第12話 能力の進化

 「おい……クラウ! どうなってんだよ!? なんか最後の幹部来ちゃったんだけど!?」

  

 いや世界を救うという壮大な目標の関係上それと鉢合わせするというのは普通の事。


 が、それは絶対に今ではない。


 時期尚早って言葉があるがまさにそれ。


 「独り言とはずいぶん余裕みたいですね。」

  

 結構小声で話しているんだけどそれでも聞こえるか。


 あんまりぶつぶつと話したくないけどクラウと会話するには声に出さないといけないから仕方がない。


 「ではお喋りはこのくらいにしてそろそろ戦いましょうか? あのお方に早く決着をお見せしたいのでね。」


 こんなのお喋りに入らないだろ!?


 おい! こっちはさっき戦闘したばかりだぞ!? 心の準備がまだ


 『両手に魔術エネルギー確認! 五秒後にこちらに来るわよ!』 


 お互い命を取り合う敵とはいえもう少し話をしてほしい。


 でもまあ話し合いで済むなら神が敗北とかそういう悲惨な結果にはならないか。


 俺はこの状況に無理矢理納得すると能力発動の準備をする。


 「あなたはこれに耐えきれますか?」


 天使はこちらに手を向けてきた。


 「天使による慈愛!」


 天使の目の前に魔方陣が展開されるとそこからどす黒い闇のエネルギーがこちらに向かって来る。


 何が慈愛だよ。


 こちらを滅ぼそうとするその異質な力のどこにそんな要素がある。


 これただの殺戮の類いじゃねーか。


 「防御!」


 俺はシールドを出す。


 これでなんとかなるのか?


 さっきまでの魔物と明らかにレベルが違うけど。


 「なるほど。私の攻撃は通さないと」 


 天使は余裕たっぷりな表情を浮かべる。


 こっちにはそんな冷静な発言をかます余裕はないと言うのに。

 



 シールドに敵の素早い攻撃が直撃する。

 

 「ん? これは……」


 しかし傷一つくことがなかった。


 なんかさっきよりも強くなってないか?


 説明不要の万能のチートだから?


 『それは慣れと経験と進化だから一々驚かない! 正面から来るわよ!』


 そういうもんか。 俺は剣を出して構える。


 「随分余裕なんですねぇ!」


 天使はいつの間にかどこかから取り出した槍を手にするとシールドに攻撃を当てる。

   

 「固いですね。」


 槍による一撃でもこちらの壁に傷はつかない。


 「なるほど、これほどの力を持っているのは少々予想外でした。」


 「どうした? お前の力はその程度か?」


 ここで柄にもなく敵への煽り発言が出てしまったのは力を持って気持ちが高揚してしまったからだ。


 『気持ちはわかるけ……油断しない!』

  

 そういうのわかるんだ?


 「ご冗談を! 私の槍は真の力を解放していない。いわばまだ鉄の塊を振りましているだけのようなものですよ?」


 直後槍は黒く禍々しいオーラを放つ。

 

 ピシッ!


 なるほど。こいつの言っていることははったりではなさそうだな。


 『下がって! 五秒後にシールドが壊れるわよ!』


 俺は指示通り下がる。


 「それが正しい判断でしょうね。あなた程度の力量では!」


 俺の能力は瞬く間に砕け散る。


 「この程度なんですねぇ!」


 天使は俺に槍を向けてくる。


 『そのまま前進! 剣をぶつけなさい!』


 下がった後にわざわざ!?


 フェイントとかそういう?


 俺はその場で跳ねるように前進し力一杯剣を振る。


 「グオオオオオオッ!? 重い!?」


 天使は俺の一撃を苦しそうに受ける。

 

 なんか思っていたよりも効いてね?


 こういうのって普通余裕ぶるとかが定石だよな?


 もしかしてこいつそんなに大した事ない?


 『だから油断しないでよ! 今のあんたはそれが最大なんだから。』


 「はっ!?」


 俺の感覚が麻痺してるから大した事ないように見えるだけで実際はこちらの最大を直ぐに出させるくらいこいつはやばい。


 気を引き締めなければ。


 『少し押した後に追撃しなさい!』


 俺は槍を押して距離を開けた後に再度ぶつかる。 


 「グッ!」


 天使は俺からの攻撃を防ぐために無理矢理体を曲げてそれに対応する。


 「へえ? これを受けるくらいの技量はあるんだ?」


 「ふ、ふふふ! そ、そうですね! こ、このくらいは当然かと! まだまだ余裕ですね。」


 マジかよ。


 俺結構本気なんだぞ?


 それが本当なら俺お前に負けるんだけど?


 「グオオオオオオ!?」


 その割にはめちゃくちゃ焦っているように見えるんだけど?


 はったりか?


