第6話【秘密】実は私もVtuberやってます、って言いたい【コミュ障】
■難波芸術大学 第二食堂
大学の総合体育館2階にある第二食堂が俺達のいるキャラクター造形学科の新校舎から一番近い食堂だ。
新校舎は西洋のお城のようなデザインで、ポツンとたっているため目立つ。
だが、他のいろいろな施設からは遠いという立地だ。
「飯を食うためにいちいち移動するのも面倒なんだよなぁ……」
とはいうもののワンコインでしっかり食べられる大学の食堂はバイトで学費を稼ぐ俺にはありがたい存在である。
食券でいつもの芸大カレーを買った俺は後ろから視線を感じた。
振り返れば、眼鏡をかけて髪を無造作に下ろしている女性と目が合う。
目があった女性は「あわわっ」と口に出しながら券売機で、日替わりランチを購入した。
「あわわっていう人、リアルにいるんだな……」
「何をいっているんだい、猿渡くん。早く行くよ」
「おう」
先に創作丼を頼んでいた高城に続いて、その場から離れた。
席を確保して、頼んだ料理を受け取ると、「いただきます」と俺達は昼飯を食べ始める。
すると、隣の空いている席に先ほどの日替わりランチさんが座った。
日替わりランチさんは俺をじーっと見てくる。
「えーっと、何か用?」
「はわわっ、あのっ、その……教室でVtuberのうずめちゃんの話をしてた、からっ」
俺がその視線に耐え切れず、日替わりランチさんへ声をかけると、慌てふためきながら答えてくれた。
日替わりランチさんもうずめちゃんのファンなのだろうか?
「俺の推しなんだ……」
「ふっ、猿渡くん。そこはママだとちゃんと名乗ろうか。大学内で実績を隠すのは良くないぞ」
高城があえて黙っていたことを平然と言ってくる。
この空気の微妙な読まなさもイケてる仮面に反して残念な部分だった。
「えっ、じゃあ、あの……サルヒコママさん、なんです、ね」
ふわわわっと顔を赤くして口元をこの時期に暑そうな萌え袖から覗く手で日替わりランチさんは押さえる。
いい加減、日替わりランチさんと呼ぶのも面倒なので、俺は名前を聞くことにした。
「キャラクター造形学科の猿渡 敏彦。こっちが同じ学科の高城 翔太だ。俺達のやり取りを聞いていたというのであれば、同じ学科だよな?」
「は、ひゃい! キャラクター造形学科の高橋 彩花といいましゅっ!」
漫画であれば汗が頭から大量に飛んでそうなアクションをしながら、高橋は頭を下げてくる。
大学内でうずめちゃんファンに出会うのは素直にうれしかった。
リアルで話せる奴とは今まで出会えなかったので、この大学に入ってよかったと思う。
「よろしく、高橋」
「右に同じだよ、高橋さん」
俺と高城は高橋と打ち解け、食後のコーヒーを一緒に飲んでいた。
話は出身地の話から、大学に入った理由へと移っている。
「高橋は趣味で絵をかいているから、この大学に?」
「は、はいっ、もっとうまくなりたく、て……」
「俺ももっとうまくなりたいんだよな。Vtuberのママになる夢は叶っちゃったけど、たくさんの愛されるキャラクターを作っていきたい」
大学に入っていろいろあったけど、新しい目標を掲げて頑張ろうと思えた。
「じ、じつは……わたしっ、もっ……」
高橋が何かを言おうとしたとき、予鈴が鳴る。
大学が広いこともあり、食堂から遅刻しないよう、休憩時間が終わる10分前で鳴るようになっていた。
「俺は次のコマで講義があるからこれで!」
「猿渡くん、天原様との件よろしく頼むよ」
「連絡は入れたから返事待ち、来たらお前にも伝えるよ、じゃあな」
俺は高城と高橋に手を振って、第二食堂を後にする。
話すのが楽しすぎて予鈴ギリギリまで過ごすのは初めてだった。
今後のキャンパスライフもうこうなるのなら、これから楽しみだなぁ~。
◇ ◇ ◇
(サルヒコさんとしゃべっちゃった!)
私は興奮を抑えきれずに大学のトイレで悶えてしまう。
地味な私がVtuberで変わろうと思った切っ掛けをくれたうずめちゃん。
そのうずめちゃんの新しいデザインを作ったサルヒコママという存在は私にとって神のようなものだ。
(浴衣のうずめちゃんってどんな感じになるんだろう、お金を稼いで貢ぐ準備しなくちゃ!)
女子高生Vtuber『桜花ふう』として、高校一年生から活動をはじめた私も今では登録者5000人とそこそこの実力者となっている。
スパチャやメンバーシップなどのお金は機材などに使っているけども内訳にはうずめちゃん費があった。
これをつぎ込む準備はできているので、サルヒコママとYaoyoro’sには頑張ってもらいたい。
「私もこれから帰ったら配信準備しなくちゃ」
一人小さく呟くとトイレから出て、天王寺にあるマンションへと向かうのだった。
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