第39話 機械人間・5
俺はナジール子爵の屋敷に忍び込んだ。
アダムは獲得ポイントとかいう訳のわからないことを言っていた。
男爵の子供はそもそもどうでもいいから0ポイント、子爵からポイントがもらえる。
爵位持ち本人、長男、次男でポイントが違う。
少なくとも首。そして、指定された部位を持ち帰らなければポイントは加算されない。
理由は勿論、グレイシールという死体蒐集家との取引だからだ。
少なくとも500ポイント集めなければ、両手足は戻ってこない。
そもそも、あの男がグレイシールに渡したのだが。
本当に返してくれるのか?だってあのマリアが言ってた死体蒐集家だぞ…
だけど、貴族はみんな狂ってる。弟妹の為に、アリスの為に狂人を一人でも殺す。
もう、そっち側には戻れないけど…、それでも俺は──
侵入経路を考えるため、まずは屋敷の周りをクルクルと回る。
性行為をしていない貴族に勝つ自信はない。
両足義足は本当の手足じゃない。動かせると言っても直接脳と神経が繋がっている訳じゃない。
それにガチャガチャした手足は魔力を篭めないとガチャガチャ音がする。
因みに、魔力を篭めるってのはギロチンから首を守った時と同じ。
俺の性感帯だと思いこむ。…ツッコんじゃ負けだ
バーベラ家は目的が一致したから、簡単に操れた。
ボイルに奉仕することが目的だったし、破廉恥なことをするのが目的だった。
最初から敵対していたとしたら別だろう。
それに義手と義足の俺が勝てる相手なんて高が知れてる。
余裕で勝てるのならば、とっくにアダムを脅して自由になってる。
だから、卑怯な真似を使うしかない。
イグナー伯爵の四男とサリダリ子爵の次男を殺した時のような不意打ち。
あの時は強姦途中だった、気持ち的にも遠慮なくヤれた。
匂う。精液と愛液が混じり合っている匂いだ。やっぱりだ。
でも、おかしい普通に乱行パーティが開かれている。
女がいたらダメではないのか。
あ、そっか。婿養子に入ったんだから、ダーシル以外のやつもいるのか。
だったら、普通に男女が入り乱れているってことか。
もしくはダーシルが普通に嫁とやっているか。
ただ、複数人の体液。やっぱり貴族の性交パーティ。そして血液の匂い?破瓜の血?なんでだ…
性交パーティには作法というか、慣わしがある。
まず、アレらは行為の最中は無防備になる。だから必ず信頼のおけるものを見張りに立たせる。これがなければいつでも殺してくださいと言っているようなものだ。
毎度毎度、俺が乱交パーティに登場したのは、その下ごしらえを始末した後だった。
お嬢様の時は分からないが、リリアンとモーデスは先に邸宅に侵入していた。
サマンサ・ロドリゲスはそもそも身内だったから、根回しをしていただろう。
そしてガーランドは、単に武力でぶん殴った。
警戒している人間は性交していない。ってことで、最初は通常戦闘が待っている。
モーリアとリリアンみたいに上手くやらないと、避難信号をあげられる。
いや、モーリアとリリアンも身内だった。
隙くらい簡単に見せてもらえた筈だ。
じゃあ、誰を参考にしたらいい…、誰もいないじゃん。
こないだみたいなラッキーが起きないと…
「ってことは、めちゃくちゃ難しいじゃん。どこにいる?誰が何処に、──え⁉」
じっくりと行こうと思った。正気の貴族と渡り合う自信もなかった。
だけど、俺は反射的に飛び出していた。
見張りの位置なんて関係なかった。
一歩踏み込んだだけで、すぐにあの匂いに気がついた。
むせ返るような血の匂い‼なんでだよ‼
しかも、腐敗臭までする。意味が分からない。
ここは既に襲撃されている…?
トラウマが呼び起こされて、体が勝手に動いていた。
だから当然、見張りの男に見つかる。
知らない奴。でも、風貌から貴族。ちゃんと魔力は持っているが……。いや……、なんだこいつ? そんなに萎えてちゃ、殺してくれと言っているようなもんだぞ!
