第4話 許されざるレベリング
「いやぁ、参ったなぁ...」
帰り道の廊下で黒川が呟く。
「まぁ実際、僕たちがやろうとしていたのは仲間探しじゃなくて、強い人にレベリングの手伝いを頼んでたのと同じだったかもね」
白峰がそれに応える。
自嘲気味に話すのは、そうやって自分たちの情けなさを誤魔化すためだろう。
そう長く落ち込んでもいられないので、ありがたい。
「じゃあどうするんだよ」
まだ少し不満げな赤城が入ってくる。
仲間探しに失敗したなら、どうやって問題を解決するのか、という意味だろう。
「俺たちが足を伸ばせる範囲に、都合よく覚醒したばかりの初心者仲間もいないだろうしなぁ」
「同じ初心者にとっても、今の姫宮は仲間にするメリットなさそうだけどね」
「ぐぅ」
「ぐうの音は出るんだ...」
俺と同じ時期に覚醒した人が他にいれば、という俺の考えに、白峰が容赦なく正論を刺してくる。
しかしそうなると、いよいよ八方塞がりである。
迷宮に入れないのに迷宮入りである。
......このネタはお蔵入りだな。
「登録者が増えるまで、ダンジョン配信以外の動画をチャンネルにあげるとか?」
「それこそ無謀だろ。普通のYourTuberだったら究極のレッドオーシャンだぞ」
『原災』から時が経ちだいぶ元の生活が戻ってきているとはいえ、避難所生活に縛らるため娯楽も限られるようになってしまい、人々は以前より一層インターネットに籠るようになった。
その結果、ただでさえ多かったYourTuberやその他の動画投稿者は更に増え、激戦区となった。
ダンジョン内の動画を投稿できるという強みがあるならともかく、それを放棄しては、他の大勢のYourTuberと同じように埋もれるだけだろうだろ。
そうこう話しているうちに、A組の教室に戻ってきた。
教室の中では、クラスメイトたちが自分の席に座って、自分たちのスマホを触っている。
何やら真剣な表情だ。
教室に帰ってきた俺たちに気づいた一人が話しかけてくる。
「お、帰ってきた。どうだった?」
「断られたよ。こっぴどくね……みんなは何してるの?」
冗談めかして、仲間探しの結果を伝える。
それを聞いたクラスメイトたちが顔を上げて、様々な表情をこちらに向けてくる。
今度は俺が疑問を尋ねると、クラスメイトの一人がとんでもないことを口走ってきた。
「いやぁ、YourTubeのアカウントをみんなで作りまくれば、チャンネル登録者を増殖できるんじゃないかと思って」
「...天才か?」
「姫宮達が帰ってきてから試そうってなって、まだ複垢を作ってるだけだけど」
そうか。
別にYourTubeのアカウントはいくらでも作れるのだ。
もしこれが成功すれば、無限にスキルレベルをあげることが出来る。
スキルレベルをあげてもステータスは上がらないが、アビリティが獲得出来る。
戦闘に使えるアビリティーー魔法などが獲得出来れば、一気に進展する。
「よし試そう、早速試そう」
急いで教卓の元に戻り、実験を開始する。
黒川の指示に従って、一人目のクラスメイトが複垢で「あおチャンネル【ダンジョン探索配信】」を登録した。
登録者が増える。
46人から47人へと。
クラスが静かに浮き足立ち、実験は続く。
みんなが固唾を呑んで見守る中、チャンネル登録者数が1人ずつ増えていく。
そして登録者数が50人になった瞬間。
「あっ」
俺は声を上げた。
「レベルアップした...」
みんなが注目する中、俺はステータスウインドウを見せた。
ーーーーーーーーーー
能力
【バズ・エクスプローラ】 分類:配信スキル 付与者:呑天の女神
スキルLv.2
アビリティ:魔法【
ーーーーーーーーーー
スキルレベルが2に。
アビリティも、獲得している。
「「「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!」」」
クラス中が一気に沸き立った。
「やべぇ!チートだ!チート能力だ!」
「魔法来たァ!」
「登録しろ登録しろ!」
浮き足立ったクラスメイトたちが、一斉にチャンネル登録をしだした。
60を超え、70を超え、80を超え、100人の壁が見えてきたところで、
「あれ?」
俺はまた声を上げた。
さっきと同じように、みんなが顔を上げてこちらを見る中、俺はステータスウインドウを見せながら言った。
「戻ってる…」
ーーーーーーーーーー
能力
【バズ・エクスプローラ】 分類:配信スキル 付与者:呑天の女神
スキルLv.1
アビリティ:無し
ーーーーーーーーーー
レベルが、1に戻っているのだ。
レベル2に上がったときに得た魔法のアビリティも消えている。
「なんで...?」
誰かが疑問の声をあげる。
誰もがスマホから指を離し、困惑した表情を見せている。
俺も同じく困惑したまま、ステータスウインドウを触っていると、おかしな点に気づいた。
「あれ、これ...」
みたびステータスウインドウをみんなに見せる。
ーーーーーーーーーー
【バズ・エクスプローラ】
ダンジョン内外の場所を問わず対象者を撮影することが出来る。
撮影した動画は、ダンジョン外で任意の端末にデータとして送信できる。
動画配信サイトYourTubeのアカウントと連携後は、撮影と同時に配信を行うことも可能。
連携したアカウントのチャンネルを登録した人数、及び総視聴時間に応じて、スキルレベルが上昇。
スキルレベル上昇時アビリティを獲得出来る。
生配信中は、同時接続者数、及びコメント数に応じてステータスが上昇する。
コメントによるステータスバフはコメント数によって変動し、コメントの文字量は関係しない。但し、スーパーチャットは上位のコメント扱いとし、金額に応じてバフ量が変動する。
ーーーーーーーーーー
「ここ、前と変わってるよね」
俺はスキル説明文の一部を指さす。
そこにはこう書かれていた。
連携したアカウントの
「ほんとだ!」
俺の言いたいことを察した何人から声が上がる。
こんな些細なことまで記憶してる人は少ないだろう。
しかしうろ覚えながらも覚えている。
初めてこの文を見た時、この位置はこう書かれていたのだ。
連携したアカウントの
と。
「チャンネル登録者数」が「チャンネルを登録した人数」になっている。
そう説明すれば、他にも何人かが納得の声をあげる。
些細な言い回しの変更。
されど、今の状況から考えれば意味が分かる。
データとしてのチャンネル登録者数ではなく、チャンネル登録をした人間の数が参照されるようになったのだ。
たとえ一人で何回もチャンネル登録をしても、それは一人分と数えられる。
そうなるように、
登録者数を増殖して、レベルをあげるようなズルは許されないらしい。
それを理解したクラスメイトから、やはりまだ困惑の混じった声が聞こえる
「え、ナーフされた?w」
「能力って調整入るのか…」
「付与者の呑天の女神が介入してきたってこと?」
「呑天の女神って本当にいるんだ...」
「チート対応はやすぎるだろw」
どうやらこのレベリングは呑天の女神サマには許されなかったようだ。
第4話 許されざるレベリング
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