第11話 最後の大幹部
オークのような魔物は俺への攻撃をやめて大声をあげる。
「お前は何なの? といっても答えないんだろうな。」
この前のゴブリンは自分から名乗るような奴じゃなかったしこいつもおそらく同じだろうな。
「人間が俺と言う格上の存在を前にして名前を聞くとは大した度胸だな。」
俺に度胸なんかあるわけないだろ。
この前だって夜部屋から……ってこれは今は関係ない。
「その敬意を評して貴様に俺の名を刻んでやる。」
言うのかよ。まあこれくらいは普通か。
「俺の名は剛滅天使=オ=ーク。この世界を支配する堕天使達の幹部の一人だ。」
あれ!? なんかこいつ自分の所属している組織とか地位を喋りやがったんだけど!?
「あ、あのさ?」
「何だ?」
「自分の所属組織の情報をペラペラ話すとかどういう事なんだよ?」
よく気を良くして冥土の土産に話すとかそういうのあるけどさ?
逃げられたり負けた時のリスクとか考えないのかよ?
「それの何か問題でもあるのか?」
何かこっちがおかしい奴みたいな反応してるんだけど?
確かに常識をここで当てはめるのは変だけどさ。
「いや別にこちらとしてはありがたいけどさ……」
この情報で仲間が窮地に立たされるとか考えないのかよ……
仲間よりも自分優先とかそういうやつ?
『気をつけなさい。今敵の心理状況を調べたんだけどかなり落ち着いてるわ。』
そんな事が出来るなんてちょっとずるくない? ってチートの塊みたいな俺が言うのはおかしな話か。
「それが? 敵を前にして自信があるお馬鹿だから何も気にしていないとかそういう事だろ?」
アニメとかで組織の足を引っ張るとかそういうやつ。
『そうじゃないのよ。これが示すことは自分達の事をあえて嘘偽りなく話すことで出方を伺うとかそういうやつよ。』
は? こいつそんな事を考えてわざわざ情報を漏らしたのかよ。
『これは私の考えになるけど向こうはこっちに雰囲気で話しをさせて情報を得るとかそういう腹積もりだと思うわ。』
心理戦ってやつ? 確かにアニメとかだと向こうの情報に対抗するために余計な事を話すとかあるもんな。
まあそれはあくまでアニメの話だから俺は引っ掛からないけど。
多分。
「何をごちゃごちゃ話している?」
魔物は俺の端から見ると恥ずかしい独り言をニヤニヤしながら見つめていた。
「さあ? お前という予想外の強敵を前に頭がおかしくなったのかもな。」
本当の事を言ったところで信じるわけはないだろうしな。
「そうか。なら今のうちにもっとおかしくなるがいい。恐怖に怯えながら死に行くものを見るのは忍びないからな。」
ぶさけんな。
要はそれこっちの困ってる姿を見て屠るのが趣味ですと言っているようなもんじゃねーか。
「じゃあおかしくなりたいからお前にいなくなって欲しいとか言ったらどうする?」
「おかしな事を!」
魔物はこちらに前進してくる。
「いつも通りのやり方でこちらの情報をあえて話したんだ。それを生かして他の者どもに吹聴されては……困る!」
そして魔物は間合いに入ったのかこちらに拳を向けてくる。
『防御使って!』
マジかよ。
さっきこいつの一撃でピンチになりかけた物をもう一度やるとか策が単調にも程があるだろう。
まあこっちはナビゲーションされてる身だから素直に従うけど。
「防御!」
俺と魔物の間にシールドが出現する。
「それが通用すると思うのか! 回避する事なく二度も同じ事をするとは愚かな。」
魔物は何の躊躇もなくそれに勢いよく攻撃しようとする。
とりあえず壊れると思うからさっと横に避けて……
『そのシールドなら三秒後に敵が一瞬怯むと思うから、剣を出して正面から攻撃する準備!』
正気か? これが耐えられると?
その目論見が外れたら俺大怪我じゃすまねーんだけど?
もしかして回復能力使えるからまさかの最悪捨て身でいけと?
なかなか大胆な策を建てるな。
ガン!
魔物の拳はそれと強く接触し音を響かせる。
来るぞ!!
とにかく剣を持ってない肩を前方に出してそれから回復能力を
「グアアアアアア!!」
とろうとした矢先魔物は悲痛な叫びをあげる。
なんだ?
さっきまでの余裕面だった魔物が嘘みたいに涙を浮かべている。
あれ? 最初にこれに攻撃をした時は眉一つ動いてなかったよな?
俺はどういう事なのか一瞬気になって状況を確認するとそこには敵の変色した拳と一つのヒビもないシールドという予想外の結果が見えた。
どういう事なんだ?
