05 かわいいかわいいお嬢さん!

side 小鳥遊みずき(ことりさん)


学校から家に帰り、近所のカフェで今日も私は働いていた。

カウンターに立ち、お客様の注文を聞き、値段を言い、お金をもらい、レジからお金を取り出し、お金をお客様に渡す。

ただ、それをするだけ。


接客にも手慣れていたある日、

見たことがないお客様がきた。

ここらでは有名なお嬢様学校とよく言われる、

椎名華川学園高校しいなかがわがくえんこうこうの生徒さんだ。

通称"椎学"とも呼ばれる。

明らかに、お嬢様だ。

私は、一般的高校に在学しているため、

The・お嬢様みたいな人は見たことがなかったら凄く驚いた。

だけど、あまり見ないようにした。

見すぎると失礼かもしれないから。


ふと見ると、お客様が入口付近でウロウロしていた。

『初めてだから迷ってるのかな』と思い、

遠くからお客様に声をかけた。

「お客様、どうかしましたか?」

お客様は私の声に反応し、カウンターの場所を理解したようで、小走りでこっちに来た。


お客様は口を開き、言った。

『チョコレート・カプチーノ1つくださいまし』

そのとき、私はまた凄く驚いた。

この時代にお嬢様言葉で話す人がいるんだと。

しかも、とても可愛らしい声で。

こんな声になりたかったなぁ…なんて思いながら私はお客様に言った。

「かしこまりました。

あちらのお席でお待ち下さい。」

そう言うと、私に向けてお客様はニコニコと微笑み、席に座った。


2日後、あのお客様が来られた。

どうやら、今回はカウンターのある場所は分かっていたようで、一直線にきた。

『チョコレート・カプチーノ1つ、マカロン5つ、パウンドケーキ1つくださいまし』

お客様は可愛らしい声で言った。


「かしこまりました。

あちらの席でお待ち下さい。」

私が言うと、お客様は一直線に指定した席に座った。


注文されたものを全て用意できたため、

私は、お客様が座っている席に向かい、机に置いた。

すると、お客様が口を開き、言った。

『名前、教えてください!!』

他のお客様からこういった事は言われたことがなかったから、少し戸惑った。

そして、ポケットに学校で使っている名札があったことを思い出し、お客様に見せた。

名札を見せると、お客様は少し戸惑っていたように見えたけど、気の所為だと思って気にしないようにした。


『ことり…さん?でしょうか?』

お客様は戸惑った目をしつつ、言い放った。


一瞬、「可愛い、可愛すぎる」と思ってしまった。

というか、お嬢様言葉じゃなくなってる…?

どこをどう読めば、‘’ことり"と解釈するのだろうか。

確かに、読み方が難しいからよく間違えられるけどあんまりない体験だ。

私は、お客様にそう呼んで欲しかったため、

読み方が間違っていても指摘しなかった。


私がカウンターに戻ろうとすると、

お客様は言った。


『あたしの名前は井堂りりあですの。

ぜひ呼んでくださまし。』

「名前も可愛いんだな」なんて思った。

お嬢様言葉に戻っていたことに驚きつつ、

お客様…いや井堂りりあちゃんに返事をし、カウンターに戻った。


「カウンターに戻りたくない」

なんて思ってしまいそうで、少し怖かった。


そして、私はふと彼女をみた。

カプチーノを飲み、パウンドケーキも食べつつ、マカロンも食べている彼女の姿が秀麗だった。 

なんで、あんなにもお上品に食べれるんだろう。

少し彼女が羨ましい。


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