第11話 DM




「なぁ姫宮」


初配信を行った日の次の日。

昨日の探索の疲れと怪我を療養する、という名目で今日は配信はしていない。


教室でゆっくりと過ごしていたその夕方。

黒川が話しかけてきた。


「なに?」

「あおチャンネルの公式Twitterアカウントに、DMが来てるんだよ」


黒川はパソコンの画面でTwitterを見せながら話してきた。


配信の告知や、拡散を目的とした公式アカウントだ。

配信の概要欄にリンクを貼っておいたとはいえ、フォロワーはクラスメイト合わせて50人ちょっとしかいない。


「DM?」

「どんなの?」

「見せて見せて」


俺たちの話を聞いて、周りにいたクラスメイトたちもよってくる。


みんなに囲まれながら、見せられたDMの画面を見る。

差出人は「ぶらんち」なるアカウント。


『初めまして。DM失礼します』

『あおチャンネルの配信をアーカイブで見させて頂きました』

『私は法院女学園の高校2年生で、あおさんと同じく最近能力に覚醒した覚醒者です』

『レベル1で戦闘力がなく、一緒にダンジョンに潜ってくれる仲間を探していたところ、あおさんの動画を見つけました』

『良ければパーティーを組ませて貰えないかな、と思って連絡しました』

『興味があればご返事ください』

『よろしくお願いします』


1文ずつに区切られたメッセージ。

その内容は、パーティーのお誘いだった。

俺が昨日配信を始める前に悩んでいた問題だ。同じ状況にいるのだろう。


覚醒した段階で、魔法が使えたり、能力が使えたりと戦闘力のある覚醒者も多い。

一方で、俺みたいに覚醒直後は戦闘力が無いに等しい人も多くいる。

それは覚醒する能力しだいだ。


「ぶらんち」さんも後者の人間だったのだろう。


そして、その「ぶらんち」さんは法院女学院の生徒だと名乗った。

俺たちが今いる聖城学園の、道路を挟んで反対側にあるのが法院女学園だ。

避難所の外を移動出来る俺からすれば、会おうと思えばすぐに会える。だからこそ連絡してきたのだろう。

おまけに高校2年生だという。俺と同い年だ。


「いいじゃん。仲間探してたんだし」


DMを読んだクラスメイトが声を上げる。


その通りだ。今日の調子なら、やはりまだダンジョン入りは危険が大きい。

依然として、仲間が居ればいいことに変わりない。


と思っていると、別のクラスメイトから声が上がる。


「いやぁ。スルーだろ」

「法院女学院だしね」

「法院生仲間にするのはナシで」


反対意見がチラホラと。


「なんでだよ!お前ら法院嫌いすぎだろ」


黒川が反対したクラスメイトたちにツッコミを入れる。


反対したヤツらには、恐らく論理的な理由などない。ただ法院女学院が嫌いなだけだ。

これは昔から続く学校同士の確執みたいなもの。道路挟んで目の前に、同じくらいの偏差値の男子校と女子校が並んでいると、何かと目の敵にするらしい。

強いて言えば「法院女学院を嫌うのが聖城学園の伝統だから」と言ったところか。


まぁ憎しみあっているわけでもなければ、本気で言っている訳でもない。

一種のお約束みたいなものだ。


「取り敢えず返事していいんじゃない?」


だから、黒川のツッコミだけで反対派の意見はスルーして、話を進める。

DMの返事くらいはしていいだろう。


反対派からブーイングが飛んでくるも、概ねみんな賛成のようなので、返事をすることにする。


「なんて返すの?」

「能力とか聞いたら?」

「こういう事詳しい人~?」

「この中に女子と連絡取り合ってるやつなんていねーよ。同級生の女子はこの避難所にいないんだから」

「白峰、宿泊棟のお姉さんと付き合ってるよ?」

「「「は?」」」

「やはり時代はおねショタか...」

「お前ら真面目に話し合えよ」


『DMありがとうございます。パーティの件、前向きに考えたいです。配信に映るのは構わないという考えでいいですか?あと、良ければどういった能力かを教えて欲しいです』


「っと、これでいいかな」

「うん。いいんじゃないかな」


アホなことを話し合っているクラスメイトは放っておいて返事を書き上げると、一緒に画面を覗いていた白峰が頷いてくれる。


送信をして、騒いでいるクラスメイトを眺めていると、すぐに返事がかかってきた。


『お返事ありがとうございます。私は配信にうつっても全然構わないです』

『能力は回復魔法が使えるのと、ステータスの成長に補正が入る能力です』


「可愛くない女の子は配信に映しても意味ないぞ」

「そうだそうだ。姫宮は顔が整っているからいいけど、法院生が可愛いわけないからな」

「お前らいつまでそれ続けんの?」


返信にたかってきた反対派が変わらず野次を飛ばしてきて、赤城がジト目で返す。


「でも回復系はええんちゃう?葵の戦い方けっこう危ういし。見ててヒヤヒヤするもんなぁ」

「成長補正はチートがお決まり。今のうちに囲っておこう」


この「ぶらんち」さんは、回復魔法と成長補正の能力だったため、一人で探索に出れなかったのだろう。

確かに、後方から回復してくれる人がいてくれれば、探索の安全性はグッと下がる。

ダンジョンに潜ることも一気に現実的になってくるだろう。


ただ、今後俺がアビリティで能力を獲得しないとも限らない。

そうなれば必要なのは、隣で共に戦ってくれる仲間だ。


どうするべきか。


「一回会えば?会って話してから決めればいいじゃん。すぐそこなんだし」


俺が悩んでいると、クラスメイトが助言してくれる。

確かに。ネットで接触してきたため考えていなかったが、相手は目と鼻の先にいるのだ。


「でも直接あったら、もうほぼ断れないよ?」

「そもそも仲間にするデメリットなんてほぼねーだろ。よっぽどやべぇヤツだったら無理にでも断りゃいい」


そうだ。別に他のことが出来る仲間が欲しければ、後から探せばいいのだ。

そう思って、言われた通りに返信する。


『よかったら一度会って話がしたいです。俺の方から法院女学院まで向かうので、会えませんか?』

『もちろん構いません。今からでしょうか?』

『いや、もうすぐ日も暮れるので、明日以降にしましょう。明日以降でぶらんちさんが都合のいい日で構いませんよ』

『では明日の13時はどうでしょうか?』

『分かりました。13時に校門に向かいます』


こうして、俺は仲間候補の女子高生と会うことになった。






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