第40話 悪魔は死んでいない・1
部屋に入った時、三人の少年に見えたミカ、ラミー、マーガレット。
見間違える筈がない、ダンデリオン孤児院の妹たち。
見間違えた理由は血まみれだったこと、それと生えていなはずのものが生えていたから。
「なんて…ことを…」
少年っぽくさせられた彼女たち。
ということは、同じ数だけの男を辞めさせられた体がどこかにある筈だ。
あっさり殺しただけじゃ足りない。
俺は十八になったらしい。ってことは四年ちょっと前。
一人の若者、スベルという若い兵士が俺を拷問にかけるべきと言った。
その後、拷問とも呼べる人生を歩んだが、今なら彼の気持ちが分かる。
一人ぐらい生かして、殺してくれと言うまで拷問すべきだった。
怯える三人の少女だって、四年以上かけてちゃんと成長している。
だから、血まみれ。女性の象徴でもある双丘を切り取られ、男の象徴を無理やり移植されたのだ。
侯爵家の婿を出迎える為に、ナジール家が考えついた方法だろうか。
子爵の血に侯爵の血を入れる為。もしくはワイバ山が齎す富を分けてもらう為か。
「子供が居た…。出来た子供も同じ性質。子爵の血では薄められなかったんだ」
三人の娘は下腹部から夥しい出血をしている。
女部分を削ぎ落して、男に見立てさせて妊娠する。
母親がどうなったのか、想像に難くない。
男と女の共通の穴を改造したのかもしれない。
三年間で再教育を受けた。って言ってもアダムが勝手に喋ってただけだけど、性行為そのものに意味がある。
体液を注ぎ込むだけでも妊娠して子供は生まれるが、魔力の強い子供は生まれない。
理想は性欲のぶつかり合い、その摩擦が欲に塗れてるほど子供の魔力は強くなる。
未来のナジール家を受け継ぐはずだった二人の男が、あんなにも弱かったのは母親が無理やり同じことをされたってことかも。
魔力が強く、性欲も旺盛ならもっと良い夫が見つかっただろうに。
「この方法もロドリゲス侯爵から聞いていたのかも。…ゴメン。先に傷の手当てを」
少女たちは男性器の方から失禁している。
くっついている。とは言え、先端が鈍く爛れているのだから、拒絶反応も出ている。
「ふ…ふぇぇぇぇえええ」
俺がえぐられた胸の出血を止めてやろうと手を翳すと、少女たちは震えて泣き出した。
そう言えば、今の俺の手は剣の形。
機械の足をした大人の男。俺とは気付かない。
成長期を終えて、大人の顔になったの顔、目の前で人を殺して剣を突きつけられているのだから、誰だって怖い。
でも、俺の名前は…言えない。
言ってはならない。言ったとしても、王殺しの大罪人。
こんな世界になったのは俺のせい…って思われる。
俺は迷っていた。
今の彼女たちの精神状態を俺は知っていたのに。
「いっそ殺して!」
「早く楽にして!」
「私を殺して!」
三人共、死を渇望していた。
でも、俺は──
「
と唱えた。
□■□
少女たちにくっつけられた男のソレは、一部壊死しているものの形は保っている。
以前、ニースを助けた要領で切断と治癒を同時に行えば、──と言っても切断と治癒を行った相手は強姦魔の方だが、彼女たちに苦痛はない。
ただ、一体何日前にこの状態になったのか。彼女たちからソレを取り除く前に取り除かれた側の男を探す。
彼女たちの胸の一部はこの部屋にはない。
こいつらは異常者だ。あれを見るだけで萎えてしまうのだろうから、それは破棄されたと推測できる。
「それと鞘を探さないと…」
鞘という名の腕。ここで三人が犯されているのを見て、ブチ切れて…
そこから記憶がない。怒りの中、丁寧に手の形をした鞘を置いた記憶もない。
勢いよく手を振り上げたから、あっち…かな。
その先には別の部屋があって、その奥…
だが、その先から臭う。しかも、かなり嫌な感じ。
つまり、この腐敗臭の正体は…
「…鞘より先に探すものがあっただろ‼俺は馬鹿か‼」
いや、アイツらが狂っているだけ。こんなの思いつかないでいい。
腐敗臭の答えは隣の部屋にあった。確かに彼女たちの欠片がこんなに腐敗臭を発するとは思えない。
「バッカス、ベルガ、ビーグ…」
少女たちに聞こえないように、彼らの名前を言った。
アイツらの性癖を忘れていた。元々、そういう血の貴族だった。
臀部からの出血はすでに止まっていて、それどころかどす黒い。
遅かった…。感染症…、いや失血死か。
俺は手前の部屋に戻って、三人の女を斬った。
そして回復魔法も施した。
呆然としたままの三人は、何をされたのかも気付いていない。
「三人。いつからだ?」
すると、その中の一人。オレンジ髪の少女。
と言っても、俺は彼女がマーガレットだと知っている。
彼女が小さな声だが、懸命に精一杯喉を動かした。
「みっ……か…ま…え」
三日前。だったら…、助けられた。
生きたままか、死んで直ぐに移植したのだろう。
ってことは、前に助けた女には悪いが、アレは一週間前のことだ。
その時、こっちに来ていれば助けられた。
あの時は上流貴族の別邸辺りをうろつけと言われていたから、そうしただけ。
もしもあの時…、いや。
殺した男はたった四人。だけど貴族も食べ物がいる。服もいる。
身の回りの世話をする者がいる。呆けている場合じゃない。
考えるのは後だ。今はとにかく出ないと。
「どこか、服は…」
「いやぁぁぁあああああ」
「バッカス‼ベルガ‼ビーグ‼」
三人から目を離した隙に、三人が同じ孤児院の兄弟を見つけてしまった。
そして、再び絶叫。
「貴族様‼私たちみたいに助けてください‼」
「お願いします。貴族様‼今度はちゃんとしますから‼」
「一生懸命、ご奉仕しますから‼」
愕然とする言葉。
三人は俺のことを貴族と呼んだ。
貴族を殺した。魔法を使って傷を癒した。
違う‼俺は貴族なんかじゃ…。
正体を知られてはならないという決まり。
それが平民に適用されるのかは分からない。
だが、運良くか、運悪くか、ミカとラミーとマーガレットは俺に気がついていない。
「残念だけど…。三人は助からない」
見つけた服を適当に投げつけて、俺は言った。
だが、女たちは受け取らずに、こんなことを言った。
「私たちの孤児院で…、悪魔が生まれたから…ですか?」
「バッカスたちは…地獄に堕ちるんですか?」
「私たちも…」
俺は目を剥いた。
俺は今まで、自分の目で見た死を自分のせいだと思っていた。
それ以外、考える余裕なんてなかった。
だけど、実際に起きている。そして死んでも尚、その呪いは続いている。
アリス…、いや、みんなもじゃないか。
アリスだけを心配する自分を叱咤して、俺はもう一度服を突きつけた。
「悪魔ボイルは死んだ。…院長も死んだはずだ。お前たちに罪はない。だから、服を着ろ。俺がお前たちを犯し殺す前に…だ」
そして脅した。貴族のように脅した。
今の俺には、これ以外の方法が見つからなかった。
ナジール邸にいた貴族三人の頭部と陰部を抱えたのも、三人の少女には衝撃だったらしく、青い顔で俺に従った。
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