第7話 後日談~縁は続くよどこまでも~
そして夏休みに突入した。最初の数日は家でぐうたら過ごしていた。
けれど今日はそうもいかない。仕事で不在の両親に代わって家のそうじをテキパキとしていた。
掃除機をかけてテーブルの上をキレイにしておく。飲み物の準備もできた。
――ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
インターホンの画面をのぞくと「こんにちは!」と笑顔の根津が映った。
「今開ける!」
僕は玄関のカギを開けて根津を招きいれた。
「善次郎と会わなかった?」
「うん。先に来てるんじゃないの?」
「もう家は出たみたいなんだけどなあ」
僕は首をかしげながら家のドアをしめた。そしてリビングに根津を案内する。
今日は根津と善次郎を僕の家に呼んで勉強会をすることになっていた。家庭科の宿題を一緒に考えるのが一番だけど、成績の良い根津と善次郎に僕の宿題を見てもらうことに(いつの間にか)なっていたんだ。
「おじゃまします。ご家族の方はいないんだっけ?」
「うん。今日は仕事。でも伝えてあるから、いろいろ用意してあるよ」
そう言って台所の冷蔵庫を開けてみせた。中にはジュースや一口サイズのケーキが何個も並んでいたり、お昼用のサンドイッチも入っている。
「すごい! 猪野のお母さんって料理上手なんだね」
「まあね」
僕はまるで自分のことのように胸を張って答えた。
「そりゃ、猪野も食い意地張るようになるわけだ」
「そ、そういうわけじゃないよ!」
慌てて僕が否定するけど、ちょうどサンドイッチを見てしまったことで僕のお腹が「ぐうぅ」と反応してしまった。根津が「ほら!」とクスクス笑う。
「と、とりあえず座って。ジュースとお茶、どっちが良い?」
「ジュースはなに?」
「オレンジとリンゴ」
「オレンジで!」
僕と根津はリビングの広いテーブルに向かい合って座った。
「今日は家庭科の宿題のメニュー作成と、買い物。明日はそれで実際に料理を作る、で良いんだよな」
僕が宿題のレポート用紙の端に書いたメモを確認する。根津は「うん」とうなずいた。
「明日は猪野のお母さんが付き添ってくれるって?」
「うん。子どもだけで火を使うのは不安だって言われて」
「よかった。私も安心だよ」
そんな話をしているうちに、十分十五分……と時間が過ぎていく。
九時に僕の家で待ち合わせだったのに、もうすぐ九時半になってしまう。
さすがの僕と根津は不安で顔を見合わせた。
「電話してみたら?」
「うん――」
するとようやく家のチャイムが鳴った。僕らはインターホンを確認せずに玄関へ駆けだした。
「善次郎?」
「よ、遅くなった」
玄関のドアを開けた先にいたのは、善次郎――と、宇佐美先輩だった。
「あ、あの、え、宇佐美先輩?」
「こんにちは、猪野くん」
宇佐美先輩は困ったような表情ながら、その顔は赤く染まっていた。
「えっと、風邪ですか?」
混乱した僕は宇佐美先輩に尋ねる。すると宇佐美先輩は「ちがうの。えっと」と善次郎の方を見た。
なぜかその視線には熱い気持ちがこもっているようにみえた。
「幸喜……実は」
そう言って善次郎は視線を斜めうしろに向けた。
すると――。
「幸喜! ハロー」
リコだった。
リコが、善次郎の背中から飛び出してきた。
「え! なんで? なんでどうして?」
「あははー、またやっちゃった」
リコがそう言うと笑ってごまかそうとした。しかし他の四人は誰一人として笑えなかった。
「えっと、部屋にいるね」
根津は混乱のあまり、奥のリビングまで引っ込んでしまった。
「なあ、幸喜。本当に天使がいたんだな」
善次郎がそう言って気まずそうに誰とも視線を合わせない。
対して宇佐美先輩は「善次郎くんがね、猪野くんならなんとかできるって言うから」と言ってはにかむ。
どうやら宇佐美先輩にも善次郎にもリコの姿が視えているらしい。その時点で僕にはもう手が負えないと思った。
そして何より混乱に拍車を掛けたのが、なぜか僕にも見えている赤い糸。
善次郎と宇佐美先輩を繋ぐ赤い糸が、しかも二人をグルグルにがんじがらめで結び付けているのだ。
「幸喜。これがまた大変でさ。話すと長くなるんだよ」
リコはまるで他人事のように笑っている。
けれどその目は絶望の色で染まっていた。
「ま、そう言うわけだからさ。幸喜、もうしばらくこっちで厄介になるね」
「厄介なのはこっちだよぉ!」
僕は頭を抱えてその場にくずれ落ちた。
(たしかに縁というものは中々切るに切れないものみたいだね、メリィ)
部屋の奥で根津がテレビをつけて天気予報を見ていた。
この夏は例年まれにみる晴天続きの予報だと言う。
しかしどうやら、僕の今年の夏休みはしょっぱなから荒れ模様のようだった。
ずっきゅ’n’はぁと~1%の誤算~ さとみ@文具Girl @satomi_bunggirl
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