大正あやかし探偵社

夕紅

第1話 鞠子嬢

「くあっ…」

ん〜…朝だ…

着替えてお茶を飲んでいると、

「きゃあああ!」

「えっ?」

なにがおきた?

「お嬢様!ご無事ですか!」

「ええ。どうかしたの?」

「それが…」

「何よ。」

「幸三様が、こっ、殺されました」

「は?」

幸三とは私の父だ。お父様がなぜ殺された?

「犯人は?」

「跡形もなくいませんでした…」

「そう…とりあえず現場へいかせて」

「いけません!」

「なっ!私は西園寺家次期当主よ!?」

「そうなのですが…とてもお嬢様に見せられるものではなく…」

「かまわないわ。死体ぐらいどうってことないわ」

「なら…」

私は現場だという寝室へむかった。

「これは…」

そこにあったのは原型をとどめていないなにかだった。死体は激しく損傷しており、そこかしこが血にまみれていた。母はもともといない。数年前に病死した。

「お困りですかな?」

声がしたほうへ振り向くと、入口に青い着流しに黒の羽織を着、銀髪なのに若々しく、長い髪をゆるりと後ろにくくった青年と、山高帽をかぶった、白いシャツの上に黒い着物を着て赤黒い袴をはいた短めの黒髪の青年が立っていた。

「どちら様でございますか?」

「申し遅れました、私、あやかし探偵社の水月と申します。」

「おなじく、要ともうします。以後、お見知りおきを」

銀髪の青年は水月、黒髪の青年は要となのった。

「ちょっ…お嬢様!危のうございます!」

「大丈夫よ。この事件を解決してくれるかもしれないわ。それに、いま全権は私にあるはずよ。」

「ですが…わかりました」

「さて、お二方。あやかし探偵社に依頼させていただきます。わざわざ『あやかし』と名のつく探偵がくるということはこれも普通の事件ではない、ということなのでしょう?」

「その通りでございます。こんなところで立ち話もなんですし、私たちの事務所までお越し下さい。お嬢様と第1発見者が来て下さい。」

「承知しました。」

「第1発見者は私でございます。」

「では行きましょうか。」




「おーい、もどったぞ。」

「おかえりなさい」

「お疲れ様です」

「こちらは今回の依頼人だ。」

「「よろしくおねがいします」」

「こちらこそよろしく。」

「僕は風雅といいます。探偵社の一員です」

「僕は香月です。探偵社の手伝いをしています」

風雅と名乗った少年は明るめの髪を左目が隠れる少し長めの髪型にしていて、10歳ほどにみえる。

香月と名乗った少年は黒髪で少しくせのある髪をやや短めに切っていて、7歳ほどに見える。二人とも洋装で、風雅は白いシャツに黒いショートパンツとベストを着ていて、黄色のタイをボタンで留めている。香月と名乗った少年は白いシャツに若草色のショートパンツを同色のサスペンダーで留めている。

