第7話 魔物
インターネットが普及してから、ありとあらゆる情報が共有されてきた。
覚醒者や能力、ステータス画面について。ダンジョンについて。そして魔物の種類。
特に、地上に出てきた比較的弱めの魔物は、避難所にいる一般人も戦う可能性があるので、画像含めて多くの情報が出回っている。
魔物の種類に応じて名付けられ、情報が纏められ、戦い方が共有されている。
今、俺の目の前にいるのは、ゴブリンと名付けられた魔物だ。
避難所に襲いかかってくる魔物の中でも、定番の魔物で、いわゆるファンタジー世界の「ゴブリン」に見た目が似ているため、そう名付けられた。
しかし、断言しよう。
ヤツは決して雑魚モンスターでは無い。
通りの先にいるゴブリンを覗き見て、カメラでも映す。
「でっけぇ...」
まずはその体躯。全長2メートルを優に超える体の大きさ。
腕は丸太のように太く、身体は大樹のように大きい。
海外のボディービルダーなど、奴らの前では子供に等しい。
青白さと薄抹茶の間のような肌の色だが、その姿かたちは二足歩行の人型だ。
その見た目がゴブリンに似ているだけで、相対した気分では凶悪な鬼である。
ハリウッド映画なら、ラスボスか最強キャラにでもいそうな生き物だ。
避難所で見る時とはまた違った緊張感と恐怖に、身体が強ばる。
木刀を握る手に力を込めて、震えを止める。
「勝てそうになかったら全力で逃げよう」
幸い、機動力は高くないらしい。
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76A8『普通に怖い』
76A11『気を付けろよ』
じゃがもい『頑張って!』
76A42『距離保てよ』
コメント欄からも応援される。
クラスメイト以外の視聴者もコメントしてくれてるみたいだ。
心を決めて、恐る恐る通りへと出る。
ゴブリンはまだ気づいてない。
大丈夫。クラスメイトと何度も話し合い、戦闘のシュミレーションもした。
ゴブリン相手には、間合いを詰められると一気に難易度が高くなる。
距離を保ちながらヒットアンドアウェイ。
避難生活になってから、戦闘技術の授業もあった。
大丈夫だ。
息を殺して、静かに近づく。
ゴブリンの背中に、右手を向けながら。
距離は10メートル。
9メートル、8メートル、7、6...
気配に気づいたのか、ゴブリンが振り向く。
瞬間、全力で走り抜ける。
通り抜けざまに、手を伸ばして叫んだ。
「【
掌から紫電が走り、ゴブリンへと吸い込まれる。
その結果に目を向けず、身をかがめてゴブリンの横を通り抜ける。
すぐ側に魔物がいる気配に首筋がぞわりと震える。
そのまま十分な距離を走り抜け、振り返る。
ゴブリンはその場所に立ち止まったまま、小さく痙攣していた。
やはり!
クラスで予想した通り、【電撃】は生物に対して硬直効果がある!
と、安心するするも、すぐにゴブリンは麻痺から抜け出して、こちらに殺意を向けた。
その太い足を地面に踏みしめて、飛びかかってくる。
俺も地面を蹴って飛び退き、右手を伸ばしてもう一度。
「【
再び硬直に囚われるゴブリン。
俺は着地と同時に飛び出し、ゴブリンの元へと近づく。
ろくに動けないゴブリンの体に木刀を振り抜き、アビリティを発動。
「【
バチンッ、と鈍くもいい音がして、木刀が当たる。
そのまま通り過ぎて、再び距離をとる。
ゴブリンをみると、ちょうど動き出したところだったが、動きは少し鈍い。
【
一方、俺の方にも消耗はある。
どうやら魔法の【
少し休めば、もう少し撃てそうな気がするが。
【
ゴブリンがこちらへ向かってくるが、隙を作るために逃げずに立ち止まる。
ゴブリンが両腕を頭上から振り下ろす。
目を見開いてタイミングを注視し、攻撃を避けるように後ろへと飛び退く。
近接距離を太い腕が通り過ぎ、風圧が風を撫でる。
ゴブリンの腕が地面を殴り、その衝撃がビリビリと伝わる。
道路が砕かれ、飛んでくる砂埃に顔を叩かれながら、木刀を振り下ろす。
両腕を振り下ろした姿勢のゴブリンの脳天へと木刀が叩き込まれる。その瞬間にアビリティを発動。
「【
攻撃が効いたのか、ゴブリンがよろめいたまま動かないので、もう少し木刀を振る。
顔の左右に一度ずつ木刀を打ち込み、鼻先に木刀の先を突き刺しながら飛び退いて距離を取る。
木刀を構えて、ゴブリンの次の動きを伺っていると、顔を上げたゴブリンはそのままフラフラと体を
そのまましばらく待っていると、ゴブリンの身体は塵に解けて変わった。
魔物の死亡だ。
「ふぅ...」
ため息を一つつき、塵の中にある魔石を回収する。
魔物のコアであり、持ち帰ればガソリン等の代替として扱われる。
初戦闘が終わり、コメント欄を見ようとする。
しかし、その瞬間、道の先から新たな魔物が現れ、こちらを見つめた。
機動力に優れた、小型の四足歩行の魔物。
グールと名付けられた黒い魔物が2体。
慌てて木刀を構えて対峙する。
瞬間、2体のグールがこちらへ突進してくる。
「はやっ!」
反応出来るギリギリ。
木刀を振り上げ、左のグールにあてる。
すぐに急いで右手を構えて、早口で叫ぶ。
「【
右のグールが肉薄し、体を噛みつかれるかという所で、魔法を当てる。
距離を置こうとして、先程突進を止めた左のグールが再び突進してきていた。
魔法は使えず、木刀も間に合わない。
咄嗟に左足を振り上げて、グールを蹴る。
グールの軽い身体が蹴り挙げられて宙を舞う。
空中で身動きが取れないグールを追いかけ、今度こそ木刀を振るう。
「【
グールは地面に身体を叩きつけられ、クシャッという音と共に身体が潰れる。
すぐに振り向いて、先程魔法を当てたグールをみる。
まだ硬直から解放されずに、地面にころがっているので、動き出せるようになる前に近づく。
そのまま木刀を何度か振り下ろし、攻撃を与える。
グールの耐久はそこまでではないので、すぐに動かなくなり、塵となった。
もう一方のグールは【
今度こそ戦闘が終わり。
一応周囲を確認して、魔物がいないことを確かめながら、魔石を拾う。
特に問題はなさそうだったので、道の端に寄ってコメント欄を見た。
ဗီူ58人が視聴中
76A11『お疲れ』
76A28『いきなり連戦お疲れ様』
76A3『結構危なかったかな?大丈夫?』
nanashi『お疲れ様でした』
じゃがもい『お疲れ様!かっこよかったよ!』
76A8『怪我してない?』
76A44『アビリティかなり強かったな。一人でも魔物と戦えてた』
76A36『おつかれ〜』
多くのコメントに労われ、ようやく一息つく。
「ありがと〜!大丈夫、怪我もしてないよ。戦えそう。少し休憩したら行動再開するね」
そう返事をして、腰をおろした。
持ってきた水筒で水分補給をしながら、今の戦闘についてコメント欄と話し合い、反省会をする。
こうして俺の初めての戦闘は成功に終わったのだった。
第7話 魔物
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