どこの誰かも知れない男だ。貴族の知り合いは指で数えるくらいしかいない。その指はないけど。
まぁ、いい。そいつは俺にびっくりして、腰を抜かしていた。
で、俺はその男の首を斬った。だって…
「貴族が性欲を忘れてどうする…それがお前ら魔力の根源なんだろ…」
貴族は常に欲情していなければならない。常に発情しているから貴族は圧倒的な力を行使できる。
男は萎えてはいけない。女は濡れていなければならない。
だから、ロドリゲス家では女人禁制にしていたのだろう。
「萎えてんじゃねぇよ…」
命を失った小貴族に小言で囁き、俺は家の奥を目指す。
確かに血の匂いはしていた。だけど、結界に入ると勘違いしていたことに気が付いた。
あの結界は出来が悪かったわけじゃない。
中が酷すぎて、漏れ出ていたのだ。
破瓜の血とか、生理中だとかでは説明がつかない程の血の匂いが
吐き気がするほどの、既嗅感とでも名付けるべき、悍ましい匂い。
どういうことだ。見張りが居て、この臭いがしてる。
そんなの…
義手、義足の音なんて忘れていた。
そのまま乱交パーティか、襲撃現場かに向かって走り出す。
そして時が…、止まった。
そんな気がした。
「く…」
三人の少年を三人の男が犯していた。
犯していたに決まっている。だって少年たちは血だらけだ。
「あ?」
「誰だ、てめぇ」
犯す側の男たちは、動きを止めて闖入者を睨みつけた。
犯されている側も義手に義足の黒髪の青年の方に濁った瞳を向けた。
その被害者の濁った瞳、歪んだ顔を見て、ボイルは理解し、そして激怒した。
「どの男がダーシルなのか関係ない。三人ともぶっ殺す‼」
「ちょ、何言ってんだ。ダミー‼ダミー‼ダ…」
「っるいせー。死んだよ、そいつ」
多分。いや、他にも誰かいるのかも。
だけど、近くには居ないと確信できる。
俺は助けを呼んだ男の心臓を背中から突いた。
外道の肉でも、その辺の肉と変わらない。何が違うというんだ。
「ひ…、ちょっと待て。俺た…ち…」
ゴトリと次の男の頭が落ちる。
頭の中が違うのかもしれない。だけど、頭部は損傷できないから、割ってみることは出来ない。
そして三人目の男を前に、俺は呟いた。
「待たないよ」
三年の沈黙は長すぎた。弟妹のかなりの人数が卒業している。
成長したってちゃんと顔は見分けられた。
ここはダンデリオン孤児院とそんなに離れていない。
だって、子供の足で買い物に来ていたくらいだ。
世の中のことを何も教えてもらっていない子供たち。
卒業した後は当たりと外れがある。
「一番の当たりを引いたのは…俺…だった…のか…」
そういうことだ。
俺の腕は剣の形のまま、三人目の男の左胸を刺していた。
「どこからの刺客だ…」
「お前は誰だよ」
「こっちのセリフだ。俺たちが誰か知ってるんだろ。だったら…」
ボト…
「へ…。ひ…」
「萎えてたから、要らないだろ、ソレ」
「うわぁぁぁぁああ。なんだよ、お前‼待ってくれ、なんでもする。俺は…」
「ダーシルだろ?ロドリゲス家の血。どうしてお前に息子が二人もいる。あ、そっちの息子の話じゃない」
ゴト…。今度は拾おうとした腕が落ちた。
こんなの大した傷じゃない。さっきのだって、奇麗に切り落としたから、こいつらの回復魔法であれば戻せただろうに。
あろうことか、こいつは恐怖した。だから腕も切り落とせた。
「ひ…。だから、待ってくれ‼俺を殺したらロドリゲスの血が…」
「悪魔に取り憑かれている血。だが、権利はある…だっけ?最後に神に慈悲を乞う時間くらいはやる…」
ズ…ドン‼
「あ。動くから…。地獄で待ってろ、ダージル…」
抵抗しようとしたのか、それとも土下座でもしようとしたのか、動いたから首を斬った。
こっちは両腕とも、鋭い剣で出来ているってのに。
あれ、鞘、どっかで落っことした。そんなのどうだっていい…
「こいつらには地獄すら生ぬるい。俺と同じ人生を歩ませるべきだった…。いや、俺は当たり…だったんだよな。ゴメンな、お兄ちゃんがこんなで。…ミカ、ラミー、マーガレット…」
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