第12話 知人




翌日の13時前。俺は防具と木刀を装備して、学校を出た。

一応街中に出るので、フル装備だ。


法院女学院は目の前にある、と表現したが厳密には斜め前で、さらに入口までとなると意外と遠い。

徒歩3分だ。え、近いって?


六車線の大通りを渡ってしばらく歩くと、法院女学院の入口が見えてくる。

魔物には遭遇しなかった。


仏教系の学校のため、和風建築の大門が居を構える。


足を止めると、門の傍に1人の小柄な女子高生が立っているのが見えた。

向こうもこちらに気づいたようで、駆け寄って話しかけてくる。


「こんにちは。あおさんですよね」

「はい。あなたがぶらんちさんですか?」

「はい、そうです。取り敢えず中に入ってください」


本人確認をして、すぐに大門の中へと案内される。

避難所の外で長時間話す訳にもいかないからな。


ちなみにリアルのぶらんちさんは驚くほど可愛かった。

...というか、どこか見覚えがあるような顔ーー


「こっちです」


大門とその付近に集まる衛兵たちを通り過ぎて、ぶらんちさんの声に思考を断ち切る。


法院女学院は法院寺というお寺と並立した学校で、その敷地面積は聖城学園より遥かに広い。

当然法院女学院の生徒数も、受け入れてる避難民の数も多い。


門を通り抜けてしばらく歩いたその場所には、寺院や仮説建築のようなものが乱立している。

そのうちの一つに案内された。机と椅子がいくつか並べられた休憩所のような場所だ。

席に向かい合って座る。


女子高生としては平均的な小柄な体型。

花柄のレースが飾られた白いトップスは首周りが緩く、その肩を少しだけ覗かせている。

傷一つないスベスベの白い肌。目鼻立ちのはっきりした丸く小さな顔。緩くウェーブのかかったミディアムボブの髪型。まさに「可愛い」という言葉が真っ先に出てくるような存在。


「改めて、はじめまして。あおチャンネルのあおと申します。本名はーー」

「姫宮くん、ですよね」

「え?」


本名を言う前に当てられて、困惑の声を上げてしまう。


「もしかして知り合いでした?すいません。ちょっと、記憶になくて。見覚えはある気がするんですけど…」

「あ、いやいや、大丈夫です。私が一方的に知っていただけなので」


とは言っても、確かに見覚えがあるのだ。どこかで会ったことがあるはず。


どこだ?


中学に上がったあとは、すぐに『原災』が訪れて避難所生活になったため、同年代の女子には会っていない。


ならそれよりも前か。

小学校の同級生でもない。

小学生の時に通ってた塾の同級生でもないーー


ーーあ。

もしかして。


「ーー佐枝さえださん?」


ふと思い出した名前を口にすると、彼女は目を大きく見開いて驚いた。


「知ってるんですか?」


そう、そうだ。佐枝さんだ。


「梓赤塾の?」

「あ、はい。そうです!名前知ってたんですか!」

「あぁ、凄い可愛い子がいるなぁ…って思って」

「ふふふ、そうですか。私も姫宮くんのことカッコイイ人だと思ってましたよ」


答え合わせをして、ぶらんちさんーー佐枝さんが微笑む。


梓赤塾は、進学校向けの大学受験塾で、中学一年生から入塾できる。

俺も中学入学と同時に大阪梅田にある梓赤塾に入塾した。


残念ながら『原災』が起こってしまったので1ヶ月しか通わなかったが、その時同じクラスにいたのが佐枝さんだ。

法院生のめちゃめちゃかわいい女の子がいるなぁ、と思って授業中眺めていたのだ。

話したことはついぞなかったが、先生と会話しているのを聞いて、名字だけは知っていた。

嘘だ。他にもいろいろ知っている。数学が苦手なこと。キーホルダーだらけの筆箱を持っていたこと。字が意外と汚いこと。ピーチティーをいつも飲んでいたこと...

1ヶ月。授業にして10回ほどしか会っていなかったが、色々と覚えている。何故なら可愛かったからだ。

俺が一方的に認知していただけだと思っていたが、向こうも知っていたらしい。嬉しい限りだ。


それから少し話に花を咲かせた。


佐枝さんは本名を佐枝さえだあやというらしい。

下の名前で呼ぶよう要請された。


どうやら彩さんは、俺の配信を見た時から、俺が「梓赤塾にいた姫宮」だと気づいたらしい。それで連絡してきたのだそう。


「で、パーティーの件だったね。能力について詳しく教えてくれる?」

「はい。どうぞ」


少し雑談したあと、本題に入る。

DMで聞いていた能力の詳細を聞くと、ステータス画面を見せてくれた。


ーーーーーーーーーー

佐枝 彩


Lv.1


攻撃力:10

防御力:8

体力:9

速度:8

知力:14

魔力:10


能力

【うけらが花】 分類:支援スキル 付与者:呑天の女神

スキルLv.1

アビリティ:魔法【小治癒ア・キュア

ーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーー

【うけらが花】

ダンジョン内で魔法を使い他者を回復した時、ステータスレベルの経験値とスキルレベルの経験値を蓄積する。

スキルレベルが上昇すると、支援魔法を獲得または既存の魔法を強化する。

ーーーーーーーーーー


「完全にサポート特化の能力だね…」


これは俺以上に、一人で探索するのは難しいだろう。

仲間がいなければ戦闘能力は皆無に等しい。


「はい...レベルがあげれないとパーティーを組んでくれる人もなかなかいなくて...」


能力の経験値取得条件がダンジョン内に制限されていなければ、避難所の怪我人を回復してレベリングをする事もできただろうが…

レベル1で戦闘力がない状態では、仲間探しに苦労するのはよく知っている。最近知った。

彩さんも俺と同じような状況に陥ったのだろうか。


「いや、待って?」

「なんですか?」


俺はふと疑問に思って声を上げた。


「法院なら王子様がいるでしょ。彼女のチームには頼らなかったの?」


王子様。法院女学園にいる女子生徒で、このあたりでは有数のダンジョン探索者の一人だ。

能力は「パーティー編成型」の能力らしい。

簡潔に説明すれば、パーティーの人数が多ければ多いほど彼女は強くなり、彼女が強ければ強いほど味方は強くなる。

そのバフの量はもちろんの事、他に特筆するべき点として、覚醒者以外もこの対象になり得ることがあげられる。

それを利用し、覚醒者と非覚醒者を混合した何十人単位のパーティーでダンジョンの奥深くまで潜るそう。


彼女のパーティーに入れてもらえれば、容易にダンジョン探索ができる。

非覚醒者も混じっている以上、レベルが低いことはなんの問題にもならないはずだ。


「ああ、一之瀬さんのことですね。あの人たちは今、梅田に遠征に向かっていて...」

「梅田か...」

「はい」


梅田。

言わずと知れた大阪一の都市。

そして言わずと知れた『魔都』。


ここから歩いていくにはかなり遠い。半日はかかるだろう。


「帰ってくるのを待つつもりだったんですけど、数ヶ月後とかになりますから…」


ちょうど、近くに覚醒したての俺を見つけたから連絡した、ということだろう。


「配信には映っていいんですよね?」

「はい。出ても構いませんし、画角出ずに裏方に徹しろというのならそれでも構いません」

「いや、構わないんだったら出て欲しいな」


この可愛さなら、見た目だけで十分視聴者を獲得できるだろう。出さないのは勿体ない。


「じゃあパーティ組んでくれるってことですか!」

「ああ、よろしくね」


姫宮ひめのみやあおい佐枝さえだあや

初心者パーティの結成だった。






第12話 知人

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