大食いの彼女は、可愛くて胸も大きくてエロい

あかせ

第1話 大食い女子大生との出会い

 「俺に出来そうな“大食い”はあるかな~?」


ある土曜日の昼前。自室でそんな独り言を言いながら、携帯で大食い情報サイトの“好食こうしょく”をチェックする。


このサイトには、全国各地の大食い情報がたくさん載っている。もちろん近隣などの絞り込みも可能だ。


大食いメニューを利用して店を宣伝したい人が好食に登録し、それをクリアできると判断した人がチャレンジする仕組みになる。いわば、だろうか。


チャレンジできるのは好食の会員だけで、当然俺は会員登録を済ませてある。好食を通しての大食いは何度もやってるから、素人は卒業済みだ。


チャレンジャーが大食いに失敗した場合、必ず店と好食に対して違約金を払わないといけない。自分の力量を見誤った証拠なので、払うのは当たり前だろう。


それともう1つ決まりがあり、チャレンジャーは大食いの成否に関係なく、店とメニューに対して絶対レビューを書く必要がある。大食いメニューを出してくれる店に感謝してるから、面倒だと思った事は1度たりともない。


とまぁ、好食については大体こんな感じだ。腹が減ってるしさっさと決めよう。



 「これ、良さそうだな」

ようやく、俺に出来そうな大食いメニューを見つけた。


俺は“少し”大食いなので、本格的なのは無理だ。合うレベルを探すのにいつも苦労するんだよな…。


今回俺がチャレンジするのは『カレー1000グラムを15分以内』だ。画像がないから詳しくはわからんが、何とかなるだろ。


店の場所は大学までの通学定期券の範囲内みたいだ。つまり交通費はタダ、ラッキーだぜ。


時間は14時台と15時台限定か。大食いは準備に手間がかかるから、ランチタイムの後にやるのが鉄則だ。それぐらいは常識になる。


…ん? 14時に既に1人予約が入っている? その人と一緒にさせてもらおうかな。店によっては食べる様子をジロジロ見られるから、2人いれば視線は半分になる。


よし、予約完了! 後は14時ちょい前に店に行くだけだ!



 13時50分にお目当ての店に入る俺。するとホールの女性スタッフが気付いてこっちに来る。


「いらっしゃいませ」


「あの…、好食で予約した佐竹です」


「そうでしたか。これでお二人揃いましたね」


女性スタッフの視線の先には、黒パーカーを着た女子が1人いる。歳は大学1年の俺と同じぐらいだと思う。


大食いの世界に男・女は関係ない。華奢な女子でも食べる人は本当に食べるからな…。


「お二人には申し訳ないのですが、テーブル席で大丈夫でしょうか?」


というかこの店、テーブル席しかないじゃん。初めて来たから今知ったぞ。


「私は構いませんよ」


女子はそう答えた後、俺を観る。


「俺もです」


「ありがとうございます。では、こちらにどうぞ」



 女性スタッフに案内されたのは、4人掛けのテーブル席だ。俺と黒パーカーの女子は斜め向かいに座る。


「準備が終わるまで、もうしばらくお待ちください」

そう言って、女性スタッフは俺達から離れていく。


「ねぇ。あなたはよく大食いするの?」


まさか女子のほうから声をかけてくるとは。


「するよ。この店は初めてだが」


「私も両方同じ。それともう1つ良い?」


「何だ?」


「あなたは大学生で良いのかしら?」


「その通りだ。1年になる」


「奇遇ね。私もなの」


ここまで偶然が重なると、もしかして大学も同じかも?


「大学はどこになるんだ? 俺は『黎徳れいとく大学』なんだけど…」


「私は『長浜ながはま女子大学』よ。近いけど別だったわね」


クスッと笑われた。俺の考えが読まれてたか。


「…あっ、カレーが運ばれてきたわ。お互い頑張りましょう」


「そうだな」

俺を気遣う余裕があるのか。相手も素人ではないようだ。



 男性スタッフ2人が、俺と女子の前にカレー1000グラムが乗った大きい皿を置く。始まるまでに分析をしておこう。


ルーにとろみはなく、水っぽい感じか。俺はとろみがあるほうが好みだが、贅沢は言ってられない。


具材は、細かく刻まれた人参・玉ねぎに加えて肉が見える。豚肉か牛肉だろうが、小さくて判別できない。何にしろ、負担になる要素はない。


これを15分ならイケそうだ。…男性スタッフと入れ替わる形で、さっきの女性スタッフがストップウォッチを持って俺達の元に来る。


「制限時間は15分です。チャレンジに失敗した場合、違約金として1万円いただきますのでご了承下さい」


それはわかってるから早く始めてくれ。腹ペコなんだよ。


「では…、始めて下さい!」



 カレーをスムーズに食べる、俺と黒パーカーの女子。さっきの肉は豚肉だったようだ。辛さも普通だし、俺にとってこのカレーは楽勝だ。


「ふぅ、暑くなってきたわ」


黒パーカーを脱いだ女子。カレーとご飯が熱いから、理由はわかるんだが…。


おっぱいでかいな~。白Tシャツにプリントされた犬が、横に伸びて悲惨な事になっている。いや、犬からしたら幸せかも?


…なんてふざけてる場合じゃない。違約金があるから油断はできない。食べ終わった後に、おっぱいについて考えよう。



 「お二人共、完食お疲れ様でした。タイムは…」


女性スタッフに言われるまでもない。俺はおっぱい女子もとい犬Tシャツ女子より後に完食したのだ。彼女のほうが1枚上手だったな。


「佐竹さんが13分28秒・藤咲さんが12分9秒です」


彼女は黒パーカーを脱ぐ時に手を止めておいてこれだぞ? どんだけ早いんだ。


俺がおっぱいに見惚れなくても、結果は変わらなかっただろう…。


「1週間以内に、当店と今回のメニューについてレビューをお願いします」


「わかりました」

帰ったらすぐやるか。


「はい」

犬Tシャツ女子は答えた後、黒パーカーを着始める。


「既にご確認済みだと思いますが、お二人は成功されたのでお代を頂きません」


それは予約する際の概要欄に書いてあったな。店によっては、成功しても少し払う場合がある。


腹がいっぱいなので、スタッフが皿を片付けた後もゆっくりしよう。黒パーカー女子も同様みたいだ。


「佐竹君お疲れ様」


この店で俺の名前が出たのは2回だけだ。もう覚えてくれたのか。


「そっちこそ」


「またどこかで会えると良いわね」


「ああ…」


この場で別れるのは惜しい。女子の知り合いを作るチャンスなのに…。なんて考えた時、好食のSNS機能について思い出す。


簡単に言うと、大食いユーザー同士で交流できるのだ。これを有効活用しよう。


「あのさぁ。良かったら、好食のアカウントを教えてくれないか? せっかく知り合った訳だし…」


「良いわよ。交換しましょうか」


…俺達は無事交換を済ませる。別れてすぐブロックされない事を祈る。


「自己紹介が遅れたわね。私は藤咲ふじさき まどか。よろしくね」


「俺は佐竹さたけ 英二えいじだ」


「そろそろお腹も落ち着いた事だし、出ましょうか」


「そうだな」



 一緒に店を出た後、俺と藤咲さんは別れた。俺達には“大食い”という共通の好みがある。今後の予定を訊いたりして、少しずつ距離を縮められると良いな。


そんな事を思いながら、俺は帰路に就く。

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大食いの彼女は、可愛くて胸も大きくてエロい あかせ @red_blanc

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