第3話
「テア、今日の歴史の予習してきた?」
登校中。街の市場に差し掛かったとき、ヨハンナが訊いてきた。
「え?…っと、一応は」
いつの間にか机に突っ伏して寝てはいたが。
いや本当にやったっけ?と気になり記憶を呼び起こす。
今日の授業の内容は15年前の共和制成立の話だったはずだ。
B団が腐敗した王制を倒したその流れとか、そんな感じ。
よし、大丈夫。頭の中での確認を終えた。
「あのね、変だと思ったの」
ヨハンナは目を細めた。遠くを見透かすように。
「え?」
「予習しながら変だと思ったの…歴史が。大人の話聞いててさ、王制が腐敗してたなんて感じたことないのよ」
危ないところを攻めたコメントだった。
誰かに、例えば警察とか駐屯兵とかに聞かれたら、職務質問くらいはされそうなコメントだった。
声を落とすよう手でサインし、ヨハンナは続ける。
「だから、B団ってやっぱりどこかを改竄して自分たちに都合の良いようにしているように見えるの。私たちの教科書だったり」
「ヨハンナ」
これ以上はやめた方がいいと無言で伝え、二人は黙って歩く。
言論統制。
小さな街ではあるが、それがないわけではない。
何かを間違えると、彼彼女は比喩でなく消える。
勿論、消えるのは最悪の場合の話で、ほとんどの場合はあからさまに厳しい注意で終わるのだが。
「…言いたいことは分かる。でもだとしたら彼らは何が目的かと考えるの。何を隠したいのか、何をしたいのか」
敢えて代名詞を使った。これは、自分とヨハンナを守るため。
「古いものまで壊して、何を作りたかったのか。…なんてね」
「さあ、分からないよ」
そろそろ校門が見えてくる。
初夏の日差しを受け、全ては透き通る。
「だよね…。でも、私そういうのを解明していくのが歴史学だと思ってる。どれだけ何にも染まらず誰かのストーリーを語れるか」
そう、今日の太陽のように。
人間という存在の全てを照らすものを…。
「それができて初めて世界に平和と自由が訪れる。何かに染まっているだけじゃ、争 いは終わらないと思うの」
だから私、大学では歴史を学びたいのよね、と笑って付け加えた。
「テアらしいね」
ヨハンナは微笑した。
「うん、私は真実を見つけに行きたいの」
…生きている限り、真実を。
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