拾った仔犬が王子様!? 未来視のせいで男性不信になった伯爵令嬢は獣耳王子に溺愛される・連載
まほりろ
第1話「未来視は婚期を逃す始まり?」
ある日私は公園で黒い仔犬を拾った。
仔犬はとても可愛くて賢くて、そして何より私に懐いてくれた。
私は仔犬にハルと名付け溺愛した。
「私はハルがいれば何もいらないよ。
ハルが大好きだよ。
ハルは私とずっと一緒にいてくれるよね?」
あれ? これじゃあまるでプロポーズしてるみたい?
ハルは「ワン」と鳴いて私の口にキスをした。
私にはハルが「YES」と言ったように聞こえた。
「よしよし、いい子いい子」
私はハルをぎゅっと抱きしめて、彼の頭をよしよしと撫でた。
そうそう言い忘れてたけど、ハルはオスだ。
私が頭を撫でると、ハルは嬉しそうに黒い尻尾をビュンビュンと振っていた。
まさかこの仔犬の正体が犬族の王子様で、黒髪のサラサラのロングストレートヘアで、黒真珠のように輝く瞳と、白くて綺麗な肌の絶世の美少年だったなんて……。
あれ、ちょっと待って!?
私、ハルと一緒にお風呂に入っちゃった!
いつも一緒に寝てたから、寝顔も、パジャマ姿も、寝起きのぼーっとした顔も、全部見られちゃったよ……!
「フィオナ好きだよ。
愛してる。
これから沢山キスしようね」
人型に戻ったハルに私はベッドに押し倒されてしまった。
私の手は彼の手に握られ、ベッドに押し付けられている。
「フィオナは永遠に僕のものだからね。他の男と触れ合うなんて僕が許さないよ」
人型に戻ったハルはとても嫉妬深い性格だった。
なぜこんなことになったのか、時は数カ月前に遡る。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
麗らかな土曜日の午後。
モンフォート伯爵家の中庭。
私は伯爵家の長女フィオナ・モンフォート、十四歳。
今日はお茶会と言う名の私のお見合い。
婚約者候補数人を集め、その中からたった一人婚約者を決める日。
どうか私だけを生涯一途に思ってくれる運命の相手に出会えますように……!
「ベオウルフ・バトルクライ。
バトルクライ伯爵家の長男です。
今年で十七歳になりました。
モンフォート伯爵令嬢、あなたは俺の理想の女性です。
あなたと結婚し、あなたのご両親のような仲の良い家庭を築きたい。
俺をあなたの正式な婚約者にしてください。
数いる婚約者候補の中の一人でいるのには耐えられない」
「……婚約者は全ての婚約者候補と個別に面談したあとで決めたいと思っております」
私は愛想笑いを浮かべ、適当に返事を返した。
一分前、彼と握手を交わした時に見えてしまったのだ。
そう遠くない未来、彼は子爵令嬢と浮気をし、私に婚約破棄を突きつける。
『フィオナ・モンフォート貴様との婚約は破棄する!
俺は真実の愛の相手である、セリーナ・ブルム子爵令嬢と結婚する!』
未来予知でみた、セリーナ・ブルム子爵令嬢は栗色のボブカットで、華奢な体格で可愛らしい顔立ちをしていた。
未来視の中の彼女は、バルトクライ伯爵令息の影に隠れ、仔ウサギのように震えていた。
私は金色のウェーブのかかった長髪で、ややツリ目がちの青い目をしている。そのせいかどうにも悪役に見られがちだ。
未来予知で見たブルム子爵令嬢は、私とは正反対の外見をしていた。
なにが「あなたは俺の理想の女性です」よ、バルトクライ伯爵令息の嘘つき。
浮気、嘘、婚約者としては不合格ね。
私は手元にあるバルトクライ伯爵令息の資料に、小さくバツを付けた。
そして私の背後に控えている執事に目で合図を送った。
執事は私の合図にコクリと頷き、チリンチリンと鐘を鳴らし「次の方」と冷徹に告げた。
執事の鳴らす鐘を合図に、婚約者候補が入れ替わることになっている。
鐘がなるまで、他の候補者には別の場所で待機して貰っている。
「えっ? 待ってください!
モンフォート伯爵令嬢!
まだ話し始めたばかりではないですか?
