第14話 独房で死を願う

 独房の向こう側で繰り広げられている会話。

 ボイルはただ呆然とし聞いていた。

 食事をいつ取ったのかも覚えていない。

 昨日の朝にヤケに栄養価の高い食事を取った。

 それで未だにお腹が痛いのか、蹴られ続けたからお腹が痛いのか分からない。


 とにかく食欲がない。

 それがかえって彼に考えさせる時間を与えていた。


 誰でも一人や二人くらい殺したい奴がいる……か


 その言葉が耳に残っていた。

 アレの憎悪は本物だった。

 殺したいほど憎んでいたというか、彼は本当に殺してしまった。


 そのために見ず知らずの人間を、俺を利用した


 元々、猿轡を外す必要はなかったし、何なら猿轡のままの方が良かったのだ。


 そもそも、あのギロチンの刑のトラブル、あそこから怪しい。

 彼らは公爵がどうとか言っていたが、公爵家ならば王族とかなり近い関係にある。

 そして同じような手口で罪をなすりつけた。


 最初からだ。多分、俺の情報の殆どが伝わっていた。さっき、誰も石を投げなかったし…。

 フレーベ家のあいつらは俺を逃す手筈を整えていたのかも。

 投石、それから火災。舞台が壊れて…、偶然逃げ出せた。

 流石に偶然が重なり過ぎてる。でも、俺が冤罪だと知っていたのかな…。

 あの状況になれば俺が逃げると分かっていた?


「ふーふ、ふふふ…」


 普通に考えたら逃げるか。でも、俺が正義の名のもとに王を殺した。殺すなら殺せって思っていたら…?

 いや、考えても意味ない…か


 野次馬に協力した者がいたのは間違いない。

 あのリリアンの憎悪、ルーシアの憎悪は本物だった。

 どうしたら、憎い人間を殺せるのか、あらゆる手段を考えていた。


 俺が救世主か。殺したい人間を殺して、俺を身代わりにする。そして俺はここに戻ってきた。笑えるじゃないか。救世主と持て囃されてこのザマだ。


 そこでルーシアの言葉が脳内で自動再生される。


「この世界で一番有名」


 という言葉。思い出したことを後悔してしまう。


 それじゃあ、孤児院にも…、アリスにも伝わっている…のか?


 孤児院卒業間近の少女の面影がチラついた。

 あの孤児院の院長先生がギロチンで殺されたのは、間違いなく自分のせい。

 こんな悪魔を世に放った彼が、罪に問われない筈がない。

 だから院長先生が憎んでいたのは、間違いなくボイル。

 他の二人もボイルに関わっていたという理由で殺された。


 言ってみれば、彼らも冤罪。


 考えちゃダメだ。どうせ明日の朝にはギロチンだ。寧ろ、俺はあの子の気持ちを踏み躙ったんだ。無実だけど、彼女のことを裏切ったことをしたのは事実だ。


 やっていない。でも、強姦罪だけは伝わって欲しくない。正直、王殺しなんてどうでもいい。

 それに…


 母親と慕っていたあの方に、綺麗なお姉さんだったリリア……いや、ルーシアに俺は欲情した。そして……、不純なことをしてしまったのは間違いない。


 アレは抵抗できたのか、そんなの分からない。

 本当に魔が差したのかもしれない。

 つまり、こんな自分は死んだ方がマシだ。

 どんな顔をして、あの子に会えばいいのか分からない。

 だから彼は願ってしまうのだ。


 今度こそ、俺を殺してくれ、と

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