第7話
「散々な目にあいましたよ」
「同じく」
俺君達は届いた数千件のお便りを全て捌き切るというとんでもねえ耐久をしていたらしく、その途中で若干眠くなってきたので抑えが効かなくなっていたのだとか。とばっちりも良いところなのだが、それによって暴走した彼らに蹂躙されることで十時間程度のフライトは幕を閉じた次第だ。
「ふふ、楽しかったわよ」
「なんか肌が綺麗になってるよフーカ」
「なんでかしらねえ?」
「......こんなもんでしかとれない栄養分を摂取しないでいただいても?」
「うふふ」
なんだかお肌がツヤツヤになっているフーカさんであるが、その分こちらは体力が吸い取られていたのだ。
「にしてもそろそろ迎えが来ると思うんですけどね」
私達が来るときに合わせて社員の方が迎えに来てくれるという話を聞いていたので言われた場所にのこのこやってきた訳なのだが、何処を見渡してもいない。
「社用車って聞いてますけど......居ませんね」
「あれじゃね?」
「え?」
彼女が指をさした先にあるのは何台かのトラック......それも弊社の物ではなく、他の会社のロゴが入ったやつに家族連れと思わしきピックアップトラックやバン。
「えーと、どれですかね」
「違う。あの路駐してる車」
「え、アレですか?」
路肩に停まっていたのは社用車らしからぬ風貌を持つシボレー。あんまりアメ車には詳しくないものの、その大型で重厚感ある2ドアのクーペボディと細く窪んだグリルから覗く細い瞳からスポーツカー、それもいわゆるマッスルカーと呼ばれる車であることは解る。
「だけどあれで来るなんてことあります?多分カマロですよ?」
「でもさ、あの中に居るのって多分山崎さんじゃない?」
「ほんとねえ」
「何してんだあの人」
山崎さんとは、3D祭の時に一緒にターレを乗り回した開発部門のスタッフさんである。一応同じ開発部門である為に私の同僚なのだが、基本的に弊社開発部門は個人或いは少人数で開発業務をこなしているので此処に来ているとは知らなかった。いや、一応把握はしていたのだが迎えに来るとは思ってなかったという感じである。
「......それも寝てるし」
「凄いよく強盗に遭わないわね」
「多分あの車にはめ込まれてるガラス、強化ガラスだぜ」
車に向かって歩いていると、ふとうたねさんがそんなことを呟く。
「実は強化ガラスの四隅って光が当たると屈折云々の関係で虹色っぽくなるんだよ。この辺は水姫ちゃんが詳しいと思うけど、それが見えたのと後はシンプルに若干ガラスが分厚いなって」
「そこまで見えるものなんですか?」
人の顔が判別できる程度の距離ではあるもののそこまで見ることが出来るものなのか......?
「この子睡眠時間がとてつもなく長いから物を見る時間が少ない上に外にも出ないから太陽の紫外線を見ることもないのよ。だから体質もあるけど目にかかる負担が普通の人より全然少ないのよ」
「解説ありがとね。まあそゆことだよ」
配信でブルーライトがガンガンに放出されてる液晶見まくってるはずなのにおかしいな。
「っていうか社用車に強化ガラス埋めてる弊社が一番おかしい気がするんですけど......まあ弊社だからなんらおかしくはないか」
「そうだよ」
「皆洗脳済みだったのね......」
*
「あー、強化ガラスに関しては結構重要な機材扱ったりするので全車に装備させてるらしいです。車種に関しては社内で予算をもとにアンケートした結果これになりました。一応ピックアップトラックやバンなんかもあるんですけど今これしかなくて」
「ほう」
「とはいってもお金がないということで中古になったそうです。カマロZL 2017とかそんな感じのモデルだった気がしますが.....まあマニュアルでパワーもありますので何とかなると思いますよ」
「.......」
これまでこういう大排気量でゴリゴリにトルクが叩き出されますという車に乗ったことがなかったので正直出来るのであれば日本車......それも出来ればあんまり大きくない奴でお願いしたいのですが。
「ちなみにパソコンってどうなってます?」
「取り敢えず大量のhpとDELLが転がってます。一応申し訳なさ程度にグラボが載ってますけど」
どちらもアメリカの大手パソコンメーカーで、日本市場向けにも数々の製品をラインナップしているのだがここで少し嫌な予感。
「キーボード仕様は?」
「英字キーボードです」
「......」
「そういえばマヤさん、英字キーボードアンチでしたね」
「アンチっていうか苦手なんですよ。Enterが細いのと記号の順番が
「あー」
既に帰りたくなって来た。
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