4/4

 でも、これまでだってどんなときも、シオリは傍にいてくれた。私の喜怒哀楽のシーンには、いつも彼女がいたのだ。私のことを小川の飛び石か何かだとしか思っていなかった男子たちと違って、ずっと離れずに、見捨てずにいてくれた。その事実をあらためて噛みしめる。


 刹那、胸の中で、たった一粒だけ光り輝く琥珀糖を指先で摘み上げる。それがとてつもなく甘く切ない毒だと知りながらも、私はそれを口に運ばずにはいられなかった。


 シオリは今も、だまって私を抱きしめている。そっと頭をもたれかけると、シオリの豊かな髪が私の重みを受け止めた。

 花のにおいを一度だけ肺に送り込んだあと、私はそっと呟いた。



「私、これまでに何人かから告られたことあるけど、その切り口は初めてだな」



 今度はシオリのほうから、身体を離していった。ちょっとむくれたような表情になっているのは、過去に私を飛び越えていった存在への嫉妬だろうか。


 でも、これだけは事実なのだ。私は過去のどんな告白より、さっきのシオリの告白が一番、胸の奥に届いていた。重くて苦しいときもあるだろうが、シオリがいるなら、どんなときも泣きながら笑えてしまうような気もしている。


 私はずっとシオリと一緒に過ごしてきたけれど、はじめて、手をのばして彼女の頬に触れてみた。私の手の温度よりも少しあたたかくて、すべすべしている。まるでお菓子みたいな子だ――と子供じみた感想を抱きながら、呟いた。



「けど、単に『一緒にいたい』より『一緒に地獄へ行こう』のほうが響くのは、どうしてなんだろうね」



 シオリも、私の頬に手を添えた。何かを心に決めたような彼女の瞳はいま、さっきとは違った感情によって震えているように見える。

 まるで擦りガラスの奥にあるみたいに、あともう少しで見えそうなのに、見えない。


 ねえ、シオリ。あなたはいま、幸せかな。

 そうだとよいのだけど。



 シオリは私のほうへぐっと顔を近づけて、笑いながら囁いてきた。



「苦難を共にするよ……って言葉には、何があっても離れないで一緒にいるよ、っていう甘い感情が混ざってるからだよ」



 琥珀糖みたいに?



 その言葉が思い浮かんだ刹那、シオリは私の唇を自分のそれで塞いできて、何も言わせてくれなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

甘い亀裂 西野 夏葉 @natsuha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