第17話 物語はハッピーエンドでなくっちゃな

 




「だ~クソ、あの面接官好き放題言いやがって! な~にが「履歴書と同じで頭の中身も真っ白ですね」~だ。テメエ等がいるような会社こっちから願い下げだっつうの!」


 公園のベンチにドガッと座りながら、メンハラしてきた面接官への文句を連ねる。

 ちっきしょう、ちったぁ履歴書以外で判断してくれるお優しい企業様はねぇのかよ。


 ないよな~そんな会社……。

 俺が面接官の立場でも、俺みたいな奴がノコノコ面接に来たら鼻で笑っちまうもんな。まともな会社ほど俺を雇うはずがねぇし。


「よぉ、頑張ってるみたいじゃねえか」


「刑事さん……もしかしてあんた、実は俺のストーカーとかじゃないよね? 身の危険を感じるんだが」


「馬鹿言ってんじゃねえよ、ほれ」


「あざっす」


 毎回のように突然現れる田中刑事から、差し入れで缶コーヒーを渡される。今度はブラックじゃなくてカフェオレだったぜ。


 刑事さんも俺の横に座ると、カシュッと缶コーヒーを開けてクイっと呷った。


「どうなんだ、感触の方は。一つぐらい良いのあったのか」


「ぜ~んぜん。門前払いって感じっすよ。午後からもう一件面接あるんですけど、ドタキャンして家でゲームしたいっす」


「でも、行くんだろ?」


「……そうっすね」


 約束しちまったからな、ちゃんと働くってよ。

 でも本音を言うとすんごく行きたくない。家に帰ってアニメ見ながらポテトチップス食べてコーラをがぶ飲みしたいよぉ。


「んで、なんすか。わざわざ励ましに来てくれたんすか」


「一応関係者だったお前さんには伝えておこうと思ってな。西園寺グループの会長、西園寺十蔵が捕まったぜ。ついでにドラ息子の方もな。親子揃って、相当無茶苦茶なことをしていたらしい」


「あ~それ、ネットニュースで見ました」


 ポチポチネットサーフィンをしていたら、『西園寺グループ会長、政治家との黒い癒着!?』みたいな見出しのスレがあがっていて、気になってヤ〇ーニュースを見たら大々的に取り扱われていたんだ。


 記事の内容は、西園寺十蔵が会社の資金を政治家に渡していたとか、他にも色々罪状があがっていたな。パパさんだけじゃなくて、あのとっつあん坊やも芋ずる式で捕まったらしい。


 それを知った時は、ざま~みろ~! ぶひゃひゃひゃひゃ! って小躍りしながら笑ったよ。


 天罰ってあるもんだな。やっぱりお天道様に顔向けできないことはするもんじゃないよ。


「正直、上が検挙に踏み切ったのに驚いたぜ。あれだけ西園寺家のバックを恐れていたのにもかかわらず、コロッと方針を変えちまうんだからよ」


「ふ~ん。どっかの誰かが化物退治でもしたんじゃないっすかね~、知らんけど」


 でもまさか、あのガキが居なくなった途端に真っ逆さまに転落しちまうとはな。


 へっ、化物を盾にして好き放題する代わりに、家族を売るようなゲスい真似をしていたからバチが当たったんだよ。


「なんにせよ、悪い事はするもんじゃねえな」


「同感っす」


「お前さんも気を付けろよ。またなんかあったら、今度は俺が手錠をかけてやるからな」


「やだな~悪いことなんてしませんって~」


「そうかよ。んじゃ俺はもう行くぜ、面接頑張れよ」


 そう言って、刑事さんは缶コーヒーを呷ると渋い感じに立ち去った。



「面接か~、行きたくね~な~」



 足を投げ出し、ベンチの背もたれに背中を預けて顔を上げる。

 空はこんなにも晴れているのに、俺の未来は相変わらず真っ暗で困っちまうぜ。


「おじさん」


「ん?」


 聞き慣れた「おじさん」と呼ぶ声に反応して顔を向けると、そこにはナナがいた。オシャレな服に身を包むナナは、やっぱり若手女優並みの可愛いさがある。


「久しぶり、元気にしてた?」


「そうだな、ぼちぼちってところだ。ナナはどうなんだ」


「私もそんな感じ」


 ナナとはあの日以来、一度も会ってなかった。

 お互いに連絡先を交換した訳でもないし、俺から訪ねに行くのもちょっと恥ずかしかったんだよな。


「就活、頑張ってるの?」


「まぁな。どっかのお嬢様におケツ叩かれちまったんだ、頑張るしかないだろ」


「うん、それはいい事だね。ねぇおじさん」


「なんだ」


「私、アメリカに留学することにしたんだ」


「お~いいじゃねぇか。そういや海外に興味あるとか言ってたもんな。お前はもう自由なんだ。どこへだって行けるし、やりたいことも好きなだけやればいい。ボーイフレンドの一人や二人つくってこいよ」


