第2話「恋占いと公爵家のパーティー」
我がモンフォート伯爵家は、歴史と伝統のある家柄。
祖父母の代から始めた商売が好調で、今では国でも指折りの大富豪。
私には二歳年上の兄が一人いる。
兄が伯爵家を継ぐので、私は相手の実家に嫁ぐ身だ。
それでも当家と縁を持ちたいという人間が後を絶たず、私への縁談の申し込み書が引っ切り無しに届く。
とりあえず家格の釣り合う家の嫡男で、学問と武芸の成績の良い殿方を選び、何人か婚約者候補にしてみた。
そして今日婚約者候補とお見合いしてみたのだけれど……結果はこの通りである。
モンフォート伯爵家との繋がりが欲しいだけの浮気男しかいなかった。
婚約者候補達には私が未来視で見た、彼らの浮気相手とのお見合いをセッティングしてあげている。
彼らは他の令嬢と婚約しても、どうせ浮気するだろう。
それなら最初から彼らが「運命の恋」だの「真実の愛」だのと言ってる女性と早々に出会わせてあげて、婚約を整えてあげた方がいい。
婚約破棄されて傷物になる女性を、一人でも減らしたいからね。
私がセッティングしたお見合いは、ほぼ百パーセントの確率で成立する。未来視でイチャイチャしていた二人をお見合いさせているんだから、当然の結果だ。
そのせいか私は最近、お見合いの妖精とか、縁結びの妖精と呼ばれるようになってしまった。
私が本当にお見合いの妖精や縁結びの妖精なのだとしたら、他人の縁談ではなく自分の縁談をまとめたいよ。
私がこの能力に目覚めたのは十歳の時。
父の手に触れたときのこと。
ロングスリーブにベルラインの赤いドレスを着た母に、父が赤い薔薇とルビーのネックレスを贈っている姿が見えた。
そして半年後、母は私が幻想で見たのと同じドレスを着て、同じように父から赤い薔薇とルビーのネックレスをプレゼントされていた。
母の着ていたドレスはデザイナーの新作でその日に届いたばかり。
父がプレゼントしたルビーのネックレスも、海外から取り寄せて前日に店頭に並んだ物を、父が一目惚れして購入したという。
半年前の私が、ドレスのデザインやルビーのネックレスのデザインを知るはずがないのだ。
また別の日の出来事。
兄の手に触れると、兄が栗色の髪に緑の目の女性に翡翠のブローチをプレゼントしているのが見えた。
当時兄に婚約者はいなかった。
一年後、兄の婚約者に選ばれたサラ・ノール子爵令嬢は、栗色の髪に緑の目をしていた。
彼女の胸元には予知で見た翡翠のブローチが輝いていた。
兄はそのブローチを一週間前に購入したばかりで、ノール子爵令嬢とは三か月前に会ったばかりだという。
そんなことが何度か続き、私は触れた相手の未来が見える能力があると知った。
天候や災害が予想できればよかったけど、私の能力は恋愛関係限定だった。
だけどそんな些細な能力で良かったのかもしれない。
凄い能力を持っていたら、有無を言わさず王族の婚約者にされてしまう。
私と歳の近い王族はいないから、最悪第二夫人か愛人にされてしまう。
それは嫌だ。
私は、私だけを愛してくれる人と結婚したいから。
未来予知で見た父と母も、兄とノール子爵令嬢も、仲睦まじくしていた。
だからこの能力は幸せを運ぶ能力だと思っていた。
なのに……なんで婚約者候補の浮気現場ばかり見えるのよ!
こうも立て続けに不幸な未来が見えると、人間不信になりそうだわ。
男性の褒め言葉、「綺麗」も「美しい」も「清楚で可憐」も、何も信じられなくなってしまった。
いっそのこと誰とも結婚しないで、未来視の力を活かして、占い師として生きていくのもありかもしれない!
独り立ちすれば、兄に「お前が行かず後家になっても、生活の面倒ぐらいは見てやる」と嫌味を言われなくてもすむ!
私は十四歳にして、なかば結婚を諦めていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今日はベアトリス・エステリアード公爵令嬢のお誕生会にお呼ばれしている。
エステリアード公爵令嬢と私は同い年。
公爵令嬢の誕生パーティーなら、未婚の男性もたくさん招待されているはず。
お見合い相手はハズレだったけど、もしかしたらここに運命の相手がいるかも!?
そんな淡い期待を込めてやってきた公爵令嬢の誕生パーティー。
私を待っていたのは……。
「モンフォート伯爵令嬢、私の結婚相手を占ってください!」
「ずるい! 私が先です!」
「私と婚約者との相性を占ってください!」
「私にも良い縁談を!」
私の元に押し寄せる未婚の令嬢の波!
未来視の力を使い、お見合いをセッティングすること十数件。
全てのお見合いが成立し、仲睦まじいカップルが誕生した。
噂が噂を呼び、今では私は縁結びの妖精扱いされている。
パーティーに参加するとこういう令嬢が一人や二人寄ってくるんだけど、今日は人数が多い。
私は恋愛専門の占い師じゃないっての!
「押さないでください。
順番ですよ!
順番!」
私は彼女達を無下にできず、順番に彼女達の手を握って未来を見ることにした。
「あなたの婚約者は、青い髪に紫の瞳、ガッチリした体系の男性ですか?」
「そうです! どうしてわかったんですか?」
私には目の前の令嬢と、その男が抱き合ってチューしてる未来が見えた。
プライバシーの侵害みたいで申し訳ないが、こちらも頼まれてやってること。
好きで人様の未来を覗いているわけではない。
「大丈夫です。あなた方は未来でもラブラブですよ」
「キャーありがとうございます!」
私がそう言うと、令嬢は頬を赤らめて嬉しそうに去っていった。
「次は私の番ですよ!」
「私も占ってほしいです!」
令嬢達の列は途切れることがない。
こうしている間にも、私の出会いのチャンスが遠のいていく……!
「ん……? あの人は……?」
令嬢達の列に、落ち着いた色合いのドレスを着た女性が紛れ込んでいた。
二十代前半ぐらいの女性で髪を後ろで一つに束ねていた。恋占いをしてほしそうには見えない。
彼女は私に近づいてくると私の手に何かを握らせた。
手を開けて確認すると、それは一枚の紙だった。
紙には「ベアトリスお嬢様がお話したいことがあるそうです。あとでお部屋に来てください」と書いてあった。
どうやら彼女はこの家の使用人で、エステリアード公爵令嬢が私に用事があるらしい?
エステリアード公爵令嬢が私に何の用事かしら?
彼女も恋占いをしてほしいのかな?
いやいやそれはないよね。
エステリアード公爵令嬢はタデウス・ガラティア侯爵令息とラブラブで、近々婚約するって話だし。
タデウス・ガラティア侯爵令息は、彼女より四歳年上の十八歳。
彼は名門貴族の次男で、見目麗しい外見をしている。
ガラティア侯爵令息はその美しい容姿から、女性にキャーキャー言われることも多い。
だけどエステリアード公爵令嬢との噂以外、聞いたことがない。
一途に思ってくれる男性と婚約できるなんて羨ましい。
私も彼のように私だけを一途に愛してくれる人と婚約したい。
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