第17話 Next Stage




聖城学園武道場


俺は二人の男子生徒相手に木刀を振るっていた。

越智兄弟だ。


「距離詰めすぎ」

「足元見えてないぞ」

「後ろも見えてない」


竹刀を持った二人相手に、全力で挑む。


木刀を使っているとは言え、俺のステータスじゃ【強攻撃クリティカル】を使ってもこの二人に致命傷を与えることはない。急所に【強攻撃クリティカル】をくらえば悶絶する程度だそうだ。

と言っても、先程から有効打なんて一つもないが。


バコンッ

「うがっ!」

「防御」「なんでそこでスキルを使わない」


「【強攻撃クリティカル】」

バコンッ

「ぎゃっ!」

「後隙デカすぎ」「遅い」


ビュンっ

「うおぉっ?」

「油断したね」「一息ついたね」


2方向から次々と飛んでくる指導に頭を悩ませながらがむしゃらに動き続けた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ダンジョン出口で彩さんのレベリングが成功した日から数日が経過した。

あれからさらにもう一度ダンジョン探索をし、俺のレベルは4まで上がった。

彩さんもレベル5になり、上本町ダンジョンではかなり余裕を持って探索出来るようになった。


そんなこんなで充実した探索者としての日々を送っていたある水曜日。

廊下でばったりと越智兄弟と出会ったのだ。


彼らは隙を見て俺のチャンネルを見てくれているらしく、俺が好調に探索を続けていることを喜んでくれた。

その会話の流れで俺と越智兄弟の休みが被っていることが分かり、訓練の誘いをされたのだ。


普段学校で訓練する時はクラスメイトたちと行うが、先達の覚醒者から教わるまたとない機会のため、誘いを受けた。


そういう経緯で今武道場で倒れている、という訳だ。


「ぜぇー、はぁ、はぁー」


武道場の端で仰向けになり呼吸を整える。

越智兄弟にたっぷりとしごかれた疲れを、体から逃がそうとする。


反対側では越智兄弟が軽く汗を拭っていて、俺の傍ではクラスメイト数人がいる。


取り敢えず呼吸を整えた後、状態を起こしクラスメイトから水とタオルを受け取る。


そうして休憩していると、越智兄弟が近づいてきた。


「一番の課題は」「【強攻撃クリティカル】発動後の隙が大きすぎることだね」

「あぁ、だから隙が生まれても問題ないタイミングでしか発動できなくて」

「いや、隙を小さくしないと」「あの隙じゃこの先使えなくなるよ」

「でもあれはスキルの仕様だから無理...」


二人がかりでのアドバイスに、不可能だと反論しようとすると、兄弟は揃って首を振る。


「あれはスキルの反動みたいなもので」「身体を能動的に動かせなくなる過ぎない」「つまりあの状態でも身体は動くんだ。」

「ふむ...なるほど?」

「慣性力や筋肉の収縮は変わらずに働く」「その力に身を任せれば、身体は動かせるってこと」

「はぁ...」


俺の腕を引っ張って立たせながら説明を続ける。


「つまり考えなきゃ行けないのは『いつ発動するか』じゃなくて」「『発動したあと』の戦場の流れだよ」

「反動がある状態で身体がどう動くかを研究して」「それを戦場で当てはめる」

「攻撃後の流れまでを一連の行動として記憶するんだ」「ほら、練習するよ」


「え、あっもうちょっと休憩......」

「十分したでしょ」「立ち回りの練習だから大丈夫」


た、タスケテクレーー


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ありがとうございました......」


生気の抜けた身体で、越智兄弟に礼を言う。

訓練が終わり、付き合ってくれていたクラスメイトたちと教室に帰ろうとしていた。


「あぁ、ちょっと待って」「まだ誘いがあるんだ」

「誘い...?」


武道場から出て帰ろうとしていた俺たちを、越智兄弟が引き止める。


「僕達、金曜の午後から向心寺に行くんだ」「他の覚醒者たちと一緒にね」


向心寺。

ここ聖城学園からしばらく歩いたところにあるお寺だ。


「良かったら姫宮も一緒に行かないかなって」「もちろん彩ちゃんもね」

「え?俺が言っていいの?」


向心寺は探索特区。ここら一帯の探索者の本部みたいな場所だ。

そこに覚醒者たちが集まる、という事はなにか極めて大きな出来事があるのだろう。

とても覚醒直後の俺が言っていい場所とは思えない。


「僕たちが集められるのは梅田への遠征だから」「もちろん姫宮はその遠征には参加出来ないけど」

「じゃあなんで...?」

「上本町ダンジョンはそろそろ余裕になってきたでしょ」「別のダンジョンに向かってもいいと思うんだ」

「向心寺の近くにちょうどいいダンジョンがあるから」「一緒に向かってついでに寄っていけばいい」