「ふふ、流石に二人はマズいでしょ」


 う~ん、流石にマズいか。

 まぁ、ナナなら向こうの方から言い寄ってくるだろ。逆ハーレムだって夢じゃないんじゃないか。


 そんな事を思っていると、サバサバ系女子のナナらしくなく、やたらとモジモジしながら聞いてくる。


「それでね、おじさんさえ良かったらなんだけど……私のボディーガードにならない?」


「なんだそれ……ボディーガードはもうお役御免だろ」


「もう、察しが悪いなぁ! おじさんについて来て欲しいって言ってんの!」


 頬をほんのり赤く染めながら言ってくるナナに、俺は目を見開いた。

 内心すっごく嬉しいし、ナナと一緒に行けばめちゃくちゃ楽しいんだろうけど、俺は笑顔を浮かべてこう答える。


「悪いが、その話には乗れねぇな。英語だって喋れねぇし」


「そっか……」


「行ってこいよ、ナナ。お前はもう一人でだって大丈夫だ。ナナとデートしたこの俺が保証してやる。絶対上手くいく」


「……うん! そうだね! おじさん、私行ってくるよ!」


「おう」


 はっ、やっぱりナナはそうでなくっちゃな。俺なんかに頼らなくてもへっちゃらなんだ。


「あっ、そう言えばこの指輪どうしようか。おじさんに借りたままだったけど」


「お前にやるよ。首にかけなくっても、キーホルダーみたいに側に身に着けておけばいい。お守りみたいにな」


「いいの? おじさんにとっても大事なものなんでしょ? 相棒だって言ってたじゃん」


「いいんだよ」


 確かに俺にとってそれは異世界での思い入れがある大事なものだ。けど、俺にはもう必要ねえし、ナナの身の安全を守るには必要なもんだ。

 必要な人間が持っている方が使われる物だって嬉しいだろ。


「そっか、じゃあこれをおじさんだと思って大事に身に着けておくね」


「そういうの恥ずかしいからやめてくれる? そんなつもりでやるんじゃね~からな」


「ふふ、分かってるってば。じゃあおじさん、私もう行くね。そろそろ飛行機の時間だから」


「おう、行ってこい」


 そう言うと、ナナは立ち去ろうとする。

 しかし何故か立ち止まると、振り返ってこっちに歩いてきた。


「そういえば忘れてた。おじさんに渡す物があったんだ」


「別にいいって」


「いいからいいから! 驚かせたいから目を閉じておいて」


「しゃあね~な~。ほら、早くしてくれよ」



 言われた通りに目を閉じる。

 すると、チュっというラブコメみたいな音とともに、頬に唇のような柔らかい感触が伝わった。

 おいおい、今のって……。



「ふふ、私を助けてくれたお礼だよ」


「……」


「バイバイ、おじさん!」



 驚いて何も言えない間に、ナナは手を振り走り去って行った。

 あの時のような泣き顔じゃなくて、満面の笑顔を浮かべてな。


 ったく、あのマセガキめ。

 不意打ちとは卑怯な。チューなんかされても全然嬉しくないんだからね!



「ははっ、やっぱり物語はハッピーエンドでなくっちゃな」



 ナナの楽しそうな笑顔を見れて、心の底からそう思った。



「よっしゃあ、面接行くかー!」



 単純な男である俺は元気を取り戻し、ベンチから立ち上がる。


 そして、未来に向かって一歩踏み出したのだった。










































「あの~、頬にキスマークついてますよ」


「ふぁ!?」




 完




ご愛読ありがとうございました!


いかがでしたでしょうか?

楽しんで頂けたら幸いです!


個人的にも、この作品は今までの中でも一番上手く纏められたんじゃないかと思っています。あとやっぱり、クズ主人公を描くのは凄く楽しかったです!


よろしければ、次回作も目を通していただけると嬉しいです!


フォロー、評価していただきありがとうございました!


モンチ02

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IWAS HERO~異世界帰りの元勇者は三十歳で無職だし昼間から酒飲んで職質されるどうしようもないクズだけど、女の子が泣いていたら助けにいきます~ モンチ02 @makoto007

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