第14話 うけらが花




「到着しました上本町ダンジョン!」


あれからグールをもう2体倒し、二日ぶりに訪れたダンジョンを前にして俺は言った。


「ここが...」


彩さんが、ダンジョンの入口にある公園を眺めて呟く。


俺が一昨日死闘を繰り広げたダンジョンだ。


「準備はいい?」

「はい、大丈夫です」


彩さんに声をかけて、入口へと進む。


ဗီူ72人が視聴中

『キタダンジョン』

『頑張れ』

『頑張って』

『気をつけて!』


コメント欄に目をやると、応援コメントが目に入る。

視聴者の数も、少しづつ増えてきた。昨日の最後の方と同じくらいいる。


ゆっくりとダンジョンの入口を下っていき、ダンジョンの中を見通す。

魔物がいないことを確認して、彩さんを呼ぶ。


彩さんが落ちないように、下から手を差し伸べて降りてくるのを待つ。

彩さんが完全にダンジョンに入ってから手を離し、再び先へ進む。


一昨日ダンジョンの恐ろしさを知ったばかりだ。

最大限の注意を払いながら、ゆっくりと進んでいく。喋る余裕は無い。

お化け屋敷を進むような足運びだ。


「そこを右です」


先輩探索者の越智兄弟に貰った、上本町ダンジョンのマップは、彩さんが持って後ろで確認してくれている。

予め決めていたルートを教えてくれる。


少し進むと、すぐに魔物に遭遇した。

ゴブリン。一体だ。


ゴブリンはこちらを向いていたため、すぐに襲いかかってくる。


俺も前へ進み、彩さんから距離を置いて木刀を構える。


ゴブリンが拳を振り上げて、頭上から殴りかかってくる。

それに合わせて木刀を頭上に掲げ、スキルを発動する。


「【防御ガード】!」


木刀のつかーー持ち手の部分でゴブリンの拳を受け止める。


身体に衝撃が流れるが、綺麗に攻撃を受けれたので、ゴブリンの拳を流して返す刀を脳天に振り下ろす。

すぐに追撃。ゴブリンの腕にもう一撃いれると同時に飛び退いて木刀を構える。


まだゴブリンに隙があるのを確認してから地面を蹴り、突進する。

すり抜けざまに一発。


「【強攻撃クリティカル】」


胴体にスキルを打ち込んで通り抜ける。

振り返って木刀を構えると、満身創痍のゴブリンが襲いかかってきたので、木刀で弾く。

よろめいたゴブリンの腕に一撃。

突き出す木刀で胸元にもう一撃。


それでゴブリンは塵と化した。


魔法を使わず、【強攻撃クリティカル】も一発でゴブリンを制圧。


「すごい...」


後ろで戦いを見ていた彩さんが呟く。


控えめに見ても、今の戦いは上々だっただろう。


一昨日初めて魔物と戦い、そしてゴブリン相手に死線を彷徨った。


学園に戻ってから配信を見返しながら、クラスメイトたちと何度も反省会を開いた。


『原災』以降の学校生活で組み込まれた「武術」の授業。

学んできたことがもっと通用することに気づき、1度戦った経験を踏まえて何度もシミュレーションした。


ゴブリンが人型だったこともあり、その成果が如実に現れたのだ。

ステータスの伸びもあるだろうか。


魔石を拾って、彩さんの元へ戻る。


「指回復してくれる?」


ゴブリンの拳を受け止めた時に、右手の小指だけ当たって負傷したため、彩さんに回復してもらう。


「わかりました!【小治癒ア・キュア】」


突き指程度の怪我だったため、一度の魔法で回復する。

魔石を預けて、引き続きダンジョンを進む。


「あ、待ってください」


と、出発しかけたところで彩さんに止められる。


「どうかした?」


振り返ると彩さんは自分のステータス画面を見ながら苦笑いをしていた。

そして気まずそうに口を開く。


「レベルアップ、しました」

「は?」


レベルアップ。レベルアップ。

言葉の意味を飲み込む。


「スキルレベルの方ですけど」


スキルレベルがあがった。


なるほど。

確かに【うけらが花】は、ダンジョン内で回復をするとレベルが上昇する能力だ。

たった今、俺の指を回復したからスキルレベルがあがったのだろう。しかしーー


「まだ1回しか回復してないよね」

「してないですね」

「......早くない?」

「早いですね」


1回回復しただけでレベルが上がるのはおかしくないか?

少なくともネットに転がってる他の覚醒者と比べても


「レベルが低いからじゃないですか?」


彩さんが首を傾げながら言う。

レベルが上がっていく事に必要な経験値は増える。それは覚醒者全員に共通したルールだ。

レベルが低かったから回復一回でレベルアップした。......有り得る、のか?有り得るのか。納得するしかないな。


考えても仕方がないだろう。味方のレベルが高くて困ることはないからな。


「【防壁シールド】って言う魔法を覚えましたよ」

「使ってみる?」

「わかりました!」


新しく習得したらしい魔法を使ってもらった。


彩さんが詠唱すると、正面に光る壁が現れた。

大きさは一畳より少し大きい。形は四角形。

触ってみるとしっかりと硬く、まさに壁そのものだった。


強度を検証してみると、今の俺が本気で木刀で殴って、ギリギリ壊れないくらい。

強攻撃クリティカル】を使うと簡単に壊れた。


グールの突進は防げるが、ゴブリンの攻撃は無理そうだ。

速度の早いグールならともかく、ゴブリンを彩さんの元まで通す気は無いので問題は無い。


検証を終わり、再び迷宮を進んだ。


魔物に遭遇する頻度は街中よりも遥かに多いものの、一昨日みたいにゴブリン四体に囲まれるなんてことは無い。

二体がせいぜいだ。

ヒーラーがいるので、多少怪我しても問題なく探索を続行できる。順調だ。


「【小治癒ア・キュア】」


当初の予測通り、彩さんのスキルレベルは、レベルが上がると上昇しづらくなるらしい。

彩さんのスキルレベルがあがってから既に三回ほど回復を受けた。

まだスキルレベルは2だーー


「あ、レベルが上がりました」

「お、上がったか」

「はい。スキルレベルが3に。ステータスレベルも2になりました」

「......成長チートやないかい!」






第14話 うけらが花

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