 「こ、このくらいの試練に対抗できなければ今後もあのお方の側にお仕えするなど夢のまた夢!」


 『ゆうと気をつけて! この距離から魔術撃ってくるわよ! すぐに攻撃を止めて回避しなさい!』


 マジかよなら今すぐに


 「無駄ですよ! 天使による慈恵!」


 天使の出した魔方陣から巨大な風が発生する。


 「うお!?」

 

 俺はあまりの強風に体勢を保つことが出来ず飛ばされる。




  

 


 


 俺は今敵の魔術に包まれ後方に飛ばされている最中である。


 やばい。


 ダメージどうこうは見た目に反して効いてないから良いとして服がボロボロになっている。


 今関係ないけど明日着る服あったっけ?


 この服駄目になったら明日どうする?


 『何してるのよ!? 能力を使いなさいよ! 雷を使ってそこを脱出して回復!』


 今は服なんか関係ないよな。


 「転移は?」

 

 『まだよ!』


 そっちのが楽だろうに。


 俺は敵の魔術を破るためにその場で雷を発する。


 瞬間包んでいた魔術は消え俺はその場に背中から倒れ込む。


 「痛って!?」


 それと同時に全身に衝撃と焼けるような感覚が襲いかかる。

  

 自分のやり方が敵の魔術よりも痛いとかやだなー。


 まあこの痛みは転移による物じゃないから回復でなんとかなるけど。


 「回復!」


 俺は体中の痛みを消す。


 「よし。体勢を整え……」


 瞬間目の前にいきなり天使が現れる。


 「驚きました! あなたを細切れにするつもりで魔術を撃ったのですがまさか傷がないとは!」

 

 天使は転移か何かを使い俺と距離を詰めてきたようだ。


 傷がない?


 よく見ろよ。服を駄目にされて俺の精神はボロボロなんだけど?


 「はははははは! どうでしたか? 私の魔術は!」


 「そ、そんなでもないな。」


 本当はもう帰りたいってくらい不快だけど。


 「そうですか……それは良かった。」


 天使は巨大な魔方陣を横に展開する。


 まだあるのかよ……


 「あなたはこの程度では倒せないことがわかりました。ですから」


 天使は笑みを溢す。


 「私は今から本気でいきたいと思います。遊んで敗北したとなればあのお方に顔向けできませんからね!」


 舐めてかかっていたとかそういうやつだな。


 最初から本気出せよとか言いたいけどこいつらの場合こっちの事を分析している可能性があるからとやかく言えないのよね。


 『魔術撃って敵の行動を妨げる!』


 「そう思える相手になれて光栄だな!」


 俺は手から雷を出し魔方陣に向けて撃つ。


 あれなんか雷大きくなった?

  

 これも慣れによる進化なのか?


 「そんな弱い魔術でなんとかなるほどこの魔術はやわじゃありませんよ! 天使による慈顔!」


 瞬間魔方陣から巨大な怪物が現れる。


 





 

  

 怪物まで伸びた俺の魔術はそれを砕く、事は出来ず弾かれる。


 「はははははは! どうですか? 自分の魔術が通用しない相手が現れたという絶望は!」


 怪物は俺に狙いを定めるようかのように目でこちらを睨むと口を開けエネルギーを溜める。


 「あなたにこれを防ぐ事は出来ますかぁ?」


 こりゃ駄目だ。


 恐らくだがこれに防御を使ったところ簡単に壊れてしまうだろう。


 「その顔! 懐かしいですね! かつて今の地位に着く前、この手で葬った神もそのような顔をしていました!」


 凄いムカつく。


 けど今持ちうる能力じゃどうにもできねーな。


 転移を使ったところで距離の関係上でおそらく回避できないだろうし。


 これは死…… 


 『諦めない! 防御!』


 というのはうちの上司は許してくれないと。


 えーさすがに無理だろこれは。


 ここは口答えを……する暇ないわ。


 「防御。」


 「なにやら魔術を使ったみたいですが、タイミングが悪いですよ! 撃て!」

 

 怪物の口から俺に向かってエネルギーが放たれる。


 当たる前からわかる。


 これはやばいと。


 だって触れてないのにエネルギー下の地面が抉れてやがるし。


 こんなのにちっぽけな薄いシールドでどうにかしろと!?


 寝言は寝ていえよ!?


 俺の今の思いなんて汲み取る意志のないそれは一瞬でシールドに直撃する。


 「ふはははは! さようなら! たまたま私に出会った名も知らぬ人間よ!」


 名も知らぬって俺の名前はゆうと……って名乗ってねえや。


 あーもう。


 こんな事になるなら今日はバイト休みにするんだった。


 そもそも俺は初めからこの件にはあまり乗り気じゃ……


 「この魔術に耐えられるのですか!?」


 「え?」


 何かいつの間にか敵の攻撃が終わってるんだけど?


 なんで?


 『慣れと経験と進化! もう慣れなさいよ!』 

 

 そんな事で片付けて良いの?


 いいか。


 だって俺は一応万能のチート能力持っているんだし。

 




 

 


 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る