およそ10.3カラットのダイヤモンドが採掘されました。加工したのち・・・」

「ああそうか。ぜひ、妻のティアラに使いたまえ」

大の宝石マニアである王様が欲していた10カラットのダイヤを妻のティアラに使わせるとは。王様は愛妻家ということでも知られているが、王様が拾った球体について知らない臣下たちは不思議に感じていた。



王様の心は、その白い球体に支配されているようだった。



「王様、5日後に隣国であるW王国の貴族の方たちが、本王国に訪問されるそうです」

「ほう、そうなのか」

隣国であるW王国の貴族らが、本王国に訪問してくることを知った王様は、あることを考えた。

「どうだろう。貴族の中には、この素晴らしさを理解できる者がいるかもしれない」



訪問日当日、王国全体で、最上級のもてなしをした。

王国一の腕前と謳われるサーカス団に大道芸をさせると、一芸披露するたびに、貴族たちから歓声と拍手が上がった。

特産品であるブランド牛をディナーに出せば、貴族たちは喜んで食事してくれた。反応は、期待通りだった。


その夜、気分のいい王様は貴族たちの前で白い球体を見せた。

「これが、どうしたのですか?」

「これを見て、何か思いませんか」

「王様、これも特産品でしょうか?」

「奇麗でしょう。これは、道端に落ちているのを私が拾ったものです」

「奇麗というか、まあ、ええ」



「まあいい。私はお手洗いに行ってくる」

「わかりました」

と、臣下が言う。

思ったより反応は芳しくなかった。トイレの洗面台でひとつ大きなため息をつく。

貴族にも、この美しさはわからないのか。そう思い、王様はやや落胆した。

「何をしている!?」

王様は凄まじい光景に思わず目を疑った。あの奇麗な球体が完全に割れて、中から何かが飛び出している。

貴族のひとりが何度か唾を吐いたため、口にそれを入れていたことが想像できた。隣国の貴族は親に何を教わって育ったのだろう。




「王様、私たち貴族にを食べさせるなんて、どういうつもりですか!?」

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世にも奇妙なショートショート集。 不感症 @6xy

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