第5話

「ヒュッター、君は何が訊きたいの?」


沈黙。その後、彼は今度は質問をするために首を傾げた。


ブーメランのように返ってきた質問を、テアは困惑して受け取った。


「何って…だって、いつも余談とかしますよね?先生。なのに、今日は本当に教科書を読み上げてるだけだったから…」


いや、待て。


テアは自らを制止する。


おそらく、私自身は既に自らの質問の答えを持っている。彼も、そのことは分かっている。


ならば、これ以上外枠の質問をこねくり回すのはただの野暮だ。


そう、真意を言ってしまえばいい。私が訊きたいのは…


「先生。私、先生の授業が好きなんです」


彼が明らかに面食らうのが見えた。


テアはそのまま核心に突入する。


「先生は、先生の歴史の見方を語ってくれるから。私、教科書の教義的な文章より先生の話の方がよっぽど真実に近いんじゃないかなって…そう思うんです」


その教義的な文章を、彼はそのまま読んで終わりにした。


だから思う。


何かを別に持っているのだろうと。


「…」


「だから教えてほしいんです。先生の本当に思うところ」


言い切った。


テアは喉に空気が通り抜けるのを感じた。


全て言った。しかし、これでいいのだろうか?


胸の内に一抹の不安がよぎった、その時、アウラ―がふっと笑った。


教師らしい、優しい笑みだった。


「君、身の危険を考えたことはないのか」


「え…?」


「消されかねないぞ?それに、私は教師だ」


教師であるからには自分ももろとも生徒を危険に陥れることはできない、そういう意味だと解釈した。


「…そうですよね」


自分の言いたいところは伝わったのだろうか。


ふと、考える。


この国家教育システムには不真面目で、生徒には真面目なこの教師に、自分が言いたいところは伝わったのだろうか。


「これからは気を付けます」


テアはそれだけ言って、回れ右をした。


これ以上何を言っても教えてもらえないとの確信があったからだ。


「ああ待て、ヒュッター?」


呼び止められた。


何だろう。予想が、つかなかった。


教師はテアを両目でまっすぐ捉えて、口を開いた。


「…あまり、真実を突き詰めすぎるな。それだけ言っておく」

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