第6話


「なんかスイッチ入ってませんかこの人たち」


「入ってるねー」


 なんとなく不吉な笑みを浮かべている二人はそのまま私達の固定コメントを吊るし上げるように配信画面に並べ、若干の裏をはらんだ声で囁く。


『これで俺達の手の中だな♡』


『もう逃がさないから♡』


: ?!?!?!?!

: 俺君のヤンデレボイスはレア

: 水俺はさっぱりしてる感じだからギャップあって良き

: 待ってました

: 覚醒回

: きちゃ

: やっべ興奮してきた


 そして加速し始めるコメント欄。

 

「わあすごい」


「飢えてんのかよこいつら......」


 確かに現実を知ってしまっていると話は別だが、こうしてイヤホン越しに聞いている俺君の声は中々心地の良いものである。そして安定した低音の上に重なり合う水姫の高く、しかし耳が痛くなる程の高音ノイズはしっかりと除かれた声が私の頭に心地よく響き――――。


「普通に声良いですねこの二人」


「そうなんだよなあ」


 確かに彼らのさっぱりとした雰囲気の配信スタイルでは重い愛を求めたリスナー達は満たされないかもしれない。そして今回のこれである。

 現実を知らなければ尚、世界に没入することが出来る為にリスナー達の酔いは抜群だろう。


「っていうか現実を知っていて尚此処まで引き摺り込める俺君たちが凄いですよ」


「確かになあ。というか俺先輩がこういうの好きなんじゃないかな」


「ほう?」


「まあなんつーかさ、ぶっちゃけ中身の顔見てなければどんな声でもキャラクターとして成り立つのがVTuberなんだよ。俺先輩はそれを最大限に引き出している」


 そんな肯定しているとも蔑んでいるとも捉えられるような返答。しかし彼女の言っていることはある程度合っていて、そして間違ってもいた。


「声って言うのもありますけどやっぱ雰囲気作りは上手ですよね」


「そうだね、確かにどちらかと言えばそっちかもしれない。いずれもバーチャル体の恩恵なんだけどね」


「便利な世の中になりましたねえ」


「開発者が何を言う」


 しかしそんな会話を聞いていない二人はそのペースなまま話を進め、私達を好き勝手にし始める。


『さて、日頃の恨みを晴らさせてもらおう』


 そして俺君は質問を焚き上げる為の焚火アニメーション.mp4を配信画面上に召喚、同じくmmdで作成された私とうたねさんの素材をその上にそっと乗せる。


「やりやがったなこの野郎」


「マジか許せぬ」


 そして互いに抱えた端末へと指を滑らせ、それぞれのキーボードとタッチパネルに入力信号を叩き込む。


【夜桜マヤ】: ヤメロー!シニタクナーイ!


【月待うたね】: 謀ったなっ、水姫っ!!


『此処でもカ○ジネタとガ○ダムネタを挟むとは』


『それもア〇ギとファーストガ○ダムなんで最近の子は知らないと思いますよ先輩』


 詳しくはGoogle大先生のもとに行き『ダメギ』と『謀ったなシャア』

で検索してみよう。前者はニコニコな大百科、後者はピクシブ大百科できっと見つかるはずだ。


: 草

: ニッチだなあw

: はえー勉強になるわ

: マヤさん笑顔で鼓膜差し出してきそう(小並感)


「このままだと蹂躙されてしまうっ......!!」


「ふふ、ちょっと待ってくださいようたねさん」


「何?!」


「忘れちゃいませんか?この幻想を創り出した管理人権限持ちオペレーターが誰であるかを」


「......!!」


「そして我々の中で最も恐るべし人物————フーカさんが寝ている今ならっ!!」


「俺たちは無てk」


「起きてるわよ」





『んでフロン、こいつらは俺達の方で調理するから少しコテハン付けて放置しておいてくれないか?』


『私からもお願いします、フーカ先輩♡』


 いつも通り落ち着いた声で淡々と要件を告げる俺君と上目遣いでフーカさんにおねだりをする水姫。どうかやめてはくれないだろうか。


「で、なんで私が恐れられているのかしら?」


 うっすらと浮かべた笑みに何となく寒気を感じながら、私はせめてもの抵抗に堂々と答える。


「貴女が調教師だからです」


「そうだぞテイマー。いや、うちのライバーを相手にしてんならビーストマスターか?」


「ここで乗っかった上に煽るとかマジですか」


「散々な言い草ねえ」


「事実だろ」


 エンジニアとして派遣された私と違い、この二人はライバーのケアやサポートを一時的に行う為に送り込まれたのだ。スタッフではなく、やはり実際に配信の経験を積んだ先輩が居るのと居ないのでは大分差が出てしまうという上層部の判断である。


 そしてその中でも炎上リスクをギリギリまで攻めることの出来るうたねさんとに特化したフーカさんの二人を選び、私と共に出張させることにしたのだそうだ。

 確かに弊社ライバーのメンタルケア......まあ弊社社員とはいえエゴサなんかによって病みがちなライバーに対して上手な考え方を上手く刷り込めるような人物なので確かに猛獣使いビーストマスターかもしれない。


「だけどねえ、私とてそんな魔術みたいなことは出来な......」


「いやお前魔術師だろ」


「......」


【フロンティスカ・ディストルーラー@良かったらプロフ見て♡】: 今話し合ったけど反省の色が見えないから好きにしちゃって良いわよ


『よし水姫』


『面白くなってきた♪』






――――――――――





作者です。少し高校生活に向けて動かなければならなかったので更新が遅れてしまいました。

取り敢えず今回は前回まで書いていた内容を思い出すために前回の内容に近いものとなってしまいましたが、次回からまた進展させていく予定ですのでよろしくお願いします。


そして春から新生活をされる皆様、応援しています!!


と、まだまだ未熟者なボクが言えたことではないんですけどね。

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