第14話 終わりの始まり
まるで自分は天使じゃないように名乗ってきたそいつは羽の生えた天使、ではなくどこからどう見ても普通の人間であった。
『堕天使 プライミェル。ってなによこれ!? 情報不明!?』
情報不明ねぇ……
この世界のラスボスだから情報操作はお手のものだからとかそんな所か。
と今はそんな事はどうでもいい。
「なに?」
問題なのはこいつから感じられる力がさっきの天使が可愛いと思えるくらい異質すぎるという至極単純ただ一点のみ。
俺の直感か無意識の能力なのかとにかく何かしらが警鐘を告げている。
戦ってはいけない。
格、次元が違うと。
『あんたなら勝てる……といいたいけどこいつが相手だと……』
うちの上司もこんな反応か。
ならここはなんとか戦わないで逃げる隙を見つけるしかないようだな。
「動かないのってもしかして時間稼ぎのつもり?」
こんな事で時間稼ぎと呼んでくれるとは光栄だな。
「ふーん。そういう事ね。」
そいつはこちらに手を向けてくる。
攻撃か……?
「ねえ? 頑張って僕の部下を倒したという成果を出した物に正当な報酬を出すというのは素晴らしい事だと思う?」
それは魔術の詠唱か何かなのか?
俺は不本意ながらも臨戦体勢を取る。
「あ、勘違いしないでね? 別に今すぐ殺そうとかそういう事じゃないから。」
って言われてそうなんですね、優しいとなるほど俺は単純な人間じゃないよ?
後その言い方だと絶対後で戦うやつじゃん。
「敵の言っていることを信用しろと?」
「うーんそっか。それが普通か。」
プライミェルはうんうんと頷く。
なんか俺という子供の意見を大人が聞いているという感覚だこれ。
「じゃあ君が知りたい事を話してあげるよ。対話ってやつだよ?」
どうなっている? こいつの考えが読めないぞ。
「わからないって顔をしているね? さっき君は僕の部下を負かしたでしょ? だからそれに対する報酬をここで支払うと言っているんだよ?」
こいつの言っていることはおそらく本当なのだろう。
少々強引な気もするがとにかくこの場のこいつは嘘はつかない気がする。
しかしそれでも……
「ほら聞きたいことを聞きなよ。じゃないと僕の気分を害したとして殺すよ?」
目が本気だわ。
『一応逃げられる方法については調べておくからここは様子を見ましょう。』
ならここは無理にでも質問をしていくしかないか。
「俺の前に現れた理由。」
「僕が君の前に現れたのはね? たまたまここを通りかかって面白い光景が見えたから暇潰しとして来ただけだよ?」
偶然というやつかよ。
こんなのに出会うとか運命って残酷だわ。
「追放の理由。」
「追放の理由は色々なんだけど、確か覚えているのはちょっと暇潰しに世界を制する為に天使達に堕天しないかと誘ったからだよ。」
相当ヤバい事をしてるな。
スケールが大きな過ぎてついていけないぞ?
「そうしたら神々への不満を持っていた天使が僕の誘いにかなり乗っちゃってね。結果追放と。」
何で皆天使でもないやつの言葉にのっかかるんだよ。
どう考えてもそんな事神に見透かされて終わりとか馬鹿にして終わりだろ。
「後は……そうだ。お前が世界を脅かす理由が知りたい。」
こういうのはあまり深掘りすると悲しい過去とかが出てきて戦いづらい事態に陥るとかあるかもしれないけど聞きたい事が思いつかないので。
「……うーん。理由、ね。」
さすがに厳しいか?
「良いよ。教えてあげるよ。」
結局言うのかよ。
渋ってきたのはなんなんだよ。
「ただこれは他の者に話をした時にかなり険しい表情を見せられたからさ。あまり言いたくないんだよね。」
なんだ?
まさか平和主義ですとかそういう事でも言うつもりか?
そういうのはアニメで聞きあきたからあまり驚かないぞ?
「僕の目的はね?
ただ神の真似事がしたいからだよ。」
「は?」
意味がわからないぞ?
いや神になりたいとかならわかるよ?
でも真似事って……
「ほらその表情! そういうのがあるから言いたくないんだよね!」
しまった。
顔に出ていたのか。
「……で? その神の真似事というのは?」
もう無理やりにでも話題を進める。
これ会話のコツ。
「お! 聞いちゃう? 他の者はここまで踏み込む事が出来ないから困っていたんだけど君は中々見所がありそうだね。」
お前に見いだされてもなんも嬉しくないよ。
「まあわかりやすく言うとね? 神のように遥かなる高みから他の存在へ理不尽に無理難題を押し付けて最後に崩壊する様を暇潰しで見たいからだよ?」
何? こいつは神様と同じ様に好き勝手して気持ち良くなりたいとかそういう事なの?
