第10話 幹部

 「アルバイト?」


 異世界を救うのにそういう軽いやつで良いのかよ?


 「そうよ。ちゃんと報酬もでるわ。はいこれさっきの分。」


 クラウはそういうと俺に封筒を手渡してきた。

 

 「これは?」


 「報酬よ、報酬。」


 あんな短時間しか戦闘してないのに金がでるのかよ。


 しかもまあまあな金額だな。


 「この世界に異世界関係の事を生業としている私の部下がいてね。今回私の賃貸契約の手続きのついでにそいつにお願い……勝手にあなたの報酬を用意して貰ったのよ。」


 なるほど。

 

 だからこの世界の金がすっと出てきたのか。


 とそれは置いておくとして


 「なんか妙に手回しが早くないか? なんというか予めこうなる事がわかっていたような感じがするんだけど。」


 神様だからなんでもありのチート能力でとか言われたら納得するしかないけど。


 「そうね。あんたは後々能力で日本に帰還するかもしれないからと予め手を打っておいたから。」


 「こうなる事がわかっていたと? なら最初から言えよ。」


 「他の神々達への交渉が難航していたから無理よ! 人間を返すなんて無茶苦茶だとかなんとかで。本当なら今もまだ交渉中の所を私が頭を下……なんか向こうが都合良く許可してくれたからいいけど。」


 なんか衝撃の事実なんだけどそれ。


 こいつ頭下げてくれたの?


 もしかして良いやつ?


 「なんかごめん。それからありがとう。」


 「いきなりなによ? こんな事で感謝なんかしないでよ。」


 最初はすげえ一方的な事しか言わない傲慢なやつだと思ってたけど、じっくり話してみるとうるさいけどまともだな。









 「アルバイト契約はそういう事で。じゃあ異世界への転移は明日の夕方ここでするからそのつもりで。」


 「わかったよ。……ってここで!?」


 「何よ? 文句ある?」


 何でないと思っているんだよ。


 「いやあるよ!? 俺んちだよここ?」


 「なんか困るわけ? あっそうか、親御さんにご迷惑がかかるわよね……」


 そういう心配をするのか。


 いやそこは大丈夫だからいいんだけどさ。


 「親の件はいいよ別に。そうじゃなくてここ以外に他に適した場所はないのかという事。」


 さっきこの世界には異世界の知り合いがいるからとか言っていたしそいつの拠点でやるとかあるだろ。


 「無いわね。」


 「なんで?」


 「べ、別に? ほ、他は都合が悪いし。 あーえと……家から近いという理由で納得してくれたら話が進んで助かるんだけど?」


 それならお前の家に……そりゃあ駄目か。


 女の子の家だし。


 知り合って間もない俺が行くのはあれだよな。

   

 まあ今のこの状況もあれだといいか。


 とにかくそういう事であるならばこちらからはここでバイトする事に対して特に言うことはないな。


 「わかった。なら俺はお前との契約通りに動く。それ以上の事は今はここでは言わない。」


 今はだけどな。

 

 「そう? 無理を言ってごめん……とは思わないけどね! 絶対!」


 素直になってくれよめんどくさい。









 


 あの後なんとかお互いに話し合いがまとまったという事でその場は解散となった。


 しかしこの俺がまさか帰宅出来るアルバイトで再び異世界に行くことになるとはね。


 そこだけなんか拍子抜けするくらい温いよな。


 まあこの後に待ち受ける戦闘相手云々を考えたら甘いのはそこだけなんだが。


 「さて……」


 もうこの後はやることがないしこのまま適当にご飯食べてお風呂入ったらさっさと寝ますかね。


 明日も学校……いや休みか。


 なら異世界転生に向けて少しでも多く羽を……


 ピンポーン 


 そうと思った矢先来客を知らせるチャイムが鳴り響く。


 こんな時間に誰だ?


 俺は嫌々ながらも重い腰を上げて対応をする為に玄関に向かい扉を開けた。





 「ゆうとごめん!」


 そこには申し訳なさそうな表情をしたクラウの姿があった。


 「部屋の使い方とかその他もろもろを教えてほしい……一人暮らしは初めてだからわからないのよ……」


 休もうと思ったそばからこれかよ。


 「はあ……一つずつ順番にな?」


 俺は頭を掻いた後そのまま家を出た。




 


 次の日


 「じゃあ今からあんたを異世界に送るわよ? 準備はいい?」


 あれやこれやとやっているうちにいつの間にか仕事の時間になってしまった。


 なんかあの後ついでにあれもこれもお願いとか言われまくったせいでもう疲労感が半端ないし寝ても疲れが抜けてないし。


 「体調悪いから無理って言ったらどうする?」


 ここであれだろ?


 『回復能力使えばなんとかなるでしょ!? へたれた事を言うな!』


 とか言うんだろ?


 「え。だ、大丈夫なの? いやそれなら今日はなしに……とは言わないけどね!! ……いやでもさすがにこれは……」


 心配とスパルタと困惑のミックスか。


 そういう本気の反応見せられたらもう行くしか選択肢ねーじゃん。


 「例えばだから。そういう時はどういう対応をするのかなと思ったから聞いてみただけ。今の所なんともないよ。」


 「そうなの? よかった……ってあんた神様を相手に試すような事をしたの!? 最低! 身の程をわきまえなさいよ!」


 本心からの言葉だから試した訳じゃないけどな。


 「気をつけるよ。」


 「分かれば良いわよ。では気を取り直して異世界に転移するわね? 向こうに着いたら方針について話すわ。」


 「わかった。」


 「転移!」


 俺は光に包まれこの世界から移動した。







 

 「着いたな。」


 俺いるのは前と同じ場所のようであった。


 『そうね。さあ仕事の時間よ。って危ない!!』


 「え? それは「オラアアアア!!」


 異世界に着いた瞬間こちらに対して横から大声と共に分かりやすい殺気が向けられる。


 「なっ!? いきなりかよ!? それは反則……」


 「問答無用! ふん!!」


 声のした方を見るとそいつはアニメでよく見るオークに羽が生えたような生物であった。


 そしてそいつはこちらに対して一切容赦することなく拳を向けてくる。


 「防御!」


 俺は間一髪のところでその攻撃に対応した。


 バアーン


 拳はそれに当たり大きな音がその場に響き渡る。

 

 この能力は脆なんとかゴブリンの苛烈な攻撃を防いだんだ。


 とりあえずこれがある限りは攻撃は通らないぞ。


 「この程度か!」


 この程度? それは自分の力が……


 瞬間シールドにひび・・が入る。


 え!?


 なんかちょっとずつひびが入ってるんだけど!?


 『嘘!? いくらゆうとの能力が慣れの関係上不完全とはいえこれに攻撃が通るなんて!?』


 そういう事かよ。

 

 これが全力じゃないのは安心したわ。


 ってそんな場合じゃない。

 

 「あのお方から転移のような不思議な力があるからここを見張れと言われていたがまさかこんな弱い人間が現れるとはな!」


 転移を見抜かれてるの!?


 これが序盤の敵かよ!?



 


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