第15話 Two-man-cell
「それじゃあ配信を終わります。ありがとうございました〜。チャンネル登録と高評価、拡散よろしくお願いします」
夕方、学校の近くまで戻ってきても配信を終わった。
今日一日探索を続けて、俺はステータスレベルが3にあがった。
彩さんはステータスレベル2、スキルレベル4だ。
初日なのに上がり幅が凄まじい。
「じゃあまた明後日!ありがとうございました!」
彩さんが手を振って法院女学園へと帰っていく。
俺は手を振って送り、聖城学園へと引き返した。
次の探索は明後日の午後。
これは配信中に決めて伝えたため、視聴者のいくらかは来てくれるだろうか。
これからのことを考えながら帰っていると、76期生A組の教室まで戻ってきた。
「おかえり〜」
「おつかれ〜」
「ただいま〜」
帰ってきた俺を見てクラスメイトたちが声をかけてくれたので、挨拶を返す。
教室に混じり、今日のことを話す。
「めちゃめちゃ可愛い子だったね」
「法院にあんな可愛い女子おるとか思わんかったわァ」
「ね。可愛いよね」
「最初緊張しなかったの?同級生の女子と話すのなんて久しぶりでしょ」
やはり真っ先に話題に上がったのが彩さんの事だった。
「いや、知り合いだったんだよね。彩さんと俺」
「え?」
連絡で伝えていなかった事実を明かす。
「【原災】前に通ってた梓赤塾の同じクラスの子だった。それで連絡くれたんだって」
「え〜何その設定!ズルい」
「設定ってなんだよ」
その後もしばらく、彩さんのことで質問されたり、揶揄われたりした。
「あ、そう言えば姫宮...」
「ん?」
一通り話したあと、黒川が声をかけてきた。
「初配信の動画編集、終わったよ。切り抜き動画として投稿するやつ」
「お、マジで?」
「あぁ。青山が編集してくれた」
生配信だけでなく、ダンジョン探索の様子を短い動画に見やすく編集して投稿しよう、という話になっていた。
初日の配信以降、クラスメイトが編集してくれていたらしい。
見てみると、数分〜十分ほどの動画が三本あった。
配信冒頭、初戦闘、ゴブリン四体との死闘の動画だ。最後の動画にはダンジョンに入っている部分も入っている。
「ありがと」
「かまへんかまへん!むしろ思ってたより時間かかってすまんなぁ」
編集をしてくれたらしい青山に礼を言う。
その後、それらの動画が投稿された。
配信だけでなく、この動画でも話題になればいい。
「配信も動画も成功して、仲間も出来た!順調だね」
「ん。軌道に乗ってきた」
「あとはバズればいいんだけどなぁ。ムズカシイよなぁ」
YourTuberとしてはまだまだだが、探索者としては順調だ。
この調子て行けるといいな。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
佐枝彩
法院女学園に帰ってきた彩は、探索でかいた汗を流すためにシャワーを浴びていた。
浴槽に浸かることは滅多に出来ないが、シャワーならもう自由に浴びれるようになっている。
まだ初夏と言うべき季節だが、冷たいシャワーを浴びて火照った体を冷ましていた。
ダンジョン探索を経た興奮。
実際には彩はほとんど戦っていない。しかし、目の前で魔物との戦闘を目の当たりにし、ダンジョンと魔物を肌で感じ取った。その興奮は相当のものだった。
法院女学院は、聖城学園と衛兵の当番回りが違い、学生である彩は衛兵を務めたことがない。
そのため、魔物との戦いを生で見るのは初めてだったのだ。
(あお君、凄かったな…)
目の前で繰り広げられ続けた戦いを思い出す。
(配信で見てた時と全然違った。いや...間違いなく初配信の時より戦いが上手かった)
初配信で見た葵の戦闘と、今日見た葵の戦い。
葵がクラスメイトと話し合い、立ち回りを何度も研究した成果を、その違いを、彩は理解していた。
(この二日で頑張ったのかな。凄いな…)
知り合いを見つけて、思わず連絡してしまった。
こんなにも早く会って、パーティーを組み探索に行ったのは、完全に彩の想定外だった。
未だに気持ちの整理が付いておらず、半ば現実感がない。
それでもーー
探索に一生懸命で、戦闘スキルが高い。
話しやすくて、優しくて。
上手くやって行けそうなパーティーメンバー。
「あお君に出会えて、良かったな......」
ポツリと呟いた言葉はシャワーの音にかき消された。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
振り下ろした木刀が、グールを灰に還る。
「離れて!」
彩さんに声をかけて位置取りを変える。
地面を蹴り、少し離れた所にいる二体のゴブリンへと迫る。
「【
ゴブリンに向けて魔法を放つと、紫電は右のゴブリンに吸い込まれる。
硬直したゴブリンを放置して、左のゴブリンへと近づく。
ゴブリンは近づいてきた俺に拳を振るう。
木刀で受け止めて跳ね除ける。
レベルアップで強化されたステータスでゴブリンと打ち合い、少しづつ反撃をいれる。
相手に大きく隙ができたところで一声。
「【
「あお君ッ!!」
左のゴブリンへと強力な攻撃が吸い込まれると同時に、彩さんから警告の悲鳴があがる。
硬直からとけた右のゴブリンが、拳を握って俺に振り抜いていた。
「【
「【
スキル後の隙から慌てて防御を取るが、その前に彩さんの魔法が発動して、俺とゴブリンの間に防壁が展開される。
