第26話 生還に向けて




ボスがいなくなり、安全地帯となったボス部屋で一時間程過ごした。


魔力が回復した彩から治癒を受けて、水分や食事を取り、少しの仮眠を取った。


度重なる回復魔法によって、俺の身体はほぼ完全回復を遂げた。

瀕死に近かったことを考えると、改めて回復魔法の偉大さと有り難さが身に染みる。


「じゃあこれからの話をしようか」

「はい」


ボス部屋の床に座り、綾との話を始める。


ボスを倒して終わりでは無い。

もともと、シャーマンが率いる魔物の集団から逃げるためにこのボス部屋に来たのだ。


生還に向けて、ここからどう立ち回るかを考えなければならない。


「まずアイテムドロップは...」

「鬼灯の種ですね」


オーガを倒して得られたドロップアイテムを見る。

大きな魔石の隣にあるのは、鬼灯のような色と形をした個体の物質。鬼灯の種だ。


高エネルギー燃料であり、避難所生活での貴重な資源となり得る。

しかし、


「経験値ポーションじゃなかったか...」

「ですね」


本音を言うと、俺たちが欲しいドロップアイテムではなかった。


オーガがドロップするアイテムは全部で3種類ある。


武器

鬼灯の種

経験値ポーション


の3つだ。

経験値ポーションは読んで字のごとく、経験値の代わりになるポーションだ。

覚醒者が飲むとレベルをあげることが出来る。


上の階層にいるシャーマン達を倒すために、経験値ポーションが欲しかったがどうやらそれは得られなかったようだ。


「ならこれからどうするかだな......」


ちなみにオーガ戦を経て俺たちのステータスはこのようになっている。


ーーーーーーーーーー

姫宮 葵


Lv.6


攻撃力:23(+6)

防御力:22(+4)

体力:21(+4)

速度:19(+4)

知力:18

魔力:22


能力

【バズ・エクスプローラ】 分類:配信スキル 付与者:呑天の女神

スキルLv.6

チャンネル登録者人数:394人

アビリティ:魔法【電撃エレクトリック

      スキル【強攻撃クリティカル

      スキル【防御ガード

      スキル【投擲スロー

      スキル【攻撃力増加】

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーー

佐枝 彩


Lv.6


攻撃力:18

防御力:19

体力:23

速度:18

知力:17

魔力:29


能力

【うけらが花】 分類:支援スキル 付与者:呑天の女神

スキルLv.7

アビリティ:魔法【治癒キュア

      魔法【防殼プロテクト

      魔法【回復ヒール

      魔法【攻撃力強化】

      魔法【持続回復オートヒール

      魔法【防御力強化】

ーーーーーーーーーー


ボスのオーガを倒したことで、俺はステータスレベルが2も上がった。

彩もステータスレベルとスキルレベルが1あがり、新たな魔法を手に入れたみたいだ。


「取り敢えず【うけらが花】のレベリングはやろう。魔力がまた回復したら言ってくれ」

「分かりました。ありがとうございます」


ダンジョン内で他人に回復魔法を使うことで、自身のレベルを上げることが出来る彩のスキル。

普段からダンジョンを出る前に、魔力が尽きるまで自傷した俺の腕を治してもらうことでレベリングをしているが、それを今ここでやろうという話だ。

幸い安全地帯で、時間も余裕があるため、魔力が尽きても魔力が回復するまで待って繰り返しレベリングを行うことが出来る。

ステータスやスキルのレベルが更に上がれば儲けものだ。


そして俺。

先程シャーマンにやられた時より、ステータス面はかなり強くなった。しかし、扱える手札になんの変化もないのでまだ少し不安だ。


チャンネル登録者数が増えればスキルレベルが上がって、新たなアビリティが獲得出来る。

次のレベルアップが登録者400人か500人かは分からないが、今は少しでも伸ばしたい。


俺は場所を移動し、カメラの位置を調整する。


カメラの視点と一対一で向き合う。

俺には見えないが、カメラの向こうには何人もの視聴者が、いくつもの目がある。

俺は一つ深呼吸をしてから話し始めた。


「視聴者の皆さん、お願いがあります。いつも言っている通り、登録者数と同接、コメント数が俺の強さになります。俺たちが無事に地上に帰れるように、まだ登録をしてない方はチャンネル登録お願いします。登録してる方も、SNSや周囲にいる知人、なんでもいいので拡散してください。お願いします。皆さんの力を、貸してください」


真摯に、真面目に。

画面の向こうに頼み込んで頭を下げる。


クラスメイトの皆は運命共同体だから、普段以上に宣伝して回ってくれるだろう。

他の視聴者の中にも、拡散してくれるとコメントがあった。

視聴者の中にも登録してくれた人がいたのか、すぐに登録者が2人増えた。


「ありがとうございます」と礼を言って、彩のところに戻る。

上の階層に行った時の立ち回りと作戦を話し合わなきゃいけない。

レベリングと並行して、話し合いを続けよう。五体満足で、地上へ生還するのだ。


「ーー彩?...彩!?」


振り返ると、彩が地面に倒れていた。

俺は慌てて叫び、彩の元へと駆け寄る。


「スゥーー......ッスゥーー...」


近づいて息を聞き、顔色を見て安堵する。寝ているだけだ。


魔法の発動はかなり体力を消耗するし、今日はかなり動き回ったから、疲れ切っていたのだろう。俺が寝ていた間も、起きて待っていてくれた。


彩の体力が限界だったことにもっと早く気づくべきだった。

起きたら謝ろう。


彩を起こさないように、仰向けに体勢を変える。

彩が持っていたリュックサックから荷物を全て出す。リュックサックを丸めて、綺麗なタオルで巻き、彩の頭の下にいれる。枕の代わりだ。

これで寝やすくなっただろうか。


しかし、彩が寝てしまった以上話は起きてからになるだろう。

俺は彩から少し離れた場所まで移動し、再びカメラと向き合った。

思えばダンジョン探索以外をした事はなかった。歩きながら雑談をしたりはしていたが、じっくりと視聴者と話し合ったことはない。この機会に視聴者と雑談してもいいだろう。


俺は話し声で彩を起こさないように、話し始めた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


あれから7時間以上たった。

俺ももう一度仮眠を取らせてもらい、それ以外はずっと話し続けた。


実は彩とダンジョン探索以外で同じ時間を過ごしたことはほとんどない。

これからの探索のこと以外にも色々なことを話し合った。

お互いの趣味や好きな物、梓赤塾のことや、これまでの事。お互いの話を聞きあって時間を潰した。随分とお互いのことを知れたし、仲も深まった気がする。


配信も同じで、かなり長い間雑談をした。

俺が寝ている間は彩もカメラの前で喋っていたらしい。

23時から探索を再開すると伝えていたので、配信枠を抜けた視聴者が多かったが、たまに覗きに来てくれる視聴者も一定数おり、少人数の視聴者と雑談に興じていた。


その間のレベリングによって、俺のチャンネル登録者数は470人になり、スキルレベルが1つ上がった。新たに2つめの魔法を覚えたのだ。

彩もスキルレベルが1つ上がり、魔法を1つ覚えた。


そして現在23時過ぎである。

離れていた視聴者も戻ってきて現在の同接は200人を超えた。

体力の回復も万全。

準備運動もした。


俺たちは、ボス部屋を出発する。

シャーマンが待ち構える上の階層を超え、目指すは地上。

生還へ向けた、探索への一歩を踏み出した。






第26話 生還へむけて

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