第2話 神のナビゲーションはいらない

 「っと。景色やら雰囲気やらが変わったな。」


 ここがアニメとかでよく見た魔術やらなんやらが当たり前になっている異世界か。


 「本当にきてしまったんだな。」


 空は青いし空気は普通、地面は舗装されていないが歩けないというわけではない。


 なんというか普通だな。


 こりゃ拍子抜けってやつか?


 ん?


 俺の頭の中に謎の映像のような物が表示されている。


 こりゃあれか?


 転生でおなじみのステータス画面ってやつか。


 今の自分はどの程度のレベルでどんな魔術を覚えていて、どういう所が強い弱いのか確認できるあの。


 目の前に出てきて指で触るみたいなのを想像していたけど実際はこんな感じなのね。


 俺はそう思いながら頭でちょこちょこ操作していく。


 なんか手慣れたように操作出来るのは違和感しかないがこういう事にも慣れていかないとダメだよな。





 俺はまず目に付いた自身のレベルという欄を開く。


 えーとレベルは……これか。


 なになに? 六六六?


 なんだこりゃ? ゾロ目だけどなんか変?


 七が三つとかだったら素直に喜べたんだけど確か六はなんか違う気がする。


 ……まあいいか。


 それはいいとして次はパラメーターだな。


 えーと? こっちも六六六か。


 ハイハイそうね。


 じゃあ次は俺の使える能力欄をっと。


 確かあの神様は俺に万能の能力とやらを与えてくれると言ってくれたな。


 ならきっとたくさん能力が……うわっ!?


 俺がその欄の操作をした瞬間色々な能力が表示されてきた。


 凄いな。

 

 本当に色々な物が使えるみたいだな。


 回復、転移、防御、攻撃無効。


 どれも魅力的な物ばかりで目移りするな。


 最初は異世界転生を強引にしやがってとか思っていたけど、まあ死んでいた?所を助けてもらった上にこれだけの能力を与えてくれたんだし多少はあいつに感謝しても……


 『あー! あー! 聞こえる?』


 なんか凄い聞きたくない声が頭の中に聞こえてきたんだけど。


 『ん? 反応がないわね? もしかして声が届いていない?』


 かもな。


 だからここは諦めて他に行ってほしい。


 『とりあえず聞こえるまで大声で呼び掛ける事をしないと。私の体力と次の仕事のスケジュールを考えたら三日は連続で。』


 体力有り余りすぎだろ。


 そんなにやられたら頭が混乱するわ。


 「聞こえてます! 聞こえてますよ!」

 

 面倒だけど返事しとくか。


 『あ! あんたもしかして声が聞こえてたのに無視をしたのね! 最低!』


 そうですね。


 お前の最低な声を聞きたくなくて敢えてスルーしていました。


 『そんなことだろうと思ったわ! 全く! これだからあんたってやつは』


 おいこれ鬱陶しいんだけど?


 ウザいからなんとかしてこの声を切りたいんだけどなんか使える能力ないか?


 俺は能力欄をチェックする。


 あったこれだ。


 「遮断!」


 俺はすぐさま該当する能力を自身に使用してそのまま神様の声を中断して……


 『なんか能力を使ってこの会話を終わらせようとしてるみたいだけど出来ないわよ?』


 「え、なんで?」

 

 俺って神さえも凌駕している万能の能力を持っているんだよね?


 それくらい出来て当然のスペックなんだよね?


 それが出来ないとかなんなの?


 詐欺なの?


 『これはそういう物だから気にしない事。それよりあんた今私の発言を勝手に消そうとしたわよね?』


 そこも気にしないで欲しかったな。


 「や、やだなあ……勘違いでは?」

  

 『ふーん。そういう態度をとるんだ?』

  

 まるでこっちの事を見透かしたかのように偉そうにペラペラ話をしやがって。


 「そうですね。じゃ」


 俺は会話を無視して先に進もうと決意した。


 『待ちなさいよ! あんた転移前にこう言ってたわよね? こっちが声だけでも同行することになったら何でも受け入れると。』


 「それが?」


 『なら言わせて貰うわよ? さっきはよくも__』


 このあとめちゃくちゃ罵倒された。






 「で? 何で俺に話しかけてきたの? 暇潰し?」


 もう面倒だしさっさと話を切り上げて世界の救済とやらに取りかかろう。


 『私がこんな事をしている理由がわからないわけ!?』


 急に頭に話しかけてくる奴の思考を予測しろと?