防壁がゴブリンの拳に砕かれ、防壁によって威力の減衰した拳が俺へと当たる。
二重の防御によって対応されたゴブリンの攻撃は、俺に僅かなダメージを与えるに留まる。
俺は反撃をしようとしてーー辞める。
攻撃をしてきた右のゴブリンを蹴飛ばして距離を離す。
そして体を回転させ、振り抜きざまにもう一度スキル。
「【
俺を後ろから狙っていた、先程の左ゴブリンに攻撃があたり、その命を刈り取る。
地面を蹴って、残ったゴブリンとも距離を取る。
「【
離れた位置にいる彩さんから回復魔法が飛んできて、先程のダメージを癒す。
一息ついて、心を落ち着ける。
俺は常備している投球を取り出し、スキルで投げる。
「【
彩さんにゴブリンの注意が行かないように、と投げた投球は狙い通り的中。
ゴブリンがコチラに敵意を向けるーー
と、ゴブリンが俺を認識する頃には、間合いが詰め終わっている。
投球と同時の接近。
ろくに対応できず、隙だらけのゴブリンに向かってスキルを発動。
「【
大きく振り抜いた木刀の一撃はゴブリンへとあたり、その体をよろめかせる。
その間にスキルの後隙から抜け出し、追い打ちをかける。
体勢を立て直したゴブリンも反撃してくるが、手堅く木刀で打ち合う。
そのままスキルを発動することなく、通常の攻撃で押し切った。
塵となったゴブリンを確認して、力を抜く。
魔石を拾いながら彩さんの元へと帰り、魔石を預けた。
「お疲れ様です」
「ありがとう。サポートも助かった」
彩さんとパーティーを組んで二日目。
立ち回りにも慣れてきて、随分と戦いやすくなった。
彩さんはスキルレベルが3になったことで【
彩さんの【
硬直、遠距離、目くらまし、火力と手広く使える俺のアビリティ。
これらを駆使すれば随分と戦えるようになった。
選択肢の多さはそのまま、戦闘中に考える事の多さにも繋がるが、そこは二人とも持ち前の知力の高さで補う。
魔物三体ぐらいなら余裕を持って倒せるようになった。
初日のようにゴブリン四体に当たっても、今なら問題ないだろう。
「あ、ステータスとスキルのレベルが上がりましたよ」
「......だから早いって!」
初日からそんな気がしていたが、彩さんの【うけらが花】の真髄はやはり成長速度の速さにあった。
ダンジョン内で回復魔法を使えば使うほど、成長速度が早くなるスキル。
レベルが上がるにつれて必要経験値が上がってるとはいえ、それでもまだ早い。
今の報告で彩さんはステータスレベルが3、スキルレベルが4となった。
ステータスレベルは完全に追いつかれた事になる。
「それで、なんの魔法を覚えたの?」
「えーっと、【攻撃力強化】ですね」
「おぉ!バフ魔法か。いいね」
「一旦かけてみますね?」
「ああ頼む」
新しく習得した魔法をかけてもらう。
彩さんが魔法を発動してから、俺は自分のステータス画面を見た。
ーーーーーーーーーー
姫宮 葵
Lv.3
攻撃力:15(+3)
防御力:13(+2)
体力:13(+2)
速度:12(+2)
知力:16
魔力:15
ーーーーーーーーーー
「おぉ〜かかってる!」
俺の配信スキルによるバフだけでなく、攻撃力がさらに+1されている。
魔法の効果はステータスによるので、彩さんがこのままステータスレベルを上げていけばバフの量も変わるだろう。
「じゃあ次進もうか」
魔法の検証を終えて、ダンジョンの先へ進む。
まだまだ体力に余裕があるのでもう少し先まで進めるだろう。
「はい、次の分かれ道で左ですね」
地図を持った彩さんの指示に従って進んで行った。
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「おっと...」
「うっ」
通路の先を覗いて、俺と彩さんが同時に声をあげる。
視線の先にはゴブリンが四体。
初日に死闘を繰り広げた時と同じ状況だ。
ゴブリンたちはまだ俺たちに気づいていない。
引き返そうと思えば引き返せる状況だ。
俺たちは顔を引っ込めて元の通路に戻り、話し合う。
「どうする?引き返す?」
「私は体力的には余裕があるのでどちらでも。前線で戦うあお君のコンディション次第です」
俺も体力の余裕はある。
配信 スキルによるバフ量も増えている。
「コンディション的には万全だけど…」
「勝てるかどうか、ですよね」
そうだ。
初日にゴブリン四体相手に勝てたのは間違いなく幸運だった。
今度も勝てる確証は無い。
いや、あれから俺も強くなったはずだ。
手数も増えた。
新しい武器もある。
彩さんと言う仲間がいる。
ゴブリン三体を相手にした時の感覚から、四体を相手出来るかどうかを考える。
「投げ槍あるよね?」
「はい。リュックに入ってます」
配信のカメラを見る。
クラスメイトを含めて100人近い視聴者が見てくれている。
今はともかく、今後もダンジョン探索を続けるなら、安牌な戦闘だけじゃやっていけないだろう。
挑戦を
コレはその第一歩だ。
「戦おう。立ち回りの相談をさしてくれ」
「分かりました」
すぐ傍の角を曲がった先の通路にゴブリンが四体。
その状況で俺と彩さんは話し合いを始めた。
ゴブリンたちを倒すために。
第15話 Two-man-cell
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