第8話 ダンジョン




初めての戦闘のあと、さらに何回かの戦闘を終えた。

あれからさらにグール一体とゴブリン二体を倒した。


それと同時に大通りを北に上り、目的地に到着した。

上本町ダンジョンである。


上本町駅のほど近くにある児童公園だった場所、そこに生まれたダンジョンである。


ここら一帯では比較的魔物の強さが弱いらしい。

また、聖城学園や法院女学院を初めとしたこの辺りの避難所にいる覚醒者が何人も探索をして、内部の情報もそれなり出回っている。

そういった背景から、最初に潜るダンジョンとして、越智兄弟と仲深迫に勧められた場所だ。


距離的には徒歩10分程の距離だったが、魔物と戦ったり、休憩してコメント欄と会話したりしていたので、学園を出てから一時間近く経っている。


「ってことで、ここが俺が最初に探索するダンジョンです」


ダンジョンの入口を、カメラで映しながら説明をする。


今日の配信は、このダンジョンまで来て、そのまま学園に帰る予定だ。

その道中で魔物と戦い、配信をするだけ。


初回配信で、能力のテストも兼ねているので、それだけにしようと話し合ったのだ。


しかしーー


ဗီူ68人が視聴中

苔お歳『入らないの?』

じゃがもい『今日は街中だけ?』

76A13『今日はテスト配信だから安全のためにダンジョンは入りません』


「いや、入ってみようか」


コメント欄を覗いて、俺はそう呟いた。


76A22『は?』

76A36『なんで?』


いや、なにもコメント欄に乗せられた訳では無い。


クラスメイト以外の視聴者が入ってほしそうだから、というのも勿論ある。

せっかく配信を見に来てくれたのに、街中の魔物と戦っただけ。街中では当然カメラは使えるので、他の覚醒者が同じことをしている動画は多少出回っており、新鮮さもないだろう。


そういった配慮は勿論あるが、それだけでは無い。


「ダンジョン内でも配信ができる証拠」として、この配信のアーカイブをネットに残すためだ。


先程も言った通り、街中の魔物を倒す動画なら、普通のカメラでも可能だ。

配信の冒頭でも、配信の概要欄でも、俺の能力【バズ・エクスプローラ】については説明した。

しかし、視聴者視点ではそれが本当か嘘かが、現状の配信では分からない。

と言うより、俺自身も本当に配信できるのかは分からない。


この配信でダンジョン内に入るシーンを残すことで、俺が本当に「ダンジョン内の映像を発信できる存在」であることを示すことが出来る。

今この配信を見ている視聴者がいる。偶然アーカイブに訪れる人もいるかもしれない。その人たちに向けたなのだ。


そう言ったことをカメラに向けて説明した。


ဗီူ67人が視聴中

76A2「一理はある」

76A45「そんなに焦る必要は無い。次の配信でも問題ないだろ」

76A21「俺は賛成。何よりホントにダンジョン内で配信が出来るかの確認は必要」

76A9「あおのコンディションはどうや?余裕あるんか?」

76A19「命懸かってるんやぞ。危ない」

76A33「上本町ダンジョンの浅いところは街中と危険度変わらないでしょ」


俺の発言に対して、クラスメイトたちが様々な意見をコメントする。


しばらくして、話し合うから待て、とコメントで指示された。

教室に集まっているクラスメイト達が緊急会議を開いているのだろう。

時々、クラスメイトたちからコメントで質問が届いてくる。

体力の消耗具合や、魔法がどれだけ打てるか、魔物と戦った感覚などだ。


最後の戦闘からしばらく経っているので、体力も回復している。

魔法のストックも体力と同じように、時間が経てば回復するようで、かなり余裕がある。


そういった返答をしながら待っていると、クラス会議が終わったようで、結論をコメントで言われた。


ダンジョンに入ってもいいが、内部の撮影が出来たらすぐに出ること。

理想は魔物と出会う前に引き返して、戦闘を避けること。


一応許されたのは、俺の意思が尊重されたのだろうか。

指示を理解して、ダンジョン突入の準備をする。


防具や木刀のチェック。再三のストレッチ。

ステータスの確認もしておく。


ーーーーーーーーーー

姫宮 葵


Lv.1


攻撃力:9(+2)

防御力:9 (+2)

体力:8 (+2)

速度:9 (+2)

