第3話 味方、足り得るモノ
黒川、白峰、赤城の3人と廊下を歩く。
ここは高校棟3階。俺らと同じ76期生達がいるクラスだ。
1学年5クラスでA組からE組まである。
「まずC組に行こうか」
という黒川の提案通りに、C組の教室にやってきた。
B組には覚醒者がいないのだ。
「C組の覚醒者って誰だ?」
「
後ろで赤城と白峰が話しているのを聴きながら、C組の扉をノックした。
「お邪魔しま~す。
扉を開けて声を上げる。
教室にいたC組の面々がこちらを見てくる。
クラス替えが無くなったから、クラスメイトとの仲は深まったけど、逆に他のクラスだとまだ緊張するな…
数多の目線に居た堪れなさを感じていると、教室から返事が帰ってきた。
「僕に用事かい?」
学年でも高身長で、優しげな顔の生徒だ。
「ああ少し相談があって...」
「ちょっと待ってくれ。すぐに行くよ」
黒川の言葉に、仲深迫はそう返事をして、近くに置いてあった防具を着込んだ。
ダンジョン産の防具だ。
しばらく教室の外で待っていると、防具を着込んだ仲深迫が出てきた。
「待たせたね。ちょうどダンジョンに向かうところだったんだよ。それで、相談って何かな?」
後ろ手に扉を閉めながら尋ねた仲深迫に、黒川が俺を指し示しながら話し出す。
「あぁ、うちのクラスの姫宮がな、覚醒したんだ」
その言葉を示すように、左手の甲の紋様を見せると、仲深迫は微笑んだ。
「へぇ!おめでとう」
「あぁ、ありがとう。それでだな...」
仲深迫の祝いの言葉に感謝を返し、黒川の言葉を引き継いで説明を始める。
俺が覚醒したこと。
覚醒した能力について。
その能力の問題点。
仲間を探してること。
全てを説明し終えて、改めて頼む。
「俺と一緒にパーティを組んで、ダンジョン探索をして欲しい」
「ふむ...」
俺の説明を黙って聞いていた仲深迫は、俺の頼みに対して答えを口にした。
「なぜ、僕が君とパーティを組まなければ行けない?」
「あぁん?」
喧嘩を売られたと思ったのだろう。後ろで聞いていた赤城がガンを飛ばす。
ガタイの大きな赤城が睨みを聞かせるだけで、かなりの迫力がある。
だが仲深迫は、優しい口調のまま返した。
「いや、なにも意地悪で言っている訳じゃないんだ。単純なメリットの話だ」
「メリット...」
「ああ。要するに、今の君はなんの能力を持たない、非覚醒者と同じ状態だ。そんな君を連れていくメリットが僕には無い。だからその他に何かメリットはないのか、と聞きたいんだ」
あくまで冷静に、理論的に拒否した理由を語ってくる。
「ある程度配信が軌道に乗れば姫宮も強くなれるんだ。それまでサポートしてくれれば、いつかは姫宮も頼りになる仲間になるはずだ」
黒川がそう返すも、自分で言ってて無理があると思っているのだろう。苦々しい表情だ。
「そのいつか、とは?配信が軌道に乗る保証もなければ、その未来の断定もできない。それまで君をサポートしろと?別に僕が仲間を欲している訳じゃないのに?」
案の定、仲深迫は俺たちの考えの甘さを指摘する。
その言葉に表情を歪めた俺らを見て、仲深迫は優しく微笑んだ。
「コレは君の為でもあるんだ。世間ではダンジョン探索がゲームかのように思われているけど、そんなに甘くない。どれだけ安全マージンを取っていたって、いつ死ぬかも分からない。死と隣り合わせの行為だ。実際に隣のクラスで死者が出たのは知っているだろう?」
仲深迫は優しく、ダンジョン探索の厳しさを諭してくる。
その優しさ、俺たちの考えの甘さを責め立てられる気がして、俺たちは顔を俯かせる。
「自惚れじゃないけど、俺はかなり強いと思う。普段潜っている場所は、常人ならまず絶対に生きて帰れない場所だ。それでも、それだからこそ、君の命を守りながら探索するなんて芸当、僕には出来っこない」
あくまで自分に不義があるような形で、優しく、されど明確に断ってくる。
いたたまれなくなって顔を逸らすと、隣の教室の前から、2人の男子生徒がこちらを見ていた。
「あ...」
「越智兄弟......」
俺の呟きに釣られるように、そちらを見た白峰がその名前を言う。
D組の覚醒者2人。
双子の生徒である。
ちなみに、仲深迫にパーティの誘いを断られたら、俺たちが次に向かおうと思っていた相手でもある。
自分たちに視線が集まったことを察した2人が、口を開く。
「話は最初の方から聞いていたけど、」
「俺達も仲深迫と同じ意見だよ」
俺たちが向かうでもなく、仲深迫と越智兄弟の3人に断られた形となる。
と言うより、この調子だと他の覚醒者も同じ意見だろう。
「だよなぁ…」
同じことを思ったようで、白峰がそう呟く。
重い空気が流れかけたところで、仲深迫がより一層明るい声で言う。
「まぁ、そんなに落ち込まないでよ。君たちから覚醒者が出たこと自体は歓迎したいんだ。応援ならいくらでもするよ」
その言葉に応じるように、越智兄弟がこちらに向かいながら話してくる。
「もちろん。情報やノウハウならいくらでも教えるし、」
「使わなくなった武器とかも譲っていい」
好意的に接してくれる3人の覚醒者。
考えを飲み込むように、黒川が口を開いた。
「ま、確かに仲深迫たちが正論だな。俺たちが無理言った」
「あ、ああ。ありがとう」
慌てて俺も、3人に礼を言う。
そう、そうだ。
彼らは至極真っ当なことしか言ってない。むしろ俺たちの方が自己中心的だったかもしれない。
覚醒、という初めて目の当たりにする出来事に、少し周りが見えてなかった気がする。
赤城だけまだ少し不服そうな顔をしているが、彼らの考えが分からない訳ではないだろう。
こうして俺たちの仲間探しの旅は失敗に終わることになったが、3人の覚醒者から、いくつもの有益なモノを譲り受けたのだった。
第3話 仲間、足り得るモノ
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覚醒者の数が少ないので、同時期に覚醒した初心者仲間はそうそう見つからないんですね。
いきなり現実を見せられるような展開ですが、この物語は基本的にはサクセスストーリーなのでご心配なく。
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