第19話 骨の宮殿




覚醒者の能力は、その固有性から大きく二つに分類される。


他に同じ能力を持つ者がいない、唯一無二の固有能力か。

複数人が同じ能力に覚醒する、汎用能力か。


葵の【バズ・エクスプローラー】や彩の【うけらが花】は固有能力に分類される。


どちらが上という事はないが、希少性で言うと下の方が高いだろう。

ほとんどの覚醒者は己しか持たない固有の能力に覚醒するが、稀に汎用能力に覚醒するものが現れる。


汎用能力の大きな利点二つ。

扱い方が既に出回っていること。そしてハズレがない事だ。

逆に固有能力はろくに使えないハズレ能力の可能性もあるが、逆に他より強い能力になることもある。


汎用能力と言っても、覚醒した時点での能力が同じと言うだけであって、成長するにつれソレは独自の能力へと変遷していく。


例えば強力な魔法が使えるようになる能力【魔導書】。

詠唱と引き換えに普通より強い魔法が発現する汎用能力だが、発現する魔法の種類は人によって千差万別。


例えば、特定の物質を自由に操れる【唯全傀儡ゆいぜんくぐつ】。

スキルレベルが上昇すると操作性があがるが、その際操作対象に縛りを設けることでより自由に物体を操ることが出来る。

『無生物』『ダンジョン産の物』『鉄を含む物』など、どのような縛りを設けるかによってその能力は千差万別に成長する。

縛りによって制限される範囲が狭ければ狭いほど強くなるが、一度設けた縛りは取り消せないため、多くの人が慎重になる。


早乙女大は、そんな【唯全傀儡】の能力者だった。

黎明期から覚醒者として探索を続けていた早乙女はスキルレベルも高く、それに応じて設けている縛りの数も多い。

その一部を紹介すると以下のようなものだ。


物』

『非生物』

『人間の死体ではない物』

『人の手によって作られた物』


『人間の骨を含み』ながらも『非生物』であるという矛盾。

骨そのものも『人の手によって作られたもの』という縛りによって否定される。


あまりにも無茶な、矛盾した縛りによって、早乙女の物体操作は異常なまでの強さを誇る。

問題は、そのような縛りによって否定されない物体が存在するのか、という問題だがーー


それはが解決する。


向心寺は法然ほうねん建立こんりゅうした寺で、珍しい事業を執り行っている。

それは「納骨された遺骨を埋葬せずに、その使」というものだ。

そのため、向心寺には骨で出来た仏像がいくつも祀られている。寺の入口を守る阿行像と吽形像もそれだ。


つまり早乙女は、向心寺にある仏像を意のままに操ることが出来る。


また、向心寺が所有する遺骨から仏像を作る技術。

その技術と、『原災』直後に出た大量の死亡者の骨ーー遺族から寄付されたものーーによって仏像以外の物体も作られた。

騎士像やマネキン、武器や弾丸まで。

その全てを、自由自在に操って戦う。それが早乙女大という男だった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


向心寺に入って庭園をしばらく進むと、建物が近づいてくる。


本堂まわりは典型的な和風建築で、木造の建物が渡り廊下によって繋がっている。


庭園や渡り廊下を見渡すと、何体もの像が動き回っている。

これらは仏像でも騎士増でもなく、のっぺりとしたマネキンのような形だった。


「夜中に出会ったら怖そう...」


マネキン像を見て彩さんがそうつぶやく。

確かに見た目はホラー色が強い。

お寺という場所もあって、夜中に知らずに出会ったら寝れそうにない。


「ま、まぁ早乙女さんの意思で動いてるから襲われることは無いはずだけどね…」


襲われる襲われない以前に見た目が怖い、という話ではあるが...


「いや、アイツらは自律意思で動いてるから」「大さんの意思で制御はしてないぞ」

「え」

「え」


夜中に襲われる可能性もあるってコト...?