知力:16

魔力:10

ーーーーーーーーーー


バフは+1から+2へと増えている。

同接人数が増えたからか、コメント量か、どちらかだろう。


入念な準備をしてから、ダンジョンの入口へと向かった。


公園の中ほどにある、地面に空いた大きめの穴。

いくつもの岩が重なり合って、ちょうど地下への階段のようになっている。


その階段を恐る恐る降りる。

すぐに地面があり、ダンジョンの中へと降りたった。


その中は不思議な空間だった。


車が二台並んで走れそうな幅の通路が真っ直ぐのびている。

壁は、人工的に石を積み上げたようにも、天然の洞窟のような剥き出しの岩のようにも見える。

外の光が入ってこず、光源がある訳ではないが、そこまで暗くもない。


初めて見るダンジョンの様相に、一瞬動きが止まるが、すぐにコメント欄に確認を取る。


「どう?配信続いてる?」


76A35『映ってるよ』

じゃがもい『凄い!本当にダンジョンの中が映ってる!』

苔お歳『バッチリですd('∀'*)』


コメント欄を確認しながら、少し奥に進む。

通路の先を見てみると、道が途中で分かれたり途切れたりしているようだ。

まさに文字通り「迷宮」の様相だ。


その様子をしっかりカメラに映す。

10秒ほど映せば十分だろう。約束通り早々に引き返そうとして、足を動かそうとしたその時。


通路の先から魔物が現れた。


「ゴブリンか」


エンカウントする可能性は織り込み済みだった。

予定外だが、早めに倒してすぐにダンジョンを出よう。


そう考えるも、その考えの甘さを突き刺すように、事態は動く。


もう一体。


ゴブリンの後ろから二体目のゴブリンが出てきて、こちらを見つめる。


戦闘態勢に移行した体を強ばらせながら、持ち前の頭の回転の速さを使って考える。


ゴブリンが、二体。


街中でゴブリンは三体倒したが、それぞれ一体ずつだった。


一体が相手だったから、魔法とヒットアンドアウェイを駆使して安全に倒せたのだ。

二体相手でも同じように立ち回れるか?


怪しいラインだ。

かなり危険を伴うことは間違いない。


かと言って逃げる選択肢も、リスクが高い。


ゴブリンは魔物の中では比較的敏捷性に欠ける。

と言っても、あくまでそれは魔物の中での話だ。

人間の平均的な速度と同じくらいは出せるらしい。


ステータスにして10前後。


俺が先程見た、自分の速度ステータスの合計は11。

俺が今ゴブリンと鬼ごっこをしても、突き放すことはできない。

持久戦になれば、体力に部があるのはゴブリンの方だ。


今すぐ逃げたとしても、逃げ切れるかどうか。

体力を消耗するだけして、その後に戦うとなれば最悪だ。


なら戦うのか。


戦うとしたらここで?

それとも地上までおびき寄せるか?


ダンジョンの通路はそこそこ広いとはいえ、そこそこだ。

この空間でゴブリン二人相手に大立ち回りは出来ない。


コレが逆に、もっと狭ければ一体ずつ相手取れたかもしれないが、残念ながら二体が並んで歩くだけの道幅は十分にある。


低レベル初心者がゴブリン相手に立ち向かう時は、なるべく間合いに入らないことが重要だ。

距離を起きながら戦いたい身としては地上に出た方がいいか。


このダンジョンの地上は公園だ。

十分な広さがあるだろう。


不安なのは障害物がある事だが…


ここまでの思考は瞬時に済ませたが、長々と迷っている時間は無い。


俺は決断をして、引き返した。


岩でできた階段もどきを駆け上がり、ダンジョンの入口から距離をとる。


木刀を構えて、戦闘態勢を取り、ダンジョンの入口を注視する。


目を離さないようにじっと。


じっと。


思いのほか、すぐには追ってこないようだ。


魔物は人間を見たらすぐに襲いかかる習性があるはずだが。

見逃されたか。


そう思い、一瞬気を抜いて。


しかしまだ警戒を解かないようにしながら、ここから逃げる選択肢を用意する。


公園の入口の方にも注意を払うため、視線をそちらに向ける。


その視線の先。


は?


この公園の唯一の出入口のところに、ゴブリンが一体。


先回りされたのか?

どうやって?


困惑が脳内を襲い、思わずダンジョンの入口を振り返る。


そしてようやく。

まるでタイミングを見計らったように、先程のゴブリンが出てくる。


一体目。そしてその後ろから更にもう一体。


計三体に増えたゴブリンに挟まれ、冷や汗がが頬を伝う。


クソッ

こんなことなら、さっさと逃げておけばよかった。


致命的なまでの選択ミスだ。


二体で躊躇していたゴブリンが三体。

その上唯一の出口は塞がれている。


初日にして、覚醒依頼最大級の絶望だった。











そして。


ダンジョンの入口からこちらを伺う二体のゴブリン。


その後ろから。


更にもう一体。




四体目のゴブリンが姿を現した。











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