第2話 スパゲティとハンバーグとアイス

 仕事で嫌なことがあった。

 ストレスで金を使いたい。

 金はあるが酒は体を壊す。

 タバコは不味いし臭くなる。

 女遊びはむなしい。

 オタク遊びは無駄に金がかかるし、飽きたらすぐに捨ててしまう。

 結論。

 ちょっとうまい総菜を買うことにした。

 あの幽霊は都合のいいことに平日は夕飯(夜の場合がほとんど)を食べに来て、休日は朝昼晩ごはんを一緒に食べる。

 いただきますとご馳走様だけを律儀にいっては消える謎の女の子幽霊は日に日にその存在感を増している。

 まず服が綺麗になった。

 それは俺が彼女に服を冗談半分で通販で買ったものを着せたからだ。

 服が欲しいと彼女が言ったせいでもある。

 女の子らしい服装になり髪も短くなりとても可愛らしい女の子になった。

 表情もどこか明るくなった。

 あとだんだん食事の最中に笑顔を見せるようになってきた。

 嬉しいことだ。

 話を戻そう。

 仕事で理不尽なことで怒鳴られて意気消沈している。

 俺はその日の夕方珍しくため息をついていつも通りにスパゲティを幽霊に奢る。

 すると無言で食べ進めて食べ終えても彼女は珍しくなかなか消えようとしなかった。

 俺は沈黙に耐えかねて今日あった出来事を話した。

 すると黙っていた幽霊はきれいに消えた。

 翌日。

 仕事場の上司がひどい食あたりを起こしたらしい。

 なんでもさばがあたったらしい。

 そんなことが現代日本でよくあるものだなとは思った。

 自業自得といえば自業自得だろう。

 しかしなにか幽霊的な力を感じた。

 あと、仕事終わりに試しに入ってみたパチンコで大当たりして3万も勝ってしまった。

 俺は幽霊に感謝の気持ちを込めて今夜はハンバーグだぞとスーパーでひき肉を大量に買い込んでソースも高級だけど子供にも美味しさが分かる母のこだわりハンバーグのレシピを電話で聞いてデザートにソフトクリームのコーンのアイスを買った。

 その日の夕方。

 俺は幽霊に今日会った嬉しいことを話しお前のおかげだとほめて頭を撫でたらふんすと鼻をならして誇らしげに胸を張っていた。

 ……そこそこあるな胸。

 どうでもいいことに頭を使いながら俺は鼻歌交じりにハンバーグを焼き大盛のご飯と簡単な野菜の付け合わせと一緒にそれを幽霊に食わせる。

 今までで一番いい笑顔を見せてくれた。

 そうして食べ終えた後、俺はデザートを渡す。

 どう食べていいのかわからなそうにしていたが意を決して食べてみた彼女の顔は心なしかキラキラしていた。

 そして食べ終えると彼女は以下のような長いセリフを口にして俺のあぐらをかいているところに座り自分の頭を俺の胸にあてては幸せそうな顔をする。

 「ありがとう、お兄ちゃん。私もう悔いなんてないよ。お兄ちゃんはお兄ちゃんで幸せになってね」

 そうして数秒後いつものように消えた。

 だがそれ以降ポルターガイストもなく幽霊も消えてしまった。

 俺は少し寂しい気持ちになる。

 あとで聞いた話だが、前の住人は夫婦喧嘩が絶えず、子供の世話をしないひどい親だったそうだ。

 それでその子供がどうなったのかは考えたくもないがまぁ無事に成仏してくれたのならそれでいいだろう。

 願わくば可愛い隣人でも来れば万々歳だとおもっていたら可愛らしい黒髪美人大学生が隣に引っ越してきた

 そうして俺の日常は少しずつすぎていく。

  


 ——————小さな幽霊は大きなおなかに満足して消えていった。


 澄み切った青空を見上げた俺はなんとなく彼女の顔を思い出すとそよ風が俺の頬を撫でた。

 そんなありきたりな話だ。


 了

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小さな幽霊、大きなおなか。 ビートルズキン @beatleskin

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