『慣れ、経験、能力の進化でそれは割れてないのよ! ぼさっとしない!! さっさと攻撃する!』
おっといけない。
うちの雇用主の命令を一瞬無視するなんてアルバイト失格だな。
俺は気持ちを切り替えるとさっきの指示通り正面から剣を振ろうとする。
「ぐっ!? 油断した! まさか貴様のシールドがこんなに硬い物とは!?」
魔物はそういうと素早く体勢を整える。
とんでもなく早いな。
「だが硬いだけなら俺も同じ! こい! 貴様が俺の鋼の肉体に剣を通せなかった時が」
そんなに早く動けるなら自身満々にべらべらと喋らないで距離を離すとか自傷覚悟で魔術を使うとかすればいいのに。
そういう事を考えずに自分の体を過信するのは甘いな。
「最ごっ!?」
俺の剣は魔物を軽々と斬り伏せた。
「ガアアアアアアアア!」
魔物は俺に斬られて断末魔のような声を上げた。
体の不調で少々斬るのが甘かったな。
俺は止めを指そうと剣を握りしめる。
その時魔物は俺の行動を見るや否や口元を崩しこちらの行動を手で制してくる。
「命乞いが下手くそにも程があるぞ?」
「この傷を見てするそれをする必要性があると思うか?」
パッと見その出血量で生きてるのが不思議なくらいだしやる必要はないよな。
『何をしているの!? 止めを差しなさい!? 躊躇っていたら犠牲が出るわよ!?』
その辺は承知しているからやるべきなのはわかっている。
ただ今は様子見ってやつしているんだよ。
「ふふ……貴様には俺を倒した褒美として情報を与えないとな?」
魔物は苦しそうに傷を抑えながら俺にそう言ってきた。
この状況で話す事なんて嘘とかありそうだけどここは一応乗るか。
「褒美を?」
「そうだ。その為にわざわざこんな周りくどい事をしたのだ。」
だったら最初から言えよ。
こっちが一旦手を止めないやつだったらそれ無意味になるだろうが。
『ちょっとゆうと!? 何を「じゃあ話してくれ。手短にな。」
嘘だろうと情報は多いに越したことはないからここは聞いておくか。
まあクラウに心配をかけたくないから変な時間稼ぎをしたらその場で斬るけど。
「俺の死を知った
めちゃくちゃ冷静かつ簡潔に喋るなこいつ。
本当に死にかけの生物かよ?
「褒美とはいえ何でそこまでの情報を敵である俺に? まさか俺に対して情か何か生まれたのか?」
アニメとかで良く見る戦った後になぜか敵に塩を送るあれ。
「ふ……俺を負かした貴様に絶対に避けられぬ更なる絶望をいち早く与えたいから。それだけだ……」ドサッ
魔物は力尽きて倒れ込んだ。
やっとくたばったのかよ。
あまりにも流暢に語るからダメージがあるか不安で止めをさそうかささないか迷ってしまったわ。
『一応そいつから生体反応はないけど、神を下すような連中に常識なんて通用しないからちゃんと死んだかどうか確認しなさいよ?』
うちの雇い主はなんて物騒な事をいうのかね……
「なあク「なるほど。我々の堕天使をこうもあっさり倒してしまいますか。素晴らしい。」
「『!?』」
俺が戦闘後次なる目的地について会話をしようとした矢先、隣からいきなり声がかかってきた。
それはまるで世界を闇に落とすかような深く暗い絶望のように。
こいついつの間に!?
「何を驚く事があるのですか? ここはすでに神が選定した戦場。そこに踏み込んだ時点でこうなることは予見すべきですよ?」
声をかけてきたそいつは人間のような姿をしており、背に光輝く翼を広げている。
見た目は優しそうだが発する力の質が禍々しく異質。
戦っていないからまだはっきりとした全容はわからないが、戦う前からこいつは強いと感じとれる。
「正論だけど俺はまだ戦闘に慣れてなんだ。大目に見てほしい。」
俺は動揺を隠すために適当な事を話す。
「なるほど。ですがそんな事を言われてもこちらは手加減しませんよ?」
笑顔でなんて事を言うんだよこいつは。
『私の探知に引っ掛からないなんてこいつどうなってんの…………え?』
敵の情報を解析しているであろうクラウの口が止まる。
おいどうした?
いつもうるさいこいつが急に黙るのが気になる。
『嘘!? 何で!?』
おいおい。
何かそっちで勝手に驚いているのはいいけどちゃんと情報を回してもらわないと。
お前だけで完結されても困る。
「……おいクラウ。早く情報くれよ。」
このまま戦闘開始とかなったら気になって集中出来ない。
『いい? よく聞きなさい? そこにいるの
おい黙るなよ。
「だから?」
『わからないの!?』
「わからない。」
一言話されて理解できる能力も頭も俺は持ってないから当然だろ。
だからそんな深刻そうな反応されてもこちらは同調ができない。
「ちゃんと説明してくれ。」
俺の頭でその情報からわかる事と言えば脆とか剛滅とかそそられる名がないくらい。
『はあ……いい? そいつは
「申し遅れました。私の名は天使=アンゲル=シェ=ル。堕天使の中で天使であることが許された存在。あなた方が先程戦った幹部の全てをまとめる
『私が言いたかった事全部言われたんだけど!?』
勿体ぶるからそうなるんだよ。
ってちょっと待て!?
最初の目的だった町にすら行けない状態で幹部に連続で遭遇すんの!?
あとなんか残りの幹部すっ飛ばして強そうな最後の幹部とやらが来たんだけど!?
後堕天使なのに天使!?
状況が動きすぎて頭の整理が追い付かないぞ!?
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