第8話 日本に神様がやってきた

 「ん?」


 この場から去ろうとしたタイミングで頭の中に何かが表示された。


 なんだこれ?


 なにやら数字やらなんやらが並んでいる。


 さっきの夢の中であった脳内で使用できるステータス画面ってやつか。


 なぜ夢の出来事がここで使える? 


 という事に無理矢理理由付けをするなら心のどこかであの非日常をまだ信じたいと思っている自分の妄想の残り見たいなものなんだろう。


 だからさっきのは俺の夢の中の出来事だっての。

 

 いい加減現実を理解して切り替えろよな。


 俺は呆れながらもその妄想を振り払うためにそれを脳内でいじる。


 ふむふむ、どうやらさっきの異世界とやらで使ったのと同じやつだな。


 特にこれと言って変化はない。


 だから? 所詮こんなのはさっきの妄想の延長だろ?


 そんな事を確認したから何だって言うんだよ。


 俺はそう思いつつも頭の中にまだ残っているそれの操作を続けることに。


 


 それにしても中々消えないなこれ。


 もうそろそろいい加減にしないと頭が混乱してく……ん?


 俺はいじっていくうちにある項目にたどり着く。


 「能力か……」


 そういえばクラウ、神様が使える能力はここに整理したとかなんとか言っていたっけ。  


 妄想の人物の発言だけど。








 はあ……もう早く消えて欲しいんだけど。


 俺はうんざりしていた。


 「まさか本物……いやいや。」


 なかなか消えない画面に対してだんだんこれは妄想なんかではないと思うようになってきた。


 仮にもし、もしだよ?


 これが異世界転生をした証のステータス画面が本当だとしたらだよ?


 今の俺はそのチート能力とやらが使えるという事になるが……そんな事はあり得ない。


 だってここは現実だから。


 そういうのはアニメの世界の中の出来事なのであってこの世界とは無縁の物。


 日常生活においてあってはならない異質な物。

  

 「……それはわかってはいるけど一度だけ試しに使って見ようかな。」


 出来ないのは目に見えているけどそこで何も起こらなければこれはただの妄想だとはっきりするし。


 「じゃあちょっと恥ずかしいけど能力を唱えてみるかな。」


 使うのはあれで。


 「転移。」


 俺はその能力を口にする。


 ……


 が何も起こらない。


 「ほらやっぱり。これはただの俺の

 

 









 妄想……」


 俺は今見覚えのある場所に立っていた。


 「ここって」


 誰がどう見ても生活空間である。


 しかもそこは俺にとって長年慣れ親しんだ場所。


 「そんなわけないだろ!」


 何かの間違いだと思いつつある場所に向かう。


 ばたん!


 ある部屋の扉を勢いよく開けそこに入り驚く。

 

 いやここがどういう場所なのかもう何となく見当がついていたので実際はそこまでの驚きはなかった。


 「ここ俺の自室だよな?」


 





 「じゃあこのステータス画面は夢なんかじゃない?」


 つまりまとめるとこういう事か?


 ここは現実。これは間違いない。


 で頭の中のこれも現実、チート能力も現実、

認めたくないが先ほどの異世界も現実。


 何度も回り道をしてしまったが全てが現実・・・・・であるというのが真実なんだろう。


 「嘘だろ!? チート能力を持ってこの世界に戻って来てしまったのか!?」


 明らかになる事実に頭の整理が追い付かない。


 ピンポーン


 俺があれこれ考えていると自宅のチャイムがこの空間に鳴り響く。


 こんな時に来客かよ。


 タイミング悪いな。


 俺はイライラしながらも玄関まで駆けていく。


 ったく、これでもし変な用件だったら叩き出してやる。






 俺は玄関前に着くと相手がどんなやつで直接応対すべき人間かどうか確認するために扉の覗き穴を見る。


 誰だ? 


 こんな時に来るやつはどうせ録なやつじゃな……


 俺はその場で固まってしまった。


 そこにいたのは見覚えのある金髪のツンデレな感じがする美少女だったから。


 何で日本にクラウがいるの?


 もしかして全部夢というのが正解なのか?








 これはあれか。似ている人がたまたまここに用があって来たとかそういう事か。


 ならここは適当に話してお引き取りを


 「全く! せっかく来てやったのに留守とかタイミングが悪いわね!」


 本人だわ。


 性格とか声とかそのままだし。


 そこはどうでもいい。


 問題は何でうちに来たのかだ。


 もしかして途中で救済の旅を放棄した俺の場所を突き止めて排除しに来たとか?


 それは不味いぞ。


 いや別に戦闘面がとかそういうのじゃなくて知り合いの女の子を相手にしないといけないとか周りへの被害を考えないといけないとかそういう事だ。

 

 それを考慮すると仮に戦闘になった場合俺は向こうからの攻撃に対して一切反抗する事ができないまま終わってしまう。

 

 どうする?


 このまま居留守を使うか?


 いやでも相手は神様だぞ?


 俺がこの中にいるのなんて既にお見通しでこちらの出方を伺っているに違いない。


 ならここはいっそ……


 「まあいないなら仕方ないのだけれども。でもいきなり知らない人間がいたら困惑するでしょうからなるべく待つか。」


 そこで待つのはちょっと邪魔だよ。


 俺が物理的に出られない。


 「べ、別に交流を深める為の第一歩とかそういう事じゃないから!! 勘違いしないでよね!?」


 独り言でツンデレを言っているのが気持ち悪いんだけど?



  

 俺は覗き穴から様子を伺っていたがなかなか帰ってくれる気配がない。


 うわ、もう三十分も待ってるよ。


 「あの子どこの子?」

 「わからない。もしかしたら」


 しかもなんか外であそこの子がみたいな近所の人の話声が聞こえてくるし。


 そりゃどんな事情であれ部外者が玄関先に張り付いているのを見たら誰だってそれを変な目で見るのは当然である。


 はあ……それだけならまだいいよ?


 けどもしクラウが玄関先で何かあった時に疑惑の眼差しを向けられるのはこの部屋に済む住人である。

 

 「それは困るから出るしかないか。」

 

 静観しようと決め込んでこれをするのは意志がぶれているがもう諦めるしかない。


 俺は嫌々玄関の戸を開けた。

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