第2話

革命歴15年5月8日朝




声が聞こえる。


誰?


誰かは知らない、赤ん坊の泣き声。


ただの泣き声じゃない、張り裂けんばかりのつんざく声。


(何かを訴えてる…)


テアは思わず身を背ける。


気の狂いそうな声だった。


…ア、…テア…


またどこからか別の声が聞こえる。


今度は自分の名を呼ぶ声。


さっきのとは違う、聞いてて気持ちいい声…。


「テア!」


「おわ、何?!」


バン、と耳の横を叩かれて気づいた。どうやら寝ていたらしい。


ベッドで、ではなかった。自宅のダイニングテーブルで歴史の教科書を広げた上で。


そして、今私を起こしたのは家が隣で且つ同級生の幼馴染、ヨハンナらしかった。


くるくる赤毛の長髪を垂らした彼女とはいつも一緒に登校している。


気心もしれた、一人っ子のこちらからすると姉のような存在。


…とはいえ、家の中までずかずかと上がり込んでくることには納得しないが。


「ヨハンナ、なんで勝手に…」


思ったところを口にしようとして、ヨハンナが目尻を上に動かしたところで母が居間に入ってきた。


服が寝巻でなく、バスケットを抱えているところを見ると、朝から市場に行っていたらしい。


「お邪魔してます」


ヨハンナは礼儀正しく挨拶をした。


「まあまあヨハンナちゃん、あなたならいつでも大歓迎だから。それに、うちのテアを起こしに来てくれたんでしょ。もう、本当に申し訳ないわ」


「うっ」


双方から軽く睨まれ、肩をすくめた。


「許してよ、実は今日私バースデーガールなんだよ…?」


ちなみにこれは事実である。


今日、私は16歳になるのだ。実感はないけれど。でもめでたいことには変わりないじゃないか。


しかし、双方の反応は思っていたのと逆だった。


「はーいはいはいおめでとうございますー良かったですねー」


「何よそれ、心がこもってない!!」


「もうテア、いいから学校に行くのよ!」


仕舞には怒り出す母。いやこれくらいでキレる?と心の中で突っ込んでいると。


ヨハンナが母の顔を見て、ぽかんとした表情で言った。


急な空気感の落差だった。


「…今更だけどさ、テアとお義母さんって全然似てないよね」


あら意外、本当に文字通り今更の話だな、と私は思った。


一応、よく言われることではあるのだ。


私は母にも似てないし、それから父にも似ていない。


髪の色だけは似通っているが、それ以外は全くもって身体的特徴の共通点がない家族なのだ。


それでも、知る限り特段の事情はないし、苗字は全員ヒュッターだし。


母を見ると、彼女はなぜか虚ろな目でぽかんとしていた。


話が流れがそれで落ち着き、二人は家を出ることにした。


「テア、今日は早く帰ってきてね」


玄関で母が言う。


ああ、いつもの日だ。





















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