 趣味が変態だからとか?


 「俺ごときが神の考えを思考するなどあってはならない事なんで。」


 『それただ思考放棄したいだけよね。』


 よくわかったな。


 正直こんな事一秒でも早く頭の中から切り離したい。


 「そう思って頂いてもらって結構。だから無知な俺にお前の考えをお教え頂けたら嬉しい。可愛いお前の口から。」


 我ながらなんと気持ち悪い文言なんだ。


 まあこれには理由がある。


 『私が可愛い? そ、そう?』


 ツンデレはチョロい。


 だからこんな気持ち悪いあからさまなお世辞を言ったんだ。


 「そう。だから理由を教えてほしい。」


 下手な事を言うとボロが出るしここで切り上げる。


 『ふ、ふーん。そ、そこまで言うなら教えてあげなくもないわよ? か、勘違いしないでよね!? べ、別にあんたの誉め言葉が嬉しいからとかそんなんじゃないだから! 教えるのは気まぐれよ! 気まぐれ! 私の持つ寛大な心に感謝なさい!』


 まさか現実で通用するとは思わなかったわ。


 

   






 『あんたの残念な頭でも端的に分かりやすく言うなら私はあんたのサポートのために声を届けているのよ。』


 ぶざけんないらない。


 と言いたいところだが右も左もわからないから正直助かると言えば助かる。


 『本当は直接そっちに言ってあんたの事を常時監視したいけど、私は基本的に人間と大差ないくらい弱いから声だけ同行という事になったわ。』


 監視とか言ってるが気持ち悪い。


 後、魔術使えるのに弱いのか……


 神様って強いイメージしかないんだけどこいつは大した事ないと。


 ちょっと可愛いな。


 『一人で当てもなく世界を救うなんて、何もかもがおっそいあんただといつまでかかるかわかったもんじゃないだろうしね?』


 俺の何を知ってるんだよ?


 これでも俺は行動速度は人並み位だぞ?


 それを見て遅いとか思っているのであればお前の基準がおかしいんだよ。


 「なるほど。よくわかった。」


 『わかればいいのよ!』


 本当に生意気な事しか言わねーなこいつ。


 これ無くせないの本当にきつい。


 ちょっと試しに他の方法がないか聞いてみるか。


 「あのちなみにだけど、もし俺が違う方法で支援をして欲しいと言ったらどうする?」


 当然止めるんだよな?


 お前は人間を信じるくらいチョロい……寛大な心の持ち主なんだよな?


 『はあ!? 何!? 私が一緒に居たら不満だって言うの!?』


 そりゃあもちろん、


 世界を救うどころかお前の聞きたくもない罵詈雑言に俺のやる気が滅ぼされてそのままおしまいというのがオチだろうよ。


 「そういう訳じゃないが……」


 「じゃあどういう事よ?」


 「そのなんというか……このナビゲーションは俺の気分を害すると言うか、お前と話していると気が減退すると言うか、気分が落ち込むと言うか……」


 何を言ってんだ俺。


 どれも言ってる事が同じものばかりで言い訳になってないぞ。


 『へー。』


 ん?


 これは俺を軽蔑しているような感じがするな。


 もしかしたらこのまま呆れ果てて会話を取り止めてくれるか?


 「じゃあ俺に幻滅したという事でこのまま引き下がって頂けると助か……」


 『この位の事を言われたくらいで私があんたへのサポートを止めると思った? おあいにく様! こっちに反発する事位は想定内よ!』


 反発を想定しているならもっと穏便な口調で話をしてくれよ。


 頭痛いな。





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