第7話 ただいま日本
「おい……ちょっと……」
外部から触られているような感じがする。
なんだよ……
今気持ちよく寝ているところなんだぞ?
そんなに体を強く揺するなよ。
寝起きが最悪な状態になるだろうが……
「こんな所で寝ていたら具合悪くなるぞ……?」
そりゃそうだろ。
お前が俺を無理に起こそうとしているせいで体に負担がのしかかって具合が悪くなるのは目に見えているし。
だいたい人が寝ているときに起こそうとするとかどうなってんだよ……
「起きないと大変な事に」
「ゆするのは止めろ! こっちは気持ちよく眠って……あれ?」
ここは……外?
何で俺外で眠っていたんだ?
ふと状況確認の為に周囲を見渡す。
そこは先ほどの魔物と戦った荒れ地、ではなく近代的な多くの建物などが点在している住宅街であった。
異世界の町の建物ってこんなにちゃんとしてるのか!?
いや偏見は失礼だとは思うが周りの状況やら魔物やらの対策に追われている関係上てっきりそういう事には首が回っていないのではないかとばかり。
というか転移で街にいるのはおかしくないか?
敵からの影響で遠くまで行けないやらなんやら言われたのに。
もしかしてクラウの早とちりとかそういうことか?
あの性格だしありそう。
「大丈夫?」
親切に声をかけてきた人物が心配そうな顔でこちらを見つめてくる。
魔物の罠……じゃないよな?
見た目はどう見てもおじさんだし。
「どうも……さっきは大声を上げてすみません。起こしていただきありがとうございます。」
心配して声をかけてくれたんだし感謝するのが当然だ。
「気にしないで。こんな所で寝ていたら色々大変な事になっただろうし声をかけるのは当たり前だよ。」
魔物からの奇襲とかあるしな。
「そうですよね。こんな無用心でいたら魔物の襲撃とか魔術とか防ぎようがないですもんね。」
「何それ?」
おじさんは不思議そうに首をかしげている。
俺を変なやつみたいな目で見てるな。
「やだな。俺が言っているのは羽の生えた人間に敵対する魔物とか攻撃や防御をするための魔術の事ですよ。」
「えーと……」
おじさんは少し考える素振りを見せる。
そんなに深く考える事じゃないだろ。
日常みたいなもんだし。
おじさんは動作をやめると困ったような表情を浮かべる。
「まもの? まじゅつ?
この人は何を言っているんだろう?
異世界というのは魔物と魔術が当たり前に存在する世界なのにそれをまるで知らないみたいに言うなんて。
ちょっとおかしくないか。
もしかして実はそれらはそこまで当たり前とかじゃなかったりするやつ?
それか魔物がおじさんに化けて俺を惑わそうとしているとか。
「もしかしてふざけているとかじゃないですよね?」
「何を? あっそうだ! この後の予定を忘れる所だった。君はもう大丈夫そうだからこれで失礼する。早くしないとバスに乗り遅れるからな。」
おじさんはそういうと小走りで向こうの方にかけていった。
ちょっと整理してみるか。
俺は先ほどのおじさんと今いる場所から情報をまとめる事にした。
この周りの建物は現代日本風……というかその物でおじさんの装いも現代風。
でおじさんは魔術と魔物を知らない上に異世界には存在しないであろうバスに乗り遅れると発言した。
って事はだよ?
おかしいのはおじさんじゃなくて俺の方だったという事なんじゃね?
いやいや。
さっきまで異世界でこれから世界を救うぞって命がけで戦っていたのにいきなり元の世界に帰って来るとかある?
ねーよ。そんなの色々おかしいだろ。
だって俺は現代日本で死んだんだろ?
そんな俺がまたこの地に戻ってこれるとか何の冗談だよ。
そうか! これ夢なんだ。
戦いで疲れた後に眠ってしまったんだな。
だからきっとこの光景こそが夢……いや待て。
俺は異世界がどうこうという考えを一旦止める。
どうしてここが夢と言うことになる?
確かにさっきの神様やら荒れ地やら戦いやらは妙に現実感があった。
だがそれは本当の現実であったかどうか定かではないし確かめる術もない。
対してこっちの何の変哲もない普通の景色の方は証明するまでもなく現実感がましましだ。
つまりだ、実際はここが本当の現実で向こうでの出来事が全部夢だったというのがオチなんだろう。
さっきのおじさん曰く俺は寝ていたんだし本当の夢はあっちと考えるのがごく自然だ。
異世界どうこうの方にリアリティがあったのはきっとアニメを見すぎていたせいでそれが頭に残っていたから俺の夢として現れたとかそういう事なんだろうよ。
なんだそういう事かよ。
それなら色々辻褄が合うな。
しかし何で俺がこんな所でいきなり眠っていたんだ……?
うーん。謎は残るけど異世界転生よりはまだ現実味のある物だし特に気にする必要も無いか。
「よし! これで不可解な謎は解決した事だしこれから家に帰るか!」
俺は訳のわからない魔術やらなんやらの事はきれいさっぱり忘れて気分を入れ換えようとした。
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