第4話「元婚約者候補のイチャイチャを見せつけられる」


一か月後、エステリアード公爵令嬢が隣国への留学を発表。


それ以降、エステリアード公爵家とガラティア侯爵家の縁談の話を聞くことはなくなった。


世間はガラティア侯爵令息が振られたと噂した。


というのも、彼の女癖の悪さが露見したからである。


ガラティア侯爵令息は好みの女性をメイドとして雇い入れてから彼女達に手を出し、離れや別荘に囲っていたらしい。


他家に知られないように、メイドとして一旦雇ってから、別荘などに囲っている辺り、手口がいやらしい。


ガラティア侯爵令息の容姿に惹かれて集まっていた令嬢達は、彼の素行の悪さを知って蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。


何にしても、クズ男の毒牙にかかる女性が減ったのは良いことだ。


私はというと、エステリアード公爵令嬢の未来を見てから、男性不信に拍車がかかっている。


お見合いもお茶会もしばらく断っている。


今まで未来予知で見た男性は、浮気はすれど浮気女相手の女性を大切にしていた。


それに暴力は振るわなかった。


ガラティア侯爵令息ほどのクズを見てしまうと……男性というより、人間不信になってしまう。


当分、家族以外の誰とも会いたくないわ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





そんなわけで、私は心身の療養をかねて森林公園を訪れていた。


外を貴族令嬢が一人で出歩くのは危険なので、伯爵家で雇った護衛付きだ。


そこで見知った顔に声をかけられた。


「モンフォート伯爵令嬢。

 覚えていませんか?

 以前あなたとお見合いしたベオウルフです」


「バルトクライ伯爵令息、お久しぶりですね」


思いがけずかつての婚約者候補に遭遇した。


「あの時はあなたのことを『俺よく知りもしないのに、追い返すなんて酷い人だ』と思いました。

 ですが今ではあなたに感謝してます!

 理想の女性を紹介してくださったのですから!

 そうだろ?

 セリーナ」


「その通りですわ、ベオウルフ様」


バルトクライ伯爵令息の隣には、栗色の髪にボブカットの小柄な女性がいた。


「彼女はセリーナ・ブルム子爵令嬢。

 俺の婚約者です」


「はじめまして、セリーナ・ブルムと申します」


ブルム子爵令嬢は未来予知で見た時と同じように、華奢な体格の可愛らしい方だった。


二人は今自分たちがどんなに幸せか話して帰っていった。


あの二人は私が何もしなくても、いずれどこかで出会って、婚約していただろう。


しかし私とバルトクライ伯爵令息が婚約した場合、バルトクライ伯爵令息は婚約者がいるのに浮気した男、ブルム子爵令嬢は婚約者を奪った女という悪評がつく。


私も婚約者に捨てられた傷物令嬢になってしまう。


未来視の力で、不幸な未来を避けられてよかった。


何事もなく普通に出会えて、普通に婚約して、普通に結婚できるのが一番だと思う。


去り際にブルム子爵令嬢と握手したら、タキシードに身を包んだバルトクライ伯爵令息と、ウェディングドレスに身を包んだブルム子爵令嬢の姿が見えた。


やはり、ガラティア侯爵令息みたいなクズが稀で、他の男性は「真実の愛」というのを全うしているようだ。


私は少しだけ人間を信じたい気持ちになった。







「モンフォート伯爵令嬢お久しぶりです」


バルトクライ伯爵令息とブルム子爵令嬢と別れたあと、また誰かに声をかけられた。


振り返るとかつてのお見合い相手の一人であるライン子爵令息がいた。


彼の隣りにいる令嬢にも見覚えがある。


黒く長いストレートヘアに、黒曜石の瞳の美少女……確かライン子爵令息の手に触れたとき未来予知で見た世界にいた子だ。


確か彼女の名前はカタリナだったはず。


「ライン子爵令息、お久しぶりですね。

 お連れの方はどなた様ですか?」


「いとこのカタリナです。

 カタリナこちらは、かつてのお見合い相手のフィオナ・モンフォート伯爵令嬢。

 カタリナ、君も挨拶して」


「初めまして、カタリナ・ウィンザムと申します。

 ウィンザム男爵家の長女です」


「初めまして、フィオナ・モンフォートと申します。

 モンフォート伯爵家の長女です」


ウィンザム男爵令嬢がカーテシーをしたので、私もカーテシーをした。


「お茶会のあと、あなたに『もっと身近にいる人に目を向けろ』と言われて、気がついたんです。

 俺にはずっと気になっていた人がいることに……」


そう言ってライン子爵令息は、ウィンザム男爵令嬢を愛おしそうに見つめ、彼女の肩を抱き寄せた。


ライン子爵令息に抱き寄せられて、ウィンザム男爵令嬢は頬を赤らめた。


「私もイグナシオのことは、ずっと仲の良いいとこだと思ってました。

 でも彼がお見合いするって聞いたら、いても立ってもいられなくなって……。

 お見合い相手から彼が振られたって聞いた時、胸を撫で下ろしたんです。

 その時気づいたんです。

 私はイグナシオのことを愛してるって」


「カタリナ」


「イグナシオ」


二人は頬を染めて見つめ合っていた。


私は何を見せられているのかしら?


「俺達、来年結婚するんです。

 モンフォート伯爵令嬢にも招待状を贈りますね。

 あなたは俺達の愛のキューピッドなのですから」


「お招きいただき感謝します」


何が悲しくて、振ったお見合い相手の結婚式にいかなくてはいけないのか……。


その時偶然私の手がウィンザム男爵令嬢の手に触れた。


未来視で見た世界で、ウィンザム男爵令嬢のお腹が大きく膨らんでいて、その隣でライン子爵令息が穏やかな表情で微笑んでいた。


「どうかお二人共お幸せに」


私はそう言って二人と別れた。


ライン子爵令息とウィンザム男爵令嬢は、仲良く腕を組んで去っていった。


こうしてみると、私の縁結びも人様の役にたっているわけだ。


でももう今日は熱々カップルに会いたくないな。


バルトクライ伯爵令息とブルム子爵令嬢、ライン子爵令息とウィンザム男爵令嬢のノロケ話でお腹がいっぱいだ。


しかし、二度あることは三度あるのだった。


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