というか神様ってこいつと同じように変態ということなのか?
そうなるとクラウは……
『……。』
まああの性格だからなさそう。
「な、なるほど。よくわかった。」
「理解してもらえて嬉しいな。」
お前の言っていることは何一つ理解できないぞ。
「それで今度はこっちから聞きたい事があるんだけどさ?」
俺に聞きたい事がある?
もしかして戦う理由とかそういう事か?
何て答えたら良いんだろ?
世界を救済するため?
アルバイトだから仕方なく?
ツンデレの神様に生き返らせてもらった恩義……ってのはあまりないし、とりあえずやらないとうるさいから?
なんかどれも薄いしパッとしないな。
「君もしかして
なっ!? こいつ何でそれを知って!?
「また顔に出ているね。駄目だよ? そういうのは隠さないと逆にこっちに情報を漏らすことに繋がるんだからさ。」
なんなんだよこいつは。
話したいんだかこっちの事を探りたいんだか。
……そういえばこいつの部下がこんな感じだったな。
なるほど。
あいつの小賢しいやり方はこいつからの受け売りかよ。
「何の事をだかさっぱりだな。」
「隠さなくても良いよ? 僕君みたいな不思議な雰囲気の存在に会うのは初めてじゃないし。」
「そうなのか?」
ならここはそこまで身構える必要はな……
いや、俺は何を安心しているんだ。
それを知っていると言うことはこちらの能力に関する情報を知られている可能性があるという事だろうが。
「うん。確か一度だけ戦った事があるんだよね。」
一度だけ?
少ないな?
いや出会わないとかそういう可能性も捨てきれないけどさ……
もしくは天敵であるから二度と戦いたくないからとかそういう?
「一度しか戦わないのはあれか? 苦手だからとかか?」
凄い事を聞いているな俺。
敵を前に言葉を選ばずなかなか大胆な事を聞いてしまったと一瞬後悔する。
「まさか。それが弱いからだよ?」
あーそう言う方面の理由か。
「あれにはがっかりだよ。一応その前にも転生者じゃないチート能力を使う敵と戦った事があるからそれに期待していたんだけどてんでダメ。」
転生者じゃないチート能力者?
神様とかか?
「その後はもう適当に部下に任せてそれっきり。一応部下を負かせばまた相手をしてもいいんだけど皆弱いからさ。で、君は今回その条件を満たしたと。」
そりゃあなんと言うか……
こいつが現れたのは俺のやり方が不味かったと。
いや不味いも糞もないだろ?
あんなのどうやっても避けようがないじゃん。
「じゃあ話したい事は話したし僕は行くね?」
プライミェルはこの場から去ろうとする。
「あ、そうそう。ちなみに最後の戦いだけどさ? ここから少し離れた草原にしようか? 二日後。」
結局戦うのかよ。
しかも二日後なんて短すぎる。
「そういう事を今言われたら逃げるとか思わないのか?」
せめてもうちょい猶予があっても
「別に来なくてもいいけど」
瞬間プライミェルの纏う空気が変わる。
「その場合は僕の気分を害したという事でこの世界は消す。背後にいる神を消す。君の故郷も消す。君が戦いに負けたら問答無用で全部けす。」
うーわこいつは絶対にやるわ。
勘とかそういうレベルの話じゃない。
本能がこれを何よりも悪い意味で最優先で信じろとそういう次元の話だ。
「脅しじゃないよ? これを破って僕に消されたやつは何人もいるから。」
その笑顔が怖いんだけど。
「ほらこれで君が僕の誘いを断る理由はないよね? 単純だけど行く気になったでしょ? 全うな戦う理由というやつだよ? あははははは!」
そりゃそんな事言われて行きませんとか言えないだろうが。
「じゃあね。君と次に会える日を期待せずに待っているよ? あははははは!」
プライミェルはそういうとその場から消えていった。
なんだったんだよ……まじで。
『行ったわね。』
クラウは敵が消えたタイミングで俺に話しかけてきた。
「あれと戦えと?」
『そうね。』
「そうね……って何でそんな落ち着いているんだよ?」
本当に泣くよ? 泣いちゃうよ?
『騒いでも仕方がないでしょ!? ……とりあえず私は神々の世界で奴に対抗できる術を見つけるから。心配しないで。』
それ見つからなかったら自力であれと戦えと。
これが本当の神頼みってやつ?
つまらねー。
『じゃあ早速だけど、アルバイト終了よ。』
という訳で俺の濃すぎる二日目のアルバイトが終わった。
どうするんだよこれ!?
本当にあれと二日後に戦うのか!?
というか町は? 情報収集は?
すっ飛ばしすぎだろ!?
アルバイト 二日目 終了
転生アルバイト 万能チートもらって日本に帰宅も戦闘で無双もできるけど敵が理不尽すぎる @shirokeza
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