第3話 【急募】シスコンなヤクザがバイト先に現れたときの対処法 ※当方DDのため非力です
■佐々木弁当店
「はぁ……」
「トシくん、どうしたの?」
その日、何度目かわからないため息をついている俺の顔を佐々木弁当店の一人娘の
「セイラさん……ちょっと悩み事ありまして」
高校時代からお世話になっているバイト先なので、お互い名前で気楽に呼び合う仲だ。
とはいっても、呼び捨てはできないのでさん付けをしている。
響きが某有名ロボットアニメの金髪お姉さんなのだが、気にしたら負けだ。
「大学で何かあったのかな?」
「大学ではなにもないんですが、ある事務所のVtuberの専属ママにならないかってお誘いがあったんですよ」
聖良さんは俺から顔を離し、ポテトサラダを作りつつ話を続けた。
相談をしながらも、手を動かさないと準備は進まない。
揚げ物などは店の奥で、聖良さんの両親が作っている。
開店前の仕込み時間なので、平行してやらなきゃいけなかった。
お店が開けば、相談している時間もないので俺も手を動かしながら頭を整理していく。
「Vtuberのママってトシくんの夢だったでしょ? それなら、すぐに受ければいいじゃない」
「それはそうなんですけどね……」
俺が悩んでいるのは相手が神様を自称しているところである。
天野うずめのデザイン費用はちゃんと振り込まれていたので、詐欺とかではないのは確かだ。
それ以降うずめはVtuber活動を続けていて、チャンネル登録者数は増加傾向にある。
俺のデザインが世の中に認められ、受け入れられているのは嬉しいことだった。
「なんか、美味い話過ぎて信じられないというか、なんというか……」
歯切れの悪い答えしか、聖良さんに返せない。
人には言えないが、神様のガワを作るなんて、恐れ多すぎるのだ。
「ふ~ん、私は夢があるなら手段は選ばないで掴んじゃうけどなぁ~。トシくんは美大にいくために浪人してまでも頑張ってきたけど、それって大学に入るためじゃないよね?」
聖良さんの言葉に俺はハッとなった。
そうだ、何のために大学に入ったのかを忘れていたようである。
大学に入ったのはスタートであり、ゴールじゃないのだ。
「ありがとうございます。俺、なんで悩んでたんだろう……」
苦笑が浮かぶ。
実際にうずめは動いているのだから、実績作りにはなるのだ。
それならば、遠慮せずにのっかったほうがいい。
そうしようと心に決めた。
「いい顔になったね。さ、準備も終わったから今日も開店しよう」
フフフとほほ笑んだ聖良さんが、いつの間にか用意できていた総菜一式を確認すると、閉まっていたシャッターを上げる。
上っていくシャッターから黒いスーツに黒い革靴の足が姿を現していた。
シャッターが上がりきると、茶髪をオールバックにしたサングラスをかけている体格のいい男がいる。
閑静な住宅街の弁当屋に開店と同時に見かけるような人じゃなかった。
「おう、オマエが猿渡か?」
ドスのきいた低い声で目の前のヤクザ風の男が俺に声をかけてくる。
聖良さんはいらっしゃいませの一言も出せないほど、目の前の男の姿に驚き、恐怖していた。
正直なところ、俺もビビっている。
サングラスの奥にある瞳が俺をにらみつけてきた。
「おう! 猿渡はテメェかと聞いてんだよ!」
「はっ、はい! 俺が猿渡です!」
怒鳴り声をあげた男に俺は思わず直立不動の姿勢になって答える。
こういうときって体が勝手に動くというが、本当だったんだな。
「ちょっとツラかせや」
「え、でも……」
「あ、あの! うちのバイトに何の用でしょうか! け、警察呼びますよ!」
男にすごまれて、おろおろしている俺を助けようと聖良さんが震える声で割り込んでくる。
「ちょーっと、コイツとオハナシがあるだけだ。別にサツの厄介になるようなことはしないし、近くの公園で10分くらい話せればいい」
「わか……りました……10分後、連絡がなかったり、トシくんが戻ってこなかったら警察……呼びますからっ!」
男が獰猛な笑みを浮かべていると、聖良さんは精一杯の条件提示をしてから俺をカウンターの奥から店先に出した。
「ここで大きく騒ぐと迷惑なので……いき、ましょう」
聖良さんに助けてもらってばかりはかっこ悪いので、俺はガクガクと震える体をごまかすように男についていき、佐々木弁当店をあとにする。
(今日が俺の命日なのかなぁ……)
青い空を見上げながら、なぜだかそんなことを考えていた。
■名もなき公園
最近の公園にしては珍しく、砂場やブランコなどがある昔ながらの公園のベンチに俺とヤクザな男は座っている。
「おい……テメェよ……ねーちゃんの申し出の答えどうすんだよ?」
「ねーちゃん?」
ヤクザから発せられた言葉の意味を俺は理解できずに繰り返してしまった。
「照代ねーちゃんに決まってんだろ? もう1週間くらい前だろ、会ったのはよぉ?」
ギロリと男が俺を睨んできた。
もう、すでに帰りたいが照代さんの名前が出てきたので帰るわけにはいかない。
このいかついヤクザは神様関係者……アマテラスの弟というと、スサノオノミコトだ。
「スサノオさんですか……」
「こっちじゃ、皇
正体がわかると俺はほっと一息つく。
どうみてもヤクザなんだから、借金の取り立て系かと思ったのだ。
串田なんて、この辺を牛耳っている串田組しか思い浮かばない。
「え、もうすぐ串田って……」
「組長んとこに婿養子に入って嫁の名字を名乗ることになるんだわ……って、オレのコタぁどうでもいいんだよ! ねーちゃんの申し出、『ぶいちゅーばーのまま』だとかいうのをどうすんだって話だ!」
ヤクザな見た目の左之助さんはマジのヤクザになるようだった。
神様がヤクザっていうのはありなのか? というか人間と結婚もいいの?
いろんな疑問が浮かんでくるが、左之助さんに聞いても答えてくれないどころか怒らせそうだった。
「返事が遅くなってすみません、受けさせていただきますと今日伝える予定でした」
「おう、そりゃぁ結構だ。ねーちゃんのやろうとしていることはいいことだからな。オレは馬鹿だけどよ、それくらいはわかる」
先ほどとは違い、ニィと上機嫌な笑みを左之助さんは浮かべている。
馬鹿だけどわかるっていう人(?)、はじめてみた。
「ねーちゃんにはオレから伝えておくから、細かい契約等はメールだかでやってくれ」
「ええっと、聞くのが怖いんですが、断っていたら俺はどうなっていたんです?」
ベンチから立ち上がった左之助さんを見上げながら俺は恐る恐る聞く。
左之助さんはニンマァとしか形容できない笑みを浮かべて、答えた。
「そりゃぁもう……『やらせてください』と言うまで、説得しただろうなぁ」
意味深すぎて、それ以上聞けない。
俺は立ち上がり、礼だけすると急いで佐々木弁当店に戻るのだった。
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