どうですか今度俺と一緒にゴンドラでも……」
「次の方!」
執事が無慈悲に告げると、バルトクライ伯爵令息はすごすごと帰っていった。
「僕の名前はイグナシオ・ライン。
子爵家の嫡男です。
歳は十七です。
こんなにも美しいモンフォート伯爵令嬢をお側で拝見できるなんて、光栄の至りです。
あなたの前では白鳥も薔薇も空にかかる虹さえも霞んで見えます!」
歯の浮くような言葉を並べたのはライン子爵令息。
そんな彼も遠くない未来に浮気する。
先ほど彼と握手した時見えてしまったのだ。
ライン子爵令息は、彼のいとこのカタリナ様と浮気をする。
それも私がライン子爵令息の部屋に入ったとき、二人がベッドでイチャイチャしているのを目撃してしまうという最悪の露見の仕方だ。
未来視とはいえ、気持ちの悪いものを見てしまったわ。
こんな方と握手したなんて最悪。
今直ぐ手を洗って消毒したいわ!
『入ってくるなよ、ブス!
キスさえさせてくれないお前とは婚約破棄だ!
お前よりいとこのカタリナの方が百倍美人だ!
俺はカタリナと結婚する!』
未来のライン子爵令息はそう言って私を罵っていた。
彼の隣りにいるカタリナ様は、黒髪のストレートヘアで大人っぽい見た目をしていた。
ライン子爵令息の好みのタイプは私ではないようだ。
なにが『こんなにも美しいモンフォート伯爵令嬢をお側で拝見できるなんて、光栄の至りです。あなたの前では白鳥も薔薇も空にかかる虹さえも霞んで見えます!』よ。そんなこと全然思ってもいないくせに、嘘つき。
この方にも早々にお引き取り願おう。
私はライン子爵令息の資料に大きくバツを記し、執事に目で合図を送った。
執事は私の送った合図に気づき、鐘を鳴らし凛とした声で「次の方」と言った。
「ええっ!?
まだ全然お話しできていませんよ!
可憐なモンフォート伯爵令嬢ともっとお話したかったのに!
こんどあなたに髪飾りを贈ります!
あなたの黄金色の髪によく合うと思いますよ!」
往生際悪く、ギャーギャー騒いでいたライン子爵令息は、私兵によって退出させられた。
なにが髪飾りを贈るよ、なにが可憐なモンフォート伯爵令嬢よ、調子のいいこと言って。
ライン子爵令息の好みは金髪のふわふわヘアの私ではなく、黒髪のサラサラヘアのカタリナ様のくせに。
嘘つきも、浮気者も、大嫌いよ。
次に現れたのはナイロ・グランモア男爵令息、十八歳。
「ナイロ・グランモアと申します。
男爵家の嫡男で歳は十八です。
清楚で可憐なモンフォート伯爵令嬢の婚約者候補に選んでいただけたこと、光栄に思います。
一目見て分かりました。
あなたは地位や裕福さを鼻にかけない、心の綺麗な方なのだと」
爽やかな笑顔で自己紹介した彼だが、私は未来視で知っている。
彼が病弱な義妹を異常なほど溺愛していることを……。
『金で俺を買った意地汚い伯爵令嬢め!
義妹のマリアンナを虐める醜い心のお前とは結婚できない!
俺は心の美しういマリアンナと結婚する!』
未来予知で見た世界で、グランモア男爵令息は義妹のマリアンナ様を抱きしめながらそう叫んでいた。
どこから見ても爽やかな好青年の彼がシスコンとはね……。
「今度私の家に招待したいです。
俺にもあなたと同じ年頃の義妹がいます。
きっと仲良くなれますよ」
いや、それは無理でしょう。
未来予知で見たあなたの義妹は、私の事を人を殺しそうな怖い目で睨んでましたから。
私は彼の資料に大きくバツを書き、執事に合図を送った。
執事が鐘を鳴らすと、グランモア男爵令息は残念そうな顔で席を立った。
どうせグランモア男爵のことはマリアンナ様が慰めてくれるでしょうから、私は同情しない。
「執事、次のお見合い相手はどなたかしら?」
「お嬢様、残念ながら本日のお見合い相手はグランモア男爵令息が最後でございます」
「あら、そうなの」
今日会った婚約者候補は、全員近い未来で浮気をしていた。
婚約破棄されるのがわかっている相手と、わざわざ婚約する必要はない。
婚約前に相手の本性に気付けて良かったのだ。
「はぁ……今日も婚約者が決まらなかったわね」
それでもため息が出る。
こんなことしている間に婚約適齢期を逃してしまうわ。
私の運命の男性はどこにいるのかしら?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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