振り向いて口を挟んできた越智兄弟に脅され、震えながら進んでいると本堂横の建物にたどり着いた。


「男子の宿泊部屋はここだ。荷物は奥にスペースがあるからそこに置いてくれ」

「彩はこっちに来な。私の部屋が空いてるからそこを使え」


早乙女さんと緋那姉さんがそう言って、俺たちを誘導する。


「分かりました!じゃあまた後でね、あお君」

「ん。ばいばい」


緋那姉さんに呼ばれた彩さんがこちらを振り返って、小さくてを振る。

俺も手を振り返して、彩さんと別れた。


俺たち男子は早乙女さんに着いていく。

大きな宿泊部屋に入ろうとしたところで、廊下の向こうから一人の男性が歩いてきた。

白を基調とした和服に身を包んだ若い男性だ。俺よりも少し年上くらいか。


「お、飛鳥あすか!」


早乙女さんに呼ばれて、こちらに気づいた男性が頭を下げて会釈する。


「じゃあそこの部屋だから入っててくれ」


早乙女さんは俺たちにそう言って、男性の方へと駆け寄って言った。

何かしらの用事があったのだろうか。


俺たちは指示されたとおりに部屋に入る。


大きな和室部屋が二つ並んでいて、間は襖で締められる。そんな部屋だった。

俺たち全員が寝るには十分すぎる広さだろう。


言われた通り部屋の奥に荷物を置いた後、部屋割りや場所取りについて話し合う。

移動の疲れなんて殆どないが、床に座ってしばらく談笑に耽った。


「姫宮!」


あまり話したことの無い覚醒者たちと交流を取っていると、部屋の外から名前を呼ばれた。

早乙女さんだ。


「時間が出来たら本堂の方まで来てくれ」

「あ、今すぐ行けます!」

「分かった」


お呼びがかかったので、部屋の外にいる早乙女さんの元へと向かった。


俺が出てきたのを見ると、早乙女さんは外へ向かって歩き出す。

そのまま隣に並んでついて行った。


「改めてよろしく頼むよ。早乙女大だ」

「あ、よろしくお願いします。姫宮葵です」


自己紹介をしていなかった事を思い出し、慌てて返事をする。


考えてみると早乙女さんはここら一帯の覚醒者をまとめるおさみたいな人だ。

ベテランで雰囲気もあり、二人で話すのは少し緊張する。

強面の人じゃなくて良かったかもしれない。


「それで、なぜ本堂へ?」

「姫宮に会っておいて欲しい人がいるんだ」


俺の質問に早乙女さんがそう答える。


俺にあって欲しいとはどういう人だろうか。

気になるが、会った時に説明されるだろう。

本堂も近づいてきたため、口をつぐんでついて行った。


距離も近かったためすぐに本堂へ到着し、早乙女さんが扉を開ける。


「や、お待たせ」


そう言って中に入る早乙女さんに続いて、俺も中に入る。

中には既に四人の人が待っていた。


左手に緋那姉さんと彩さん。


反対側に男女がふたり並んで座っている。

男は先程廊下で出会った白い和服姿の人。

女の方は俺と同い年くらいだろうか。緋那姉さんと同じような赤髪をショートで切りそろえたの女の子。こちらは普通の私服だ。


俺が彩さん側に座ったのを確認して、早乙女さんが喋りだした。


「紹介するよ。彼は俺の従兄弟いとこ。早乙女飛鳥あすかだ」

「うす」


早乙女さんーー大さんと言った方がいいかーーに紹介されて、飛鳥と呼ばれた青年が頭を下げる。


「よろしくお願いします。佐枝彩です」


紹介を受けて彩さんが挨拶をする。

二人を観察していた俺も慌てて挨拶する。


「姫宮葵です。よろしく......えっと、飛鳥さん、でいい?」

「ん。飛鳥でいい」


俺の挨拶に飛鳥が短く答える。

俺が頷くと、今度は緋那姉さんが喋りだした。


「左にいるには私の姪、桜島さくらじま瑠奈るなだ」

「桜島瑠奈よ!」


緋那姉さんの紹介を受けて、立ち上がった少女が喋る。


胸を張って堂々と名乗った彼女は、一声で気の強さを感じさせる声だった。

緋那姉さんと同じく、いやそれ以上につり上がった眦。高めの鼻と、桜色の唇が褐色肌の肌にくっきりと乗っている。目鼻立ちと顔の輪郭が整っており、彩さんに負けず劣らずの美少女だ。


丈の短いTシャツにデニムのホットパンツ。膝を覆い隠す長めのソックスと、ホットパンツに挟まれた太ももが強調される。健康的な肉付きとキュッと締まったくびれがスタイルの良さを示している。


「よろしくお願いします。桜島さん」

「下の名前でいいわ。瑠奈よ!」

「よろしくお願いします。瑠奈さん」

「さんも要らないわ。敬語も不要よ!同い年なんだから」

「えっと...じゃあよろしく、瑠奈」

「ええ。よろしくね、葵!」


何回かのやり取りでようやく許されたらしく、差し出された手を握り返す。


「それからあなたも」

「よろしくね、瑠奈ちゃん」

「......まぁいいわ!よろしく、彩!」


声をかけられた彩さんが微笑んで挨拶を返す。

どうやらコチラはちゃん付けで許されたらしく、女子二人が握手する。


「それで、なぜこの二人を?」


一通り挨拶をし終わったあと、大さんに俺たちを引き合わせた理由を尋ねる。


「私たちが梅田へ行っている間も、二人にはここに残ってもらうからね。向心寺にいる間はその二人を頼ってくれ」


なるほど。

先輩の覚醒者たちが梅田へ向かったあとは、この二人が俺たちの面倒を見てくれるのか。


来週以降も、甲山ダンジョンへ潜る時の拠点として向心寺を使っていいらしいので、長い付き合いになるかもしれない。


こうして二人との顔合わせは終わり、俺たちは揃って本堂を後にした。






第19話 骨の宮殿

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