誘いの意図を説明される。


なるほど。確かにそろそろダンジョンのレベルを上げてもいいかもしれない。

というのも、上本町ダンジョンに潜り続けるメリットはほとんど無いからだ。


そもそも、俺たち覚醒者がダンジョンに潜るのは、ダンジョンで手に入る食料や資源、ドロップアイテムなどを獲得するためだ。

避難所生活の基盤になっているのだ。だからこそ覚醒者は非覚醒者たちに全力でサポートされる。


しかし上本町ダンジョンは、出現する魔物が弱いこともありダンジョン内の資源はあらかた取り尽くされている。ドロップアイテムに関しても、ゴブリンなどの雑魚敵は何もドロップしない。

つまりこのダンジョンに潜っても何も物を得られないのだ。


初心者が成長するためだけのダンジョン。それが上本町ダンジョンの位置づけである。


クラスメイトたちからサポートを受けた覚醒者である以上、早く資源を収集できるダンジョンに潜らなければいけないのだ。


また、探索者になった以上いつかは向心寺と関わることになるだろう。ダンジョンの難易度をあげるのと同時に、一度見に行っておくのもアリだ。


「じゃあ、彩さんに確認とって良かったら同行していい?」

「あぁ分かった」「また連絡してくれ」

「じゃあまたね」


そう言って武道場の外へと足を向ける。


「あぁそれと、」

「いやまだ用事あるんかい!」

「ダンジョンのレベル上げるなら」「武器も変えた方がいいよ」

「うっ......」

「僕たちがあげた武器の中に」「ちゃんとした剣か刀あるでしょ」


そうだ。

敵が強くなるなら、いつまでも木刀なんて使っていられない。

ただーー


「だって真剣重いんだもん」


そう、重いのだ。

映画や漫画でブンブン振り回しているイメージがあったが、実際持ってみると想像以上に重かった。とてもじゃないが振り回せる重さじゃない。


「ステータス上がったんだから」「もう使えるでしょ」

「うぅ...分かった。武器も変えとく…」


二人に説き伏せられて、武器も帰ることになった。

もう少しだけ木刀でやっていけると思ってたんだけどな……


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


夜。

彩は自分のスマホであおチャンネルのアーカイブを見ていた。


戦場では、彩の方が圧倒的に負担が軽い。

だからこそ、彩が戦況を見て判断し、その都度的確なサポートを挟まなければならない。

前線で戦う葵の思考を減らさなければならない。


そのため、ダンジョン探索の配信を動画で見直し、葵や敵の立ち回りを何度も研究するのだ。

葵がどの状況で攻めるのか、いつ彩のサポートを期待しているのか。或いは葵の視覚から外れてしまう条件は何か。

何度も何度も動画を見返して、脳内でシュミレーションを繰り返す。

ここ最近の、避難所での彩の日課だった。


そうやって小さな画面でYourTubeを開き、動画を見ていると、葵からメッセージが来たという通知があった。


一旦動画を止めて、その通知をタップする。

画面はメッセージアプリに切り替わり、葵からのメッセージを表示する。


『相談があります』

『ウチの覚醒者の先輩達が、向心寺に集められるらしい。梅田に遠征に行くんだって』

『それで、俺達も一緒に向心寺まで行かないかって誘われた』

『向心寺の向こうに甲山ダンジョンがあって、上本町ダンジョンよりちょっと難易度が高いらしい。資源とかもまだあるって』

『これからの探索場所を甲山ダンジョンに変えるなら、この機会についでに向心寺に寄っていかないか、という提案です』

『出発は金曜日らしい』


(梅田遠征か…一之瀬先輩たちも行ってたっけ)


メッセージを読んで、彩は同じ学校の先輩ーー通称王子様の事を思い出していた。


梅田地下迷宮。大阪一の都市に出現した全国有数の高難易度ダンジョン。

噂によると、「迷宮の入口にすらたどり着けない」んだとか。

その攻略要請を受けて、一之瀬一行は梅田に遠征へ向かった。

さらなる増援が送られる、という事はやはり攻略が難航しているのか。


頭の隅でそんな事を考えながら、彩はメッセージを返す。


『分かりました。甲山ダンジョンで大丈夫です。だとしたら明日の探索は辞めておきますか?』


返信は直ぐに帰ってきた。


『そうだね。明日は準備と休養の日にしておこう』

『15時に法院女学園の校門にまで迎えに行く』

『了解です。ありがとうございます』

『じゃあおやすみ〜』

『おやすみなさい』


短くやり取りをして、予定を決める。


こうして二人は次のステージへと舵を切ったのだった。






第17話 Next Stage

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る