「ではここにお座り下さい。香月はお茶を用意してくれるかの」

「わかりました」

「では、お話をお願い出来ますかな」

「はい…私が見つけたときはもう冷たくなっていて…」

「何時頃ですか?」

「起こしにいったときに見つけたので…7時ぐらいでしょうか」

「わかりました。鞠子さんはその時どうしていましたか?」

「私は、着替えてお茶を飲んでいました。7時ごろに悲鳴が聞こえて、いまにいたる、というところです。」

「なるほど」

「少々確かめたい事がございますのでそちらに伺わせていただくことは出来ますか?」

「はい。かまいません。」

「ありがとうございます。風雅、水月、いくぞ。」

「うむ」

「はい」




「死体は動かしてはいませんな?」

「はい」

「この血の乾き具合を見ると殺されたのは午前2時ごろとみて良いでしょう。」

「ふむ。となると殺したのはあやかしとみていいだろうな」

「あら、どうしてですか?」

「あやかしが活発になるのは丑三つ時だということをご存知ですか?それに、すこし

あやかしの気配も残っています。」

「なるほど。」

「少し机の中を見てもよいですかな?」

「構いませんよ。好きに使って下さい」

「ありがとうございます。では」

「おや。これはなんですか?」

「さあ…わかりません」

要の手にあったのは、蛇のものと思われる皮があった。

「これは…蛇だな」

「風雅」

「はい」

「これはなんだ」

「これはふつうの蛇ですね。しかし、色が白いので他の蛇よりも力が強かったのでしょう。」

「つまり、父は蛇の祟りによって殺された、ということなのでしょうか。」

「ええ、そうだと思います。色が白いので珍しがったお父上様が皮だけ取ったのでしょう」

「皮だけ、というのはもしや、」

「そうです。お父上様は生きた蛇の皮だけとって放置したのでしょう。殺してからとっていたら骨が必ず残っているはずです。」

「まあ、父はなんて酷いことを」

「さすがは風雅だな。」

「そんなことありませんよ、要さん。水月さんと要さんのおかげです。」

「うむ、その通りじゃ」

「おまえ、ちょっとは謙遜しろよ」

「事実なのだからよいではないか」

「よくねえよ」

「ところで、この人を殺したのはこの蛇だけではないようです。」

「ほう。どういう事じゃ、風雅。」

「この蛇は確かに力は強いですが、このように殺すほどの力はありません。」

「つまり、この蛇に助太刀をしたあやかしが居るということか。」

「はい。」

「追うぞ!」

「うむ」

「はい」

「私もいきます!」

「危ないのでやめたほうが」

「そうですよ、お嬢様!」

「私は西園寺家の当主ですよ!当主が一族のものの死を突き止めずして何が当主ですか!」

「鞠子嬢の話のよくわかる」

「おい、水月」

「だが安全は保証できん。それでもよいか?」

「もちろんでございます。これでも剣術の腕は立つのですよ?」

「ならば、良い。ついてくるがよい」






4人はあやかしの気配の残り香をたどって近くの森まできた。

「ここですね」

風雅が指し示した場所はおおきな穴蔵だった。

「ここか。ゆくぞ」

「うむ」

「はい」

穴蔵の中にはいって進んでいると牛鬼がいた。

「あー、運が悪いですね。」

「恐ろしい妖怪なんですか?」

「そんな事ないですよ?でもこの妖怪、話が通じないやつなんですよ。だから殺すしかないんです。」

「なるほど」

「「「「じゃあ、行きますか」」」」

要は斧を、水月は日本刀を、風雅は大太刀を、鞠子は日本刀を、それぞれ取り出し、牛鬼へと向けた。それと同時に牛鬼がこちらに向かってきた。鞠子は「危ない!」と叫んだけれど、要と水月は

「「遅い」」

といって、左右3本ずつの足と角を切った。バランスを崩して倒れた牛鬼の首と胴の間に高く飛んだ風雅が大太刀を突き刺した。

「ぎゃあああああああ!!!!!」

牛鬼は悲鳴をあげてもがいているが、角と足を切られているため何も出来ない。

しばらくすると塵となって消えていった。塵になるとともに落ちてきた風雅が着地

すると鞠子は「はええ…」と声を漏らした。

「みなさん…強すぎじゃないですか?」

「そうかの?」

「いやいや…」

「まあ、元凶は倒したことだし、戻るか」

「そうですね」

「はい」





「お嬢様!ご無事でございましたか!ああよかった…」

「心配しすぎよ。私だって剣術はできるし、そもそも私の出る幕なかったんだから」

「それでも、心配します!もうこんな無茶はしないで下さい!」

「わかったわよ。さて、皆さん、ほんとうにありがとうございました。礼はしてもしきれません。」

「そんなのは良い。また何かあったら呼んでくれ。」

「はい。本当にありがとうございました。」






「おーい、香月。戻ったぞ。」

「皆さん!お疲れ様です!」

「うん」

「香月君、お茶頂戴」

「はーい。風雅さんの他に欲しい人居ますか?」

「わしも頼む」

「俺も」

「はーい」

「あのう…」

「おや。鞠子嬢ではないか」

「ホントだ。どうしたんです?」

「じつは…先程の戦いで自分の弱さを痛感しまして…水月さんに稽古をつけていただきたく…」

「ふむ。良いだろう。」

「本当にですか!ありがとうございます!」

「なんの。」

「鞠子さん、お茶菓子ありますから、食べてってください!」

「まあっ、喜んで!」





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