第6話 初配信
校門前にやってきた。
この辺りーーというより外壁の近くには、交代制で人が常在している。
街中にいる魔物が、避難所に入ってこない保障もない。
それを塞ぐために、この人達が守衛として魔物を追い払うのだ。
武器を装備して、数の暴力に徹すれば、非覚醒者でも追い払うくらいはできる。
覚醒者が街中の魔物も間引いてくれているので、魔物の絶対数は少ない。
実際、魔物が避難所を襲ってくるペースも、1ヶ月に1,2回と言ったところだ。
高校生以上の避難民が交代で勤めているため、俺も守衛になったことがあるが、一度しか魔物と戦ったことがない。
その時も、何が何だか分からないうちに、ほかの人たちが追い払ったが。
現在の守衛の人達に、状況を説明して、校門を開けてもらった。
「頑張れよ!」
応援してくれた守衛のおっちゃんに手を振って、俺はついに避難所の外へ出た。
ここからは魔物の跋扈する危険地帯だ。
装備は身につけている。
仲深迫と越智兄弟から貰ったダンジョン産の装備だ。
防具は胸当てとすね当てだけの軽装備。
武器は木刀だ。
もっとしっかりとした武器もあったが、重くて扱えそうになかったのでこれにした。
片手でも振れるくらいの重さだが、ダンジョン産のためかも普通の木刀よりも硬く、耐久性もあるらしい。
校門から少しだけ離れたところで、立ち止まる。
ここなら、危なくなってもすぐに校内へ戻ることが出来る。
辺りを見渡して、魔物がいないことを確認してから、ステータスウインドウを開ける。
学校の外壁をバックにして、撮影を開始し、同時に配信も開始する。
「えーっと、配信開始できてる?」
ステータスウインドウとは別に、カメラの視点を指し示すホログラム的なものが出てきたので、それをカメラだと思い込み、そちらに向かって尋ねる。
ステータスウインドウの方には配信画面も映っており、俺の姿だけでなくてコメント欄も隣に存在する。
ဗီူ28人が視聴中
76A38『映った!』
76A14『できてるよ~』
76A3『OK!』
76A11『問題なし』
76A41『バフはどんな感じ?』
コメント欄でクラスメイトから返事が返ってくる。
クラスメイトたちのアカウントは、俺がクラスメイトだと分かりやすいように名前を統一している。
76期生A組の、76Aの後に、出席番号をつける形だ。
しばらく待っていると、同接が増えて52人になった。
クラスメイト達と、先程宣伝して回った避難民のうち、暇な人達が見に来てくれているのだろう。
この段階でステータス画面を開いてみる。
ーーーーーーーーーー
姫宮 葵
Lv.1
攻撃力:9(+1)
防御力:9 (+1)
体力:8 (+1)
速度:9 (+1)
知力:16
魔力:10
ーーーーーーーーーー
「お、バフかかってる!」
76A21『お、マジか』
「うん。知力と魔力以外に+1だけね」
微々たる量だと、苦笑して伝える。
「じゃあ、気を取り直して配信を始めます」
アーカイブとしてこの配信は残り、今後ほかの人たちが見るかもしれないので、そのつもりで配信するように準備している。
というより、今も見ているクラスメイト以外の視聴者に向けてだと考えよう。
「はい、こんにちは。はじめまして。あおと言います」
少し堅苦しいだろうか。
落ち着いて、聞き取りやすいようにゆっくり喋る。
「実は俺、昨日の夜に能力に覚醒しまして、その能力が、概要欄に書いてあるとおりーー」
見知らぬ人が見ている、と考えるとどうしても敬語で話しづらくなってしまう。
ゆくゆく慣れていけばいいだろうか。
不慣れながらも、能力についてと配信内容、配信する理由を大雑把に説明していく。
「というわけで、今日はテスト配信も兼ねて、街中を歩き回りたいと思います。魔物と遭遇したら戦ってみる感じで!」
一通り話終わって、歩き出した。
カメラーー代わりのホログラム的なやつーーが後ろから俺に付いてくる。
「ここは大阪の天王寺っていう街で、ここの学校が俺のいつもいる避難所です」
魔物と遭遇するまで、無言で歩くのもどうかと思おうので、街中を紹介しながら歩く。
クラスメイト達と話し合って決めたことだ。
「あっち側にも別の学校があって、その学校も避難所になってます」
学校前を通る大通りを挟んで反対側に、
男子校と女子校が隣合って存在する場所なのだ。
ここまで近いと、避難所同士の交流も少しあったりする。
次に、カメラを法院女学園のある方向から、大通りの先に移して、
「この道を進んだ先にある、あのビルがあべのハルカスですね。あちらも巨大な避難所になってます」
聖城学園の窓からも見える超高層ビル。
大阪以外の人も知っている人が多いだろう。
あのビルがここ一体で最も大きな避難所になる。
しかし、今回は用がない。
「今日はこの通りを、反対側に歩いていきますね〜」
あべのハルカスに背を向けて、歩き出す。
この道を北に登ったあたりに、ダンジョンが1つ存在するのだ。
今日はダンジョンに入る予定は無いが、視察も兼ねて、入口まで歩いていく。
入口で引き返して、帰ってくるのが今日の配信の予定だ。
車4台が並んで走れる車道のど真ん中を、歩く。
車一台どころか、人っ子一人居ない。
避難所生活になって以降、ずっと大勢の人たちと暮らしていたから、すごく新鮮な気分だ。
地下鉄の駅の入口を通り過ぎ、寺が建ち並ぶ風景を横目にしばらく歩いていた。
すると、通りを曲がった先を覗いた時、ようやく初めての魔物を発見した。
話をやめて、息を飲む。
もう一度、恐る恐る覗き見る。
間違いない。
魔物だ。
覚醒してから初めての、戦闘がやってきた。
第